〜特別クエスト・貴族の食事作法に順応せよ〜

〜特別クエスト・貴族の食事作法に順応せよ〜

 

 この異世界に来て早三年。

 なぜかこの世界は、私がいた国と言葉も文化も大して変わらない。

 技術力とかはかなり劣るが、それでも食文化とか言語が変わらないだけでこんなにも馴染めるとは思わなかった。


 しかし、あくまでもここは異世界だ。

 何が言いたいかと言うと、たまに本気で訳の分からない事がある。


 「お願いだセリ嬢! この通り! ぴよぴよぷりんつ!」

 そう、これが訳の分からない事の内の一つ。

 今、私の目の前で謎の行動をしているパイナポ。


 このポーズを取るためにはまず体育座りをして、膝を両腕でがっちりと抱き抱える。

 そして胸に膝をピッタリくっつけたら、おでこを膝にくっつける。

 その体制のままこてーんと倒れながらこう言うのだ。


 「ぴよぴよぷりんつ!」

 パイナポ決してふざけている訳ではない。

 むしろ超必死。


 なぜならこのポーズが、異世界における土下座に等しいのだから。

 しかし私は、この謝罪の言葉と体制を見ていつも思う。

 マジ、なめてんのか?

 

 

 

 朝イチで冒険者協会に飛び込んできたパイナポは、私の顔を見た瞬間ダッシュでこっちに向かってきた。

 そして彼は鼻息を荒げながらこう言った!


 「セリ嬢! 頼みがある! 午後になって仕事暇になったら話聞いてくれ!」

 私はパイナポの勢いに、大変なクエストの前兆でも発見したのかと思い、二つ返事で了承。


 パイナポは私が初めて担当することになった冒険者だ。

 付き合いも長いし、頼みを聞くこともやぶさかではない。

 そう思って午前中の仕事を片付ける。


 主に午前中は、冒険者協会にクエストを受けにやってくる冒険者たちに仕事の斡旋。

 お昼休憩を挟んで午後からは、クエストの依頼に来る村の人や王城から来る使者の接待。

 他には冒険者たちの相談相手などをしている。

 そんなわけでお昼は大好きなオムライスを食べたので、かなりご機嫌な私はパイナポの話を聞く事になった。


 「突然で悪いが、俺様の彼女のふりをしてくれ!」

 何言ってんだこいつ? パイナポまでナンパしにきやがった。

 そう思った私は受付に戻ろうとして席を立つ。


 「え? もう仕事戻っていいですか?」

 「ちょちょちょちょちょ! ちょっと待ってくれ別にふざけてなんかない! 大真面目だ! ふりでいいんだフリで! 頼む! セリ嬢しか頼める女がいないんだよ!」

 深々と頭を下げるパイナポ。 しかし、全く意味がわからない。

 どうせ新手のナンパでしょう? ならば私は華麗に回避するまで!


 「そんな事よりパイナポさん、ここ最近あなたが戦ってみたいって言っていた牛闘士シャンピヴァンの発見報告が出てましたよ? よければ山間エリアへ調査に………」

 「そんな事はどうでもいい! ———いやよくない! 詳しく話を………。 ってちがーーーう! 俺様の冒険者人生に関わる重大な問題が発生したんだ! まず俺様の話を聞いてくれ! そしてその後牛闘士の話も聞かせてくれ!」

 

 事の発端はパイナポのお家事情に関わってくる。

 驚くことにパイナポはこの王都の有名貴族、公爵家の三男なのだ。


 しかし、公爵家の跡取りは長男にすでに引き継がれ、次男はそのサポート。

 パイナポは生まれた時から自由気ままに生きてきたこともあって、家族からは自分で責任を取れるなら、好きに生きていいぞと言われたらしい。


 そこでパイナポは冒険者になりたいと言った。

 こうしてパイナポは冒険者育成学校に入学する事になったのだ。

 そんなパイナポもたまに実家に帰って食事をする事があるらしい。

 そして昨日、親父さんにこう聞かれたらしい。


 「お前、結婚はいつするんだ?」………と。

 親父さんの気持ちはこうだ、冒険者はいつ命を落とすか分からないが、パイナポはいつも無茶をしてばかり。

 結婚して家族を持てば無茶をすることもなくなるかもしれない。

 だからこそ、親父さんは次にこう言った。


 「すぐに結婚できないまでも、候補を早く見つけなさい。 冒険者以外でな。 でないと一緒になって無茶し始めるかもしれん。 冒険者以外の結婚候補が見つかるまで、冒険に行く事は許さない」………と


 パイナポは、どうしようかと悩み倒したが、悩み倒した末に私の元にやってき来た。

 マジで迷惑だと思った。

 ………ちなみに牛闘士の話はウソだ。

 

 そうしてパイナポは私の目の前でダンゴムシのような体勢で、こてーんと倒れ込んでいる。


 「ぴよぴよぷりんつ! ぴよぴよぷりんつぅ! ぴぃよぴぃよ!ぷぅりんつぅぅぅ!」

 そう、泣きそうな顔で間抜けなワードを連呼してる。


 ぴよぴよぷりんつって冒険者のニックネームにいいかもしれないとか思いながら、私は周りの冒険者がヒソヒソ話し始めてる事に気がついた。


 「あのパイナポをぴよぴよぷりんつさせてるぞ!」

 「さすがは、鬼畜女王のセリナさん………あの状況でも笑顔を絶やしていない。 女王は、悪魔………ぷふっー!」

 「腹黒さは受付嬢の中でもトップクラスらしい!」

 「だがそこがまた………たまらん!」

 今の奴ら、顔を覚えた。


 特に意味不明な言葉作って、くだらんこと言ってるレミス!

 あいつは後で絞める。


 とりあえずダンゴムシみたいになってるパイナポをどうにかしようと声をかける。


 「パイナポさん、困るんですけど………」

 私は頬をひくつかせながらパイナポにやめてくれと言うが、彼も引かない。


 「俺様の冒険者人生がかかっているんだ! ぴよぴよぷりんつするくらい、恥ずかしくも何ともないさ! セリ嬢………ふりでいいんだ! 彼女のフリで! なんなら金も払う! 飯も奢る! 頼む! ぴよぴよぷり———」

 「あー! もうぴよぴようるさいですねぇ! 分かりました! 分かりましたから! とりあえずそこ、座ってもらっていいです?」

 これ以上ぴよぴよ言われたら、たまったもんじゃないと思い、カフェエリアの椅子に座ってもらう事にした。


 「セリ嬢! 本当に! 本当にありがとう!」

 涙目で顔を上げるパイナポ。 なんでそんな歓喜に震えているのやら。


 そんな嬉しそうな顔を見ながら思う。

 パイナポは私の担当冒険者の中でも一番付き合いが長いし、腕も立つ上に何度も助けられてる。

 日頃の恩返しとまではいかないが、冒険者引退なんて事になったらこっちが困るし、彼女のふりくらいなら別にいいかと思い始めたのだった。

 

 

 

 話し合った結果、パイナポの家に挨拶に行く事になった。

 彼が公爵家の三男だと言う事は知っている。


 王城からのクエストを受注する際に公爵とも話した事あるし、貴族は何人か接待しているから話すくらいなら余裕だと思う。

 公爵さんも貴族の方々も意外といい人が多い。


 もちろんよくファンタジーに出てくる悪い貴族みたいな、小太りのキモい視線送ってくるおっさんとかも中にいるが………


 そう言う悪い貴族はそもそも住民を助けるためのクエストを依頼しないからあまり会わないのだ。


 王都の中央通り、私は久々の休日を潰してパイナポと待ち合わせをしていた。

 約束の十分前に到着したのに、すでに小綺麗な格好のパイナポが待っていた。

 待たせてしまって悪いと思った私は駆け寄っていく。


 「セリ嬢………今回の事、本当に恩に着ます!」

 「いいよ別に、パイナポが冒険者やめるとか言われたら困るし」

 付き合いが長いため、仕事と関係ない場所ではタメ口で話している。

 ちなみに他にも付き合いが長いぺろぺろめろんさんたちやレミスさんとも休日によく遊ぶが、その時もタメ語だ。


 「よし、じゃあ頼むぜ? 親父に会わせるだけだからそんな時間はかからねぇはずだ。 今日の晩飯は高級料理を奢る覚悟だぜ!」

 「あ、じゃあ高級オムライスを所望する」

 「高級なオムライスなんてあんのか?」

 挨拶に行くまで少し時間がある。


 私は前々から気になっていた高級洋食店を案内した。

 ここで奢ってくれと頼んだら二つ返事で了承してくれた。 やったー!


 晩ごはんは気になっていた高級オムライスを食べれる事に心を躍らせる。

 ちなみにここの料理は一番安いものを日本円に例えると三千円、一番高いのは一万五千円。

 今から涎が垂れてしまいそうだ。


 そうこうして時間を潰しているうちに、ようやく公爵家の門前に辿り着いた。

 公爵家は一言で言うとでかい。


 人が三十人以上住んでそうな豪邸。

 庭には噴水とプール、きれいな色の芝生。

 白を基調とした英国風の豪邸で、細部の彫刻なんかもすごく細かい。


 「初めて来たけど………かなり広いね」

 「あぁ、おれもたまに道に迷うんだ」

 実家で迷子って! どんだけ広いんだ!

 私たちは門をくぐり、きれいに整備された玄関までの道を歩く。


 かつかつといい音がなる赤茶色のレンガをきれいに敷き詰められた通路。

 屋敷が白を基調としてるから色合いも美しい………


 玄関のドアを開けると、中央に赤いカーペットの階段。

 その前には執事とメイドが立っている。

 執事はおそらくセバスチャン、メイドはメアリーちゃんと見た!


 「久しぶりだな、ハイネスにピリム! こちらが親父に会わせる予定のセリナだ」

 ちくしょう!

 メイドはまだしも執事と言ったらセバスチャンだろ! 全く違う名前だった。


 「お初にお目にかかります、わたくし、レイブングルド家の執事をしております。 ハイネスと申します」

 「同じくメイドのピリムと申します」

 うやうやしく頭を下げられてどうすればいいか分からなくなる私。


 「さぁ、親父に会わせてくれ!」

 「はい、スタリカ坊っちゃま。 食事の準備は整っております、すぐにご案内いたします」

 ………え? 今なんて?


 「しょっ! 食事? 会うだけじゃないのか?」

 動揺するパイナポの声は裏返っていた。

 

 

 

 どうしてこうなった………


 「ご機嫌麗しゅう、セリナ殿。 拠点建設のためのモンスター蹂躙依頼を出して以来かな? まさか貴殿が息子と交際していたとは、驚きを隠せません」

 「え、ええ………その節は、お世話になり申した」

 まずい、緊張して日本語が変だ!


 レイブングルド侯爵、パイナポのお父さんとは以前拠点建設のための蹂躙戦を依頼された時軽く話したことがある。

 しかし食事なんてどうすればいいかわからない!


 私の目の前には白い長テーブルと、超高級食材をふんだんに使った料理のフルコース。

 隣のパイナポは私の摩訶不思議な敬語を聞いて、肩を小刻みに振るわせ必死に笑いをこらえてる模様。

 イラッときたのでテーブルの下から腕を伸ばして太ももをつねってやった。

 そんな私たちを見て微笑むレイブングルド侯爵。


 「いやいや、仲が良さそうで何より。 それよりもせっかく料理を用意させたのです、冷める前に召し上がって下さい」

 「あ、ありがたき幸せ!」

 再び謎の敬語を使ってしまう私。

 そんな私に、レイブングルド侯爵は困った顔を向けた。


 「セリナ殿、あまり緊張せずともよいのですぞ?」

 レイブングルド侯爵に気を遣われてしまった………


 しかし、私は新たな問題に直面している。

 まず、貴族の食事作法とか知らない。


 高級料理店みたいに外側のシルバーから使うの?

 料理を食べる順番とか決まってる?


 私は混乱するが、隣でパイナポが食事を始めた事で打開策を講じた!

 全く同じ動きで食べれば問題ないでしょう作戦。


 パイナポも一応は貴族。

 この人、冒険者協会で荒くれ冒険者たちとご飯食べてる時も、ちゃっかり一人だけ食事の行儀がいいのだ!

 つまり、幼い時からこの屋敷で暮らすパイナポにも、この屋敷での正しい食事のマナーが身についているはずだ!


 それに、もしマナーが違ったとしてもパイナポを道連れにできる!

 これしかない!

 そう思って私はパイナポの動きを素知らぬ顔でトレースし始めた。


 見事なトレース能力で次々と食事を進める。

 オニオンスープはスプーンですくい、こぼさないように取り皿を下に添えて、ゆっくりと口元へ。

 なるほど、貴族はスプーンからのポロリ対策で取り皿を使うのか。


 私の知ってる食事のマナーと違う気がするがまあいい。

 次いでナプキンで軽く口元を拭き、サラダにフォークを伸ばす。


 海鮮サラダだ、レタスで海鮮を軽くくるみ、フォークを刺して取り皿の上に置き、取り皿ごと口元に運んで食す。


 ———え? フォークって刺していいんだっけ?


 というか海鮮サラダとか貴族も食べるんだ………

 まあいい、余計なことは考えるな!


 パイナポがナプキンで口元を軽く拭く、なので私もナプキンで口を拭く。

 あくまで上品に、華麗に、エレガントに!


 なんか思ったよりも普通だな、と思いつつもトレースに全神経を注ぐ。

 順調に食事が進んでいくと、パイナポが妙な仕草をし始める、食事を口に運ぶたびにチラチラと私が座る右横に視線を送り、小さく首を傾げるのだ。


 私はこれになんの意味があるのかわからないが、とりあえずトレース!

 ナイフで肉を切り、フォークで口に運び、右横をチラリと見てから小さく首を傾げる。

 完璧なトレース!


 するとパイナポは静かに食器を置いた。

 すかさず私も食器を置く、音を立てずにね。


 パイナポはまた私が座る右横に視線を送った。

 もちろん私も一瞬だけ右横に視線を送る。


 そしてパイナポは親指、人差し指、中指をピンと伸ばし、薬指と小指を軽く握る。

 両手で謎のハンドサインを作った後、両肘を胸の高さまで上げて、伸ばした人差し指をこめかみに当てる。

 そして、手首のスナップを効かせながら手を半回転させつつ………


 「あんちょび!」

 ………いつもより半音高めのトーンで、謎の言葉を唱えた後、下顎を右に突き出し、さらに白目を剥いている。


 ………なんだ、この謎の行動は。

 これも貴族特有の食事作法なのか?

 そんなわけない、そう思いたいがこの世界には謎の文化がある。


 あの謎の謝罪方法………ぴよぴよぷりんつもそのひとつだ!

 もしやこの仕草にはなんらかの意味があるのか?

 この食事が美味しいと思ったらこの作法をとる! とか?


 むしろこの作法を取らなければ失礼にあたるのか?

 この作法を馬鹿にして、私が恥ずかしがってやらなかったとする。


 そしたら『食事のマナーもなっていない小娘め! こんな娘を連れてくるとはお前には失望した! 二度と屋敷の敷居はまたがせん!』とか。


 『食事のマナーがなっていない小娘は万死に値する! 即刻首を刎ねよ!』とか言われちゃうのかな?


 私は謎の行動をとったパイナポにひるみながらも覚悟を決める。

 やるしかない、この作法の意味はわからないが………


 恥ずかしがっていては、レイブングルド侯爵に対して失礼に値するかもしれないのだから!


 「スタリカ? 食事中に無礼だぞ。 その間抜けな仕草をやめ———」

 「あんにょび!」

 決死の覚悟を決めた私は、いつもより半音高い叫びを食堂に響き渡らせる。


 ………ポカンと口を開け、私を見て言葉を失うレイブングルド侯爵。

 室内には一気に気まずい空気が充満する。

 しかも私、思いっきり噛んだ。

 

 

 

 パイナポの、かつて無い程の大爆笑が屋敷中に響き渡った。

 私は流れるような仕草で、優雅に立ち上がり、魔法の言葉を使用する事にした。


 「大変申し訳ぴよぴよぷりんつ!」

 その場でこてーんと転がり、ダンゴムシのように丸くなる私。


 「貴族の方と食事をするのが初めてだったので! 失礼のないよう私の独断と偏見で勝手にパイナポ………スタリカ様の真似をしていました! 先ほどの行動は、貴族様方の食事のマナーかと私が勝手に勘違いしてしまいました! 私の謝った認識がレイブングルド侯爵へ無礼な態度をしてしまいました! 全て私の勝手な思い込みです! 本当に申し訳ぴよぴよぷりんつ」

 私は必死に土下座………もといぴよぴよぷりんつした。

 

 事情を分かってくれたレイブングルド侯爵は、私に頭をあげるように言ってくれた。

 その後、パイナポはお説教。


 「貴様は食事が終わるまで廊下で逆立ちだ馬鹿息子め!」と言い放ち、未だ腹を抱えて笑い続け、呼吸苦気味のパイナポは廊下に向かった。

 廊下で逆立ち?


 ………また新たな異世界文化に触れた。

 食事が終わるとレイブングルド侯爵は私に深々と頭を下げ、謝罪してくれた。


 「家のバカ息子が、バカな事をしてセリナ殿に恥をかかせてしまったこと、心よりお詫び申し上げます」

 「あっ! 頭をお上げ下さいレイブングルド侯爵! 私が礼儀作法を知らなかったことが悪いのです。 こちらこそ失礼を働いた事、深くお詫び申し上げます!」

 ほんと、謝らないでほしい! 色々と辛い。


 「セリナ殿、ありがとうございます。 ところで、ちょうど良い機会です………息子の事をお聞きしてもよろしいですかな?」

 レイブングルド侯爵は、優しく微笑みながらそんな事を言い出した。


 「パイナ………スタリカ様の事でしょうか?」

 「ご無理なさらず、いつもの呼び方で呼んでいただいて結構ですよ? 家のバカ息子は、セリナ殿にご迷惑をかけてはいませんか?」

 レイブングルド侯爵は、優しい父親のような瞳で私に問いかける。

 私はその優しい眼差しに真摯に応えたいと思い、日頃から思っている事を包み隠さずに答える。


 「私は、パイナポさんのおかげで今も受付嬢をさせていただいています。 私が迷惑をかけることはあるかもしれませんが………パイナポさんにはいつも助けられてばかりです。 つい先日も大変な案件のクエストに進んで協力していただいた上に、クエスト中も多大なる活躍をしてくれました。 恥ずかしながら、感謝してもし足りないです」

 私は日頃の感謝を、パイナポではなくレイブングルド侯爵に話してしまっていた。


 プライベートではさっきみたいにおちょくられたり、いつもふざけていて結構迷惑しているけども。

 私が落ち込んだ時、失敗してしまった時、もうダメだと思って挫折しかけた時も………


 パイナポは必ず私を元気付けてくれて、どんな難しいクエストでも結果で応えてくれる。

 ———私が一番信頼している冒険者。


 レイブングルド侯爵は私の顔を見てにっこりと優しい笑みを向けてくれる。


 「私が知らないところで、息子は誰かを救っているのですね。 セリナ殿、本日はご足労いただき、心から感謝を。 息子を………スタリカを、これからもよろしくお願いいたします」

 

 食事が終わり部屋を出ると、パイナポは廊下で逆立ちしながら言ってきた。


 「ところでセリ嬢! 貴族の食事作法ってなんのことだ?」

 私は半分驚きつつも………


 「え? 食べる順番とか、シルバーの使い方とか。 あるでしょ? フォークは刺しちゃダメとか、ライスはナイフで寄せてフォークの裏に乗せるとか………」

 「は? なんだその変な食べ方、そんなめんどいことするやついんのかよ!」

 私は絶句した。


 パイナポいわく、食事は美味しく食べるもので、最低限周りを不快にさせないためのマナーくらいしかないらしい。


 例えば、食器の音立てないようにするとか、咀嚼音は立てないようにするとか………

 洋服を汚さないように食べ物を口元に寄せるときは取り皿を添えるとか………

 食べる時に食器の方に顔を持って行くのはダメらしい。

 いわゆるドッグイートってやつだ。

 後は口元はこまめにナプキンで拭いたり、食事を直接手で触るとかもダメらしい。


 つまり普通に食べていいのだ。

 まあ今更だし、それはともかくとして………

 私はパイナポの実家を後にすると、パイナポのケツに渾身のタイキックをかました。

 

 

 

 その後約束していた高級洋食店に行く。


 「なぁ、セリ嬢! 親父と何か話してたのか?」

 ふと、パイナポがそんな事を聞いてくる。


 「バカ息子をよろしくって言われたくらいだけど?」

 私はずっと食べたかったオムライスを堪能し、まんぞくしながらもさっきの仕返しとばかりに毒を吐く。


 「おいおい〜。 バカなのは認めるけどな、なんか他に言ってなかったのかよ? セリ嬢の俺様に対する評価とか気になんじゃん? 親父に俺様の仕事ぶりとか、どう評価してるかとか聞かれなかったのか?」

 苦笑いしながら告げるパイナポに、私はいたずらな笑みを浮かべながらこう返す。


 「もし言ってたとしても、パイナポには絶対教えない!」

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