ランク別武闘大会・開幕

〜特別クエスト・武闘大会開幕〜

 〜木枯月・ランク別武闘大会開幕〜

 

 私は目を覚ましてすぐにカーテンを開ける。 寝起きの瞳に、日光が刺さるように入り込む。


 目を細めながらも窓の外に広がる青空を見上げた。

 

 ……大・快・晴!

 

 ベッドから飛び起き、渾身のガッツポーズをする。

 

「っしゃあぁ!」

 

 今日は私にとって、今後の運命を左右する可能性があるほどの大切な日。


 すぐにクローゼットを開いて今日着て行くべき正装を選ぶ。


 しかし、待ち合わせをしている以上、選ぶのに時間を取られるわけにはいかない。

 

 ……あのお方は、一体どういう服装が好みなのだろうか?

 

 私は家にある服の中で、最も気に入っている一張羅を選択する。


 この服は、買って満足してしまい長く封印していた。


 眠らせていた一張羅に恐る恐る袖を通し、鏡の前に立ってみる。

 

 ……むむ? 服に着られている気がする。

 

 待て待て私! 洋服に時間を使うよりもお化粧に時間をかけた方がいいに決まっている!


 あぁだがしかし! こんな服を着て行って、待ち合わせ場所に行った時に引かれたらどうしよう!


 そんなことを一人で思っていると、ふと思った。

 

「デートに行く時って、みんなこんな気分なのかな?」

 

 転生する前は色恋沙汰など一切なかった。


 この世界に来て、私は見違えるほど可愛くなったと言うのに、今だにデートなどしたことがないのだ。

 

 ……どうしよう。

 

 結局、この後てんやわんやし、待ち合わせには十分遅刻する事になる。

 

 

 ☆

 時は数週間前にさかのぼる。

 

 それは、季節が変わり木枯月こがらしのつきになった一日目の事だった。

 

 そう木枯月……食欲の木枯月、読書の木枯月、運動の木枯月。

 

 そして、この世界ではこうとも言う。

 

 ——————闘争の、木枯月!

 

 冒険者協会の掲示板前には人だかりができていた。


「とうとうこの日が来たぞ!」


「今回は誰が優勝するんだろうな!」


「まぁ考えるだけ無駄だぜ、今回もあいつらがぶっちぎるに決まってんだろ?」

 

 私はにやけながら歩き出す。


 気配を消し、掲示板の前で騒ぐ冒険者たちの背後に回る。

 

「う、うわぁ! セリナさんだ! 腹黒女王が掲示板を見に来たぞ!」


「今回も大暴れするつもりなのか?」


「今回こそ俺は! メルさんを勝利に導いてみせる!」

 

 しばらくして私の姿に気づいた冒険者たちは、明らかな動揺を見せる。


 というか、誰だ私を不名誉なあだ名で呼んだのは。

 

「ちょっと! 聞こえてますよ? あと、私のことを腹黒女王とか最初に言った人の名前をさっさと教えてもらっていいですか?」

 

 腹黒女王なんて不名誉なあだ名、誰につけられたのやら……


 そんなことはさておき、私は掲示板の前に移動すると、貫禄のある表情で腕を組み、仁王立ちする。

 

「さあ皆さん! とうとうこの季節がきましたよ?」

 

 私の声を聞き、冒険者協会の至る所から冒険者が現れ、自然と私の後ろに集まってくる。


 そして、瞬く間にそうそうたる面々が集合する。

 

「セリ嬢、今回もぶちかましてやろうぜ!」


「僕がお役に立てればいいんですが……」


「銅ランクになった僕の実力! 存分に発揮します!」


「セリナさんの担当になった以上、恥を欠かせないようにしなければ!」


「今年もうちが楽勝に勝たせてあげっからね!」


「後衛の私は関係ないけど……セリナ組として言わせてもらうわ! で、よ! ——あっごめんなさ……」


「俺たちも今回こそは」「活躍してみせる!」


「また、わたくしがセリナさんのお役に立てる時が来ました。 日頃の御恩を、ここでお返ししましょう!」

 

 私の担当冒険者の内、武闘派の前衛たちが後ろに並ぶ。(一部のつまんないダジャレ言ってる野次馬を除く)


 木枯月、今日から二週間の間、私たちはこの冒険者協会の話題を持ちきりにするであろう!

 

「今回もランク別大武闘大会、気合い入れていきますよ!」


「「「「「おお〜!」」」」」

 

 私たちの気合の雄叫びが、協会を揺らす。


 木枯月のランク別大武闘大会……鉄〜金ランクから前衛担当の冒険者が代表として選ばれ、お互いの実力を競い合う戦い。


 この武闘大会は桜花月おうかのつきと木枯月と二回あるが、桜花月の方は月末に開催される言わば予選のようなもの。


 この木枯月の武闘大会は本戦だ!


 私たちは今回、シードとしてこの武闘大会に挑む事になる。


 なぜなら私達は前回、桜花月の武闘大会で……

 

 ——————圧倒的な勝利を収めていたのだ!

 

 

 ☆

 大武闘大会のルールは単純だ。

 

 一、参加者は大会本部が用意した木製の武具を装備して戦闘する。

 二、会場となる台から落ちたら失格とする。

 三、直接的な魔法攻撃で鎧を破壊するのは禁止。

 四、武具を装備していないところへの攻撃は原則として禁止。

 五、時間以内に勝敗が決まらなかった場合、装備した武具の破損率で勝敗が決まる。

 六、武器が破壊された場合は素手での戦闘も可、ただしルール三、四は絶対遵守。

 七、お互い騎士道精神で挑むべし!

 

 というわけで、要は相手の武具をぶち壊すか、相手を場外にふっ飛ばせば勝てるのだ。


 会場は縦横二百メーターの正方形、冒険者協会が所持する闘技場で行われる。

 

「桜花月から引き続き、セリナ組は圧勝を目指します! よってこれから、代表発表会を行いたいと思いまーーーすっ!」

 

 ここ会議室では、武闘大会の代表メンバーを発表している。


 会議室の中には、私の担当する前衛冒険者総勢二十名近くが集っている。

 

「まずは鉄ランクから発表します! どるべるうぉんさん! 前へ!」


「よっ! よろしくお願いいたしまぁぁぁっす!」

 

 どるべるうぉんさん、蒼海の月に冒険者デビューをし、この間鉄ランクに上がった期待の新星だ。


 彼は類い稀なる運動神経と異常なほどの手先の器用さを駆使し、アクロバティックな動きで相手を翻弄する。


 去年の冒険者育成学校の主席卒業生で、武器は片手剣や投げナイフ。

 

「次! 銅ランク! とーてむすっぽーんさん!」


「「「ぶちかませぇ! とってぃーーーーー!」」」

 

 パイナポたち鋼ランク冒険者の面々が口を揃えてとーてむすっぽーんさんに声援を送る。


 月光熊リュヌウルス討伐戦に参加したメンバーは最近異常に仲が良く、一緒にご飯を食べたりしているのだ。

 

「パイナポ師匠! ありがとうございます! 代表に選んでいただいた以上、全力で勝ちに行きます!」

 

 銅ランクの代表はお馴染み、鬼人殺しオーガキラーの異名を持つ彼だ。


 そう、とーてむすっぽーんさんは月光熊討伐戦のしばらく後、銅ランクへと上がっていたのだ!


 その後はパイナポに色々と仕込まれたそうで、現在の武器は両手剣。 体つきも以前よりガッチリしてきた。

 

「では、鋼ランク! ……はもう分かっているかと思いますが。 ぺろぺろめろんさん!」


「はいは〜い! うちが勝利の女神こと、ぺろぺろめろんちゃんで〜す! みんな〜よろ!」

 

「うおおおおおおおお!」


「可愛い! 可愛いぞぉぉぉ!」


「こっち向いてくれぇ!」

 

 男たちから歓喜の声援で出迎えられるぺろぺろめろんさん。

 

「……キャハ!」

 

 前に出てくる際に声援を送られた冒険者たちに向けてウインクをしながらやってくる。


 ウインクの直後、奥の方でなにやら騒ぎが起こっている。

 

 ……もしかして何人か倒れているのか?

 

 アイドルと目が合ったって錯覚する萌え豚かよ。 まぁぺろぺろめろんさんはクソ可愛いからね、気持ちはわからないでもない。


 とりあえずみんなテンション上がりすぎているので、銀ランクの代表発表する前に一度静かにしてもらおう。

 

「皆さ〜ん! おーしーずーかーにー! 次は銀ランクで〜す! まぁ、言うまでも無くなくもちろんこの人です! ぬらぬらさーん!」


「セリナさん、わたくしを選んでいただきありがとうございます! あなたからの指導を活かし、正々堂々全力でぶつかろうと思います」

 

 おしとやかに、上品な足取りで私のそばにやってくるぬらぬらさん。

 彼女はセリナ組の絶対的エース。


 ちなみに前回、桜花月に行われた武闘大会、銀ランク部門と鋼ランク部門は苦情が殺到した。


 ちょうど鋼ランクに上がったばかりだったぺろぺろめろんさんは、初めての参加だった。


 結果としては一度黒星を負ってしまったが、彼女が勝利した試合はたった一撃で相手を場外にふき飛ばしていた。


 重傷者が続出したが、戦績は四勝一敗。


 ぬらぬらさんはお馴染み、超高速の立ち回りで全試合無傷で勝利した。


 大会始まって以来の圧倒的勝利を収めたのだ。


 戦績は、五勝零敗その上全て完全試合。 ここで言う完全試合とは、ノーダメージと言う意味である。

 

「はーい、金ランクは毎度の事出張中でいません! っていうか一回も帰ってきてくれません! あのど畜生女どもめ……なので鋼ランクか銀ランクから一名選ばせていただきまーす! というわけで、すいかくろみどさん! プチュヘンザッ!」


「いえ〜い!」

 

 相変わらず眠そうな目で登壇するすいかくろみどさん。


 前回も金ランクで出場してもらったが、相手は金ランクなのであと一歩で負ける試合が多かった。

 

 あまり成績は振るわなかったが……戦績は三勝二敗。

 

 ちゃっかり三勝してることに回りはざわついていた。


 この武闘大会は鉄〜金ランクのうち三勝すれば勝利が決まる、けれどこの大会は冒険者たちの力試しの場でもある。


 そのため勝利が決まっても全試合行われる決まりなのだ。

 

 トーナメントが終わっても、戦っていない受付嬢とも勝負する事になる。


 ぶっちゃけトーナメント形式にしたのは私たちの娯楽だ、深く考えてはいけない。


 ちなみに前回の成績はレイトとクルルちゃんに五戦全勝。


 メル先輩に四勝一敗、キャリーム先輩に三勝二敗だった。

 

 今回も圧倒的勝利を掲げてみせる!


 みんなで一致団結し、共に王座を守っていこう!


 最後の仕上げにみんなに声をかけようそう思った時だった!

 

 この時、誰が予想しただろうか? 私以外の受付嬢が暗躍していたことに!

 

「セリナー! 代表発表で盛り上がってるところ悪いけど、悲報を持ってきたわよ〜!」

 

 悲報という言葉に反応した私たちは同時に口をつぐむ。

 

「えーっと、残念ですが今回からは冒険者四名に出場規制がかかりました!」

 

 ……なんだって?


 盛り上がっていた私たちのはしゃぎ声は、嘘のように静まった。

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