山間エリアの調査クエスト

〜銅ランククエスト・小鬼の群れ蹂躙戦〜

〜銅ランククエスト・小鬼の群れ蹂躙戦〜

 

 「さぁさぁさぁ〜! 弓が得意な冒険者さん! どんどんいらっしゃい! まだまだたくさん募集していますよ〜!」


 こんにちは、セリナです。 今日は朝から大忙し!


 なにせ小鬼ルガティットの群れの蹂躙戦が決まりました!


 いかにもファンタジーっぽくてとっても楽しい蹂躙戦だ!


 小鬼ですよ小鬼!


 いわゆるゴブリン的なモンスターです!


 緑色の皮膚に鋭い歯、小柄な体躯に簡素な武装をしたあのモンスターです!


 冒険者達にも人気の小鬼の群れ蹂躙戦、これは王城からの依頼なので報酬の金額も高く、難易度も普通。


 まあ、小鬼は臭いし不潔だし、小狡いから苦手っていう女性冒険者は多いけれど。


 「セリナさん! 私もします! こうして私はセリナさんの……」


 「に入るっていうのは無しでお願いします」


 私は笑顔で答えてあげた。


 今私の目の前で死んだ魚のような目をしているのはレミスさん。本名はスミレさん。


 本名を反対から読んだだけだけど、ネーミングがメル先輩だから無駄にかっこよく聞こえてしまう。


 第三世代は特に特徴がないって言われるのを気にしているせいか、いちいちつまらないダジャレを言ってキャラ作りしようとしてる可愛いエルフっ娘。


 エルフだけど黒髪という珍しい髪色、染めてるらしい。


 長い髪の毛はサラサラで、目元で綺麗に整えられた前髪は鋭い吊り目を強調している。


 「セリナさんって……ほんっと腹黒いですよね〜」


 「レミスさん、何か言いましたか? 裏で詳しく伺いますのでどうぞ奥へ」


 「ごめんなさい嘘です、調子に乗ってすみません!」


 涙目で怯え出したレミスさんは、慌ててクエストの準備をするために買い出しに向かった。

 

 

☆ 

 小鬼の群れを発見したのはガルシアさんという銅ランク冒険者のパーティーだ。


 若草色の髪をしたエルフの少年だ。


 ガルシアさんはメル先輩が担当する冒険者だが、メル先輩は別のクエストで指揮をとっているため代わりに私が引き受けることになった。


 ぶっちゃけこの蹂躙戦のポイントはメル先輩と折半することになるから、受付嬢ランキング的には美味しい話ではない。


 しかしガルシアさんとは以前月光熊リュヌウルス討伐で一緒したと言う縁もあり、私は快く引き受けたのだ。


 彼のパーティーは四人で銅ランクが三人で鉄ランクが一人。 全員遠距離攻撃という少し特殊なパーティー。


 遠距離中心の長弓や中距離主体の短弓、魔法でも遠距離攻撃は可能だ。


 ガルシアさんは短弓で、矢は魔力で作るためつがえて撃つまでの動作はすごく早い。


 接近戦もできるみたいで、そのために弓の端の方に刃がついている。


 近づいて来たモンスターを弓の端でぶん殴ったり、高い運動能力を駆使して蹴り飛ばしたりしている。


 今回の蹂躙戦は小鬼の群れが相手なので弓使いが多い。


 前衛の盾役は五人、中距離二人・遠距離は五人も集まった。 前衛には有名な双子の冒険者がいる。


 鋼ランクの閻魔鴉えんまからすさんと極楽鳶ごくらくとんびさんの二人だ。


 二人とも第一世代の魔法剣士。 冒険者の中では珍しい双子の冒険者。


 閻魔鴉さんは黒い炎を剣に纏わせ、振り回すと黒炎の斬撃が飛んでいく。


 極楽鳶さんも似たような感じで青白い炎を纏う。


 二人とも息ぴったりなはずだけど、なぜかハイタッチはうまく決まらない。


 しかも無駄に交互に話すため、聞いていて少しうざい。 ちなみに二人共担当は私。


 計十二人の即席パーティーで依頼のあったバドの村へ向かう。


 平原にある中規模の村で、鳥の養殖をしたり卵を出荷している。


 今日の報酬はお金以外に卵と鶏肉もついてくる。 晩御飯は親子丼かな?


 この世界では丼ものを見たことないけど……


 私達は歩いてバドの村に向かう事にした、私は指揮を取るために簡易やぐらを持って行く。


 簡易櫓とは、持ち運びできる高さ三メーターくらいの櫓で、戦闘中はその櫓から拡声器で冒険者達に指示を出す。 前世の知識でわかりやすく言えば、背が高い脚立である。


 小鬼達は弓を使うものもいるので矢除けの防壁も忘れない。


 村についた私は冒険者達に休憩してもらうように指示して村長に挨拶する。


 ようやく依頼が受諾された事を知った村長さんは、ほっとした表情で状況を説明してくれた。


 話を聞くと、小鬼の群れは村近くの洞窟を根城にしていて、ここ最近小鬼の中隊や小隊が村を襲いにくるらしい。


 村の外に造られているバリケードは傷だらけになっていた。


 村人は若い男性を中心に柄の長い槍で牽制して追い払うことくらいしかできない、仕留められるのはせいぜい一回の戦闘で一〜二体らしい……


 村を見渡してみると怪我した男の人がたくさんいる、早く対処しないとまずそうだ。


 相手は下級モンスターとは言っても素人が相手をすればタダでは済まない。 死者が出てないのが幸いだ。


 しっかりと教育を受けた冒険者はいわばモンスターとの戦いにおけるプロだ。 小鬼も馬鹿ではないためそれを知っている。


 村人達は弄ばれるように小鬼に襲われるのだ。 一刻も早い蹂躙が望まれるだろう。

 

 

☆ 

 「ではまずは、堀を作りましょうか! 本陣の前に穴掘ってくださ〜い!」


 私は早速洞窟近くの平野を本陣とする、そして着々と指示を出していく。


 「セリナさん!」「俺達は」「何すれば」「いいんですか?」


 「双子っぽい喋り方してないで普通にしゃべって下さい。 二人には偵察をお願いしてもいいですか?」


 「了解」「しました!」


 毎回思うけど、この二人の喋り方は少しうざい。


 私は気を取り直して地図と睨めっこする。


 村長から洞窟が根城と聞いたから、入り口に蓋をして火を放つって手も考えた。


 蒸し焼きにして一酸化炭素中毒にしてしまえば手っ取り早く討伐ができる。


 しかし小鬼達もバカではない、おそらく抜け穴や空気穴を作っているだろう。


 洞窟から数百メートル離れた平野に陣取ったが、普通に戦えば戦闘をするのは中間の林になる。


 小鬼達は基本的に、冒険者と村人を見分けて戦法を変えて動く。


 冒険者相手なら奇襲などをして逃走、村人相手なら数でゴリ押し。


 群れの規模がわからないと作戦の立てようもないのだ。


 「レミスさ〜ん! こっから洞窟周辺の様子見えたりしないですか〜?」


 「見えますよ? この距離なら丸見えですね! 私のを……」


 「してますよ? もっと捻って考えないと、影薄くなっちゃいますねえレミスさん」


 またしても私は先手を打つ。 二度もダジャレ封じをくらったレミスさんは、頬を膨らませながら穴掘り作業に戻った。


 「セリナさん!」「偵察から戻ったぜ!」


 しばらくすると双子さんが帰ってきた。


 「洞窟周辺の見回りは七体!」「すでに俺達がここにいるのはバレてるようですね!」


 まあ堂々と平原に陣取ったからね、いかにもここでじっと待ち構えてますって雰囲気を出す為に。


 「よ〜し、皆さん作戦の説明しま〜す! 蹂躙戦、開始です!」

 

 私達の本陣には大きなテントが二張り、簡易的な柵を周囲に設置して簡易櫓もセット済み。 本陣を囲うように深さ五十センチ程度の堀を作った。


 前衛の二人、閻魔鴉さんと極楽鳶さんが並んで林の前で見張りをしている。


 小鬼達が根城にしてる洞窟までの道は獣道のようになっている、おそらく小鬼達が意図的に荒らして通りずらくしているのだろう。


 「セリナさん、小鬼の小隊が集まってきています!」


 隣のレミスさんが小声で私に伝えてくる。


 「こっちも集まってきているな、俺の方は十五……いや、二十体以上だな! ちなみに全員武器は弓だ。 小鬼弓隊だな」


 同じく小声のガルシアさん。


 「まだです、もう少し待って下さい」


 私は今、樹上で遠見の水晶版を覗いている。


 「小鬼弓隊が弓を引き絞って待機している」


 「あれはレミスさん側の小隊が突撃すると同時に放つつもりですね」


 時刻は夕方、日が沈み暗くなり始めた頃。


 小鬼達は獣道の入り口に立っている双子を無視して、林を大回りして本陣を囲っている。


 平野に堂々と立てた本陣の左右にも少し小さいが林がある。


 レミスさんは右側を監視。


 本陣右にテントが寄っているため、レミスさん側の小隊が今回の本命だろう。


 左の林からは弓を構えた小鬼弓隊。


 ガルシアさん達に見張ってもらっている。


 左側は柵と櫓しかない、テントは小さいものが一つだけだ。 小鬼から見れば、このテントは食料庫とでも思うことだろう。


 本陣の作りをこのように偏らせたのも、わざと林の間に作ったのも、全ては冒険者が休むためのテントが、それぞれどういった名目で建てられたものかを小鬼でもわかるようにするためだ。


 「私の方の小隊が陣形を組み始めました!」


 レミスさんの声で私は樹上で見張りをする冒険者達に目配せする、すると五人全員が攻撃の準備を始める。


 私は小さく右手を上げ無言で静止するよう指示を出す、そして左手に持っている鏡を上下に揺らして光を反射させた。


 待ち伏せしてる前衛と中衛の冒険者達に、もうすぐ一斉射撃すると言う合図だ。


 数秒間、全員が静かに私の動きを見守る。 そしてガルシアさんが見張っていた小鬼弓隊が矢を放った。


 同時に反対側の小隊がテントに向けて走って行く。


 そして、小鬼達がテントに斬りかかろうとした瞬間に、揚げた右手を勢いよく下ろす。


 「とぅーた撃て!」


 ——沈黙。


 「……え? ちょっと何してんですか! 早く! 撃って撃って! ほらほら!」


 「「「「「えぇ〜?」」」」」


 全員、私の合図を聞いて口をぽかんと開けていた。


 おかげさまでテントはビリビリに破かれてしまったが、小鬼達の悲鳴が聞こえてきたのでまあ作戦通りだ。


 「とぅーたってなんなんだよ? 普通に撃て! とか、今だ! でいいだろう?」


 「一回でいいから言ってみたかったんですよ! 普通私が何か言ったらそれが合図だと思うでしょ!」


 弓を打ちまくって小鬼を射抜きつつ、文句を言うガルシアさん。 こんな時にふざけた私が悪いのだが、だって言ってみたかったんだもん。


 「そんなことより! 前衛三人が弓隊に成功です! あ! くしゃみが……へっ! ……ごめんなさ——」


 「こんな時にふざけんじゃねえ!」


 「何ふざけてんですか! しかも無理やりすぎでしょう!」


 レミスさんのお馴染みのつまらないダジャレに私とガルシアさんは同時に叫んだ。


 「えぇ? それ、セリナさんがいいますか?」

 

 

☆ 

 作戦はこうだった。


 本陣は囮、夜目が効く小鬼はほぼ夕方以降に奇襲を選ぶ。 そのためわざわざ見えやすいし奇襲を仕掛けやすい地点、かつ本陣をおいても違和感のない場所に本陣を作った。


 そして今、二張りのテントの中にはカカシが数体と、テントと同じサイズに掘った落とし穴。


 櫓の上にもカカシを置いている。


 わざわざ遠回りしてくれたので私達は双子さんの真上にある樹上から様子を伺い、小鬼達が奇襲に成功したと錯覚した瞬間に一斉射撃!


 ……の予定だった。


 射撃を合図にした前衛と中衛は小鬼の弓隊へ奇襲。


 小鬼弓隊は真後ろから回り込まれていたことにも気がつかずに崩壊。


 射撃が遅れたせいでテント内に侵入してしまったゴブリン達は落とし穴に引っかかってキャーキャー言っている。


 まあ、奇襲してきた小鬼達は怪我人も出さずに蹂躙成功。


 おそらく小鬼達はビビって洞窟にこもるだろう。


 あちらはこっちの総数を全くわかっていない、小鬼は小狡いためこのような状況で深追いはしてこないのだ。


 私達は蹂躙した小鬼達から装備品を回収。


 人型モンスターは意外といい装備をしていることが多く、人型モンスターの装備品をきれいにして少し手を加えた物は、値段も安く割と持ちもいいため駆け出し冒険者達に人気だ。


 消耗品の弓矢なんかも割と安く買えるから人気なのだ。


 こうして一日目は大勝利。 偽本陣を放棄して私達は洞窟から少し離れた林で簡易キャンプを作った。


 見張りは二人ずつ交代で回すつもりだ。


 「セリナさん……」


 「いやぁ〜、今日は完勝でしたね!」


 晩御飯のシチューとパンを頬張る私に、ガルシアさんが冷ややかな眼差しを向ける。


 「話を誤魔化そうとするな! 次からはあらかじめ合図の言葉をちゃんと伝えてもらうからな! 事前に! しっかりと!」


 「……ほんと、反省してます」


 私はガルシアさんの冷たい視線に耐えられなかった。


 「もう本当に勘弁して下さいね! 私、びっくりしちゃって気が抜けちゃったんですから!」


 「……へっきしゅう」


 「なんなんですかもぉぉぉぉぉぉ!」


 レミスさんは、からかうと面白い。


 そんなこんなでガルシアさんに長々と説教された私は眠りにつくことにした。

 

 

 「セリナさん!」「起きて起きて!」「セリナさん!」「小鬼達の夜襲だぞ!」


 「あ、はい、起きたのでその面倒な喋り方やめて下さい」


 私は双子さんに起こされた、時刻は深夜を回っている。


 最初に見張してたのがこの二人だったから、二巡目の見張りって事は午前四時。


 これはもしや……


 「夜襲は予測してましたが、多分この群れ……小鬼王ロワルガティットがいますね」


 「小鬼王か……」「少し厄介だな」


 「全員起こしてきます、前後の見張りは頼みますね」


 そうして私は全員を起こす。


 野営のため、ランプの光を布で覆って光が目立たないようにしていたが、それでも見つかるものは見つかる。


 何せ小鬼王が指揮を取るゴブリンの群れだ。


 小鬼王【ロワルガティット】小鬼の変異種で、体が大きく身長は二メーターちょっと。


 中級モンスターで討伐難易度は銅ランク程度、鉄ランク冒険者でも数人がかりなら倒せるだろう。


 しかし、小鬼王が指揮をする小鬼の群れは優に百を超えるため、今回の小鬼の群れは本陣を襲いにきた小鬼の数から逆算すると、三百はいる可能性がある。


 無論、予測はしていたため対策も立てている。


 「もうすでに囲まれてるみたいです、前衛の五名はさっき埋めておいた槍の柵がある場所で待機して下さい。 多分そろそろ来ると思うんで」


 私が小声でそう言うと全員小さくうなづき配置につく。


 弓隊は前衛の後ろで矢をつがえてもらい、中衛の二人には魔法の詠唱をしてもらう。


 私はバックから必要なものを取り出すと、小鬼達が突撃してきた。


 「閉じて!」


 私の一言に全員目を閉じる、同時に前衛の五人が、四方に埋めておいた槍の柵を持ち上げる。


 今投げたのは発光石、現実世界で言う閃光玉だ。


 急に眩しい光を見た小鬼達は思わず目をつぶり、その隙に前衛が地面から出した槍の柵で突く。


 第一陣を撃破すると、小鬼達は弓で攻撃をしてくる。


 「盾! お願いします!」


 中衛の二人に詠唱してもらったのは障壁魔法。


 魔力を固めて物質化し、壁を作り出して不可視の壁を作り出す魔法。


 中衛二人は銅ランクの魔道士で、障壁魔法もお手のものだ。


 障壁魔法は割と簡単に覚えられる上に利便性も高い。


 「弓隊は!」「任せて!」


 「閻魔鴉さんは左! 極楽鳶さんは反対を! くれぐれも林での戦闘なので炎は使わないように!」


 「「分かってます!」」


 二人は同時に闇の中に消えていく。


 「ぷりじゅんさん! 支援魔法を!」


 中衛のぷりじゅんさんは支援魔法と雷、水魔法が使えるためまずは支援を要請する。


 「ヴァルツさんは前後に壁お願いします!」


 もう一人の中衛、ヴァルツさんが使う魔法は地属性単品だが利便性が高い。


 この二人はレイト担当の冒険者で、二人組パーティーの中堅冒険者。


 ヴァルツさんが少しの時間詠唱を唱えると、私達の前後にゆっくりと土の壁が盛り上がってくる。


 しかし壁が間に合わず小鬼達が二射目を放ってきた。


 これは……もちろん普通に避けるしかない!


 私達は各々回避行動をとる、小鬼達は場所を移動せずに放ってきたため同じ場所から矢が飛んでくる、飛んでくる場所がわかればかろうじで避けられるだろう。


 最初の壁を半透明な障壁魔法にして正解だった。 結果オーライ。


 全員避けれたかとも思ったが、前衛二人が矢をかすったみたいだ。


 遅れてヴァルツさんの土の壁が完成。


 土の壁は私達が前後に挟まれる形で作ったので、ここまで攻めてくるには簡易的な一本道になる。


 幅的に、前衛冒険者達は襲ってくる小鬼と一対一で戦える。


 前衛二人に一対一は任せて、壁を避けて回り込んでくるであろう小鬼弓隊は自然と一箇所に集まるはずなので、特攻していった閻魔鴉さんと極楽鳶さんが楽に対応できる。


 あとは持久戦、前衛は三人残ってくれてるので一人は真ん中で休ませ、交代で戦ってもらえる。


 魔道士二人と後衛の五人は前衛二人のサポートに集中。


 夜襲は二時間経過したところで鎮圧。


 幸い怪我人も少なく済んだ。


 しかし小鬼王がいるなら続け様に襲ってくる可能性があるため、武器と軽い装備だけ持ってすぐ移動することにした。

 

 

 翌日、私達は洞窟の前にやってきた。


 昨日の夕方の戦闘と夜襲、合計でおおよそ六十体くらい倒した。


 林の中では二〜三十体の小鬼が必死に私達を捜索しているだろう、なので裏をかいてこっちから向かって行くことにした。


 「現在、ガルシアさんのパーティーから二人出してもらい、この小山をぐるっと見てもらってます! 抜け道がないか捜索してもらってるので、私達は正面で待ち伏せです!」


 まず中衛二人の魔法で入り口の道をドロドロにしてもらう。


 ヴァルツさんの地属性魔法で土を柔らかくしてもらい、ぷりじゅんさんの水魔法で泥状にする。


 一度どろどろにしてしまえば、数分おきに水魔法を唱えて貰えばいいため、ヴァルツさんには小鬼弓隊対策で障壁魔法に集中してもらう。


 まさかの正面突破に慌てふためく小鬼達はゾロゾロと入り口に集まってくる。


 しかし泥に足を取られた小鬼達は前衛二人に長槍で刺され、残っている後衛の三人は援護と周囲の見張りを器用にこなす。


 前衛の残り三人は周囲から襲ってくる小鬼に対応してもらう。


 多分捜索に出ていた小鬼達がバラバラに戻ってくるであろうからそれを倒してもらうという感じだ。


 閻魔鴉さんと極楽鳶さんは攻撃範囲が広いため後ろを担当してもらった。


 小鬼を倒すたびにハイタッチしようとしているが、お互い空振りして頭からすっ転んでいる。


 間抜けなハイタッチをしている二人を横目に見ながら周囲の様子と、洞窟の状況を交互に確認する。


 正面突破し始めてから数時間が経つが……


 戦線は安定していて、討伐数は順調に伸びている。


 抜け穴は二つ発見されたがどちらも爆弾石で入り口を崩落させた。


 そのせいで洞窟内の小鬼達はこの正面入り口しか出口がないので、かなりの数がごった返すが泥に足を取られてる内に槍で刺され、弓で射抜かれる。


 我先にと逃げ出そうとする小鬼達は味方を盾にしようとしたり、目の前の仲間を押し倒して踏み台にしようとしたりしている。


 ……まさに地獄絵図。


 そんな小鬼達を見ながら長槍担当の二人は顔を引きらせていた。


 洞窟内には小鬼が二百体近くいたらしいが、泥にもつれた小鬼達はほぼなすすべなく長槍と弓の餌食になった。


 そしてとうとう親玉が現れる!


 「洞窟の奥から何か大きな小鬼が来ています!」


 「小鬼王ですね! 小鬼より早いので二人は下がって下さい!」


 とうとうボスが登場だ!


 私は長槍の二人を下がらせて、さてどうやって倒そうかと思案をめぐらせる。


 ボスの登場にワクワクしたのだが、閻魔鴉さんと極楽鳶さんが後ろから勢いよく飛び出し二色の炎を纏わせた斬撃を飛ばす。


 小鬼王の足を速攻で焼き切り、小鬼王は足を大火傷。


 バランスを崩して泥に足を取られてしまう。


 その隙にすかさずレミスさんが思い切り引き絞った矢が小鬼王の眉間を射抜いた。


 ダメ押しとばかりにガルシアさんの矢が心臓部に、ガルシアさんの仲間の攻撃が武器を持っていた腕に!


 ——あっけねー。


 こうして小鬼蹂躙戦が終わり、私達はお昼過ぎに帰ることができた。


 何事も起きなくてよかったが、少し消化不良だ。

 

 

 小鬼の群れ蹂躙戦から帰った私は、資料室で報告書をまとめる。


 王城からのクエストのため報告書を書かなければいけないのだ。


 私は報酬でいただいた鶏肉と卵を贅沢に使ったオムライスを食べてから報告書制作に取り掛かっていた。


 もちろん手書きである。


 黙々ペンを走らせていると、透き通ったオカリナの音色が響いた。


 ……また来たか。


 「セリナ♪ ゴブリン蹂躙戦ご苦労様♫ 相変わらず容赦なかったらしいね♩」


 「蹂躙する受付嬢とか言う二つ名を、自分で言いふらしている誰かさんには負けますよ?」


 「……それは誰のことかな♬」


 レイトの音色が少しズレた、めっちゃ動揺してんじゃん。


 「それにしても君はまたえげつない作戦をするね♩ 昼間に数時間かけて作った本陣を丸々囮にして、しかもテントに入るとそこは丸ごと落とし穴……」


 レイトは私の報告書を読みながらドン引いた顔をする。


 「ええ〜っと、夜襲はまあ普通だね♬ むしろ咄嗟の判断とは思えないほどの鮮やかさ♩ その後、冒険者達を血眼で探している小鬼達の裏をかいて……小鬼の根城に突撃?」


 レイトは報告書を読んで固まっている。 動揺しているらしい。


 おーいレイト〜! オカリナ、吹き忘れてるよ?


 「洞窟の抜け道は爆弾石で崩落、出口はセリナ達が待ち伏せする入り口のみにして、しかもその入り口の道は足元を泥沼に変えた。 足を取られてもたつく小鬼達を長槍と弓で掃討、小鬼の弓は障壁魔法で完全遮断し、我先に逃げようとする小鬼達はまさに地獄絵図のようだった。 ……ふぅ」


 一通り読み終わったレイトは一息ついて、いつの間にか吹き忘れていたオカリナを何事もなかったかのように鳴らす。


 「君はまるで悪魔だね♩ 思わず小鬼達に同情してしまったよ?♪」


 帰り道も冒険者さん達に「セリナさんえげつねぇ」とか「セリナさん容赦ねぇ」とか……


「セリナさんし、小鬼達も ……あ、ごめんなさいほんとごめんなさいもう言いません!やめてセリナさぁぁぁん!」とか言われたが、私の策を賢いと言って欲しい。


 レイトとそんなやりとりをしているとガチャリと資料室の扉が開く。


 「あ、あの! セリナさん、こちらにいらっしゃるとお聞きしたのですが……」


 「お?♪ メルさんじゃないか!♬ いらっしゃい♩ セリナに何か用事があったのかな?」


 部屋に入って来たのはこの冒険者協会にいる五人の受付嬢の一人、メル先輩だった。


 どうやら彼女も担当していたクエストから戻ったらしい。


 メル先輩は昔起きた事件が原因で、いつも自信なさげで表情も暗い。


 ランキングもいつも最下位だが、この人は優しすぎるが故にこの結果になってしまっている。


 私はそんな優しいメル先輩を尊敬している、なので「敬語は使わなくていいです」と何度もお願いしたのだが……


 「きゅ、急で申し訳ありませんが! 私にセリナさんの巧みな戦略をご教授いただきたいんです!」


 いまだにこの話し方には距離感を感じてしまう。


 昔みたいに仲良く話したいな。


 とりあえず座ってもらってから話を聞こう思って、すぐにお茶を用意することにした。

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