第76話 爆破予告

「やっぱりおかしいよねぇ~? 颯介ぇ」


 レンは例の製薬会社の爆破跡地のガレキの中からそう言った。


「おかしいのはお前だよ……。何故、昔からキミは助手を連れない。そういう話は普通助手とするものだろ。一匹狼め」

「今日はたまたま連れてないだけだよ。それより見てよ。午前中に回った他のクロスヤードとは全く違う」


 玉は藤ヶ谷に他の爆破地点での被害跡を比較できるように見せた。


「回収したというのは有り得ないな。この短時間で17箇所……物理的に不可能だ」


 レンが言った全く違うと言うのは、爆破の方法のことだった。

 国内外のクロスヤード16箇所では、奇しくも爆弾の欠片が一つも見つからなかったのだ。

 その代わり、赤黒い爆炎の煤が数か所点々と存在し、その中心に巻き込まれたと思われる死亡者の血液や塵と化した皮膚の一部が溢れ出ていた。国内外のDI7関連者の死亡者は75名、確認が未だ不確かな負傷者は少なく見積もって489名とのこと。まさに悲惨そのものだった。

 一方で、今いる製薬会社では大きな爆弾が数多く用いられたようだ。

 粉々になった焼け跡のあちらこちらに弾欠片が見つかっている(八咫烏から受け取った爆弾だと大野の調査により判明済み)。


 前者は爆弾そのものを使わずに爆破してみせたということ。

 また、死亡者の殆どが死体を遺さずに逝っていること。

 

 以上のことから、レンは1つ思い当たるモノが頭にあった。


「……やられすぎだ」


 藤ヶ谷は一言そう残して、生存者から何か聞き出せないかと、一度本部に戻ることを提案した。





 本部に戻ったものの、空同様に意識が戻らない者が大半を占めており、十分な聞き込み捜査はできそうになかった。


「大変です! 大変です!」


 足踏み状態のレンと藤ヶ谷の元へ玉が慌てた表情で詰め寄った。


「どうした玉? また何処かで爆破があったのか?」

「いえ、そうではありません。こちらをご覧ください」


 差し出されたのは丁寧に折られた手紙だった。


「ボクにも見せて!」


 レンは文を両手で持った藤ヶ谷に肩を寄せ、覗き込んだ。



『DI7本部に爆弾を1つ仕掛けた。爆破時刻は本日午後11時30分。これはトップ7に対する挑戦状だ。防げるかな? 健闘を祈る。』



「「!?」」


 これは正真正銘の爆破予告状だった。

 犯人は連続的にクロスヤードを狙い、遂には本部を標的に捉えたというわけだ。

 危惧するべきはそれだけではない。

 文章から察するに爆弾は既に仕掛けてあると考えられる。

 すなわち、DI7に近日訪れた者、もしくはの人間の仕業ということになる。


「玉、本部と周りの敷地全てに警告レベル6だ。最低限の人間のみを残してあとは避難だ。それと動かす監視カメラを最大に。そろそろ探偵こちらも本気を出すよ」


 藤ヶ谷は真夏にも関わらず、制服の上着を身に着け、大野不在のDI7を冷静に動かした。

 レンはこんなに頼れる雰囲気だったっけと藤ヶ谷を遠くからただ呆然と眺めていた。


「残り1時間か……。僕はここ一週間で爆破が起きた各クロスヤードに漏れなく全て出入りしていた人物を監視カメラから割り出す、そう多くは居ないはずだ。黒瀬は玉を遣って本部内の爆弾を探せ」


 藤ヶ谷はマスターキーを玉に投げ渡し、駆け足で情報統合管理室へと向かっていってしまった。


「レン様……お願いします」

「分かってる! ボクも立場があれば同じ指示を出してるよ!」

「では、権限をお願いします」


 大野が決めた掟の一つ。

 『大野を除くメンバーは本部内での能力行使の禁止』はトップ7の解放権限にて破棄できる。

 レンは「許可します」と玉の目を見て伝えた。


透明世界クリア・ワールド


 玉は両目にかかる前髪を手で押さえ、そう唱えると、瞳の色が白く煌びやかに光った。

 玉の能力・透明世界はその名の通り、見たものを内部まで透かして見ることができる。


「じゃ、行こうか!」


 玉を先頭に、レンは本部内のあらゆる場所を一匹の蟻すらも見逃さず、細かく調べ始めた。





 藤ヶ谷が管理室に籠ってから数時間。

 既に条件を満たして人物は複数ではあるが、完全に特定できていた。

 それは以下の五人。


志村慎太しむらしんた:DI7専属の郵便配達員。重要書類などを届けていた今月の担当。エフェクターではない。


弭間岡隆磨はじまりゅうま:DI7専属医師。毎年この時期に行われる健康診断の詳細について各クロスヤードの医師に伝達事項を告げに周っていた。エフェクターでもあり、能力は『三重加速トリプル・ブースト』。対象の効果威力を3倍にする。弦岡はこの能力で薬の効き速度や自然回復速度を3倍にするなどし、数えきれないほどのDI7構成員の命を救ってきた。


剣崎洞爺けんざきとうや:クロスヤード見学人の記者。日々の探偵の卵たちの研鑽の様子を記事にするために各クロスヤードを訪問、見学、質疑応答などをしていた。エフェクターではない。


遠飛沙也とうひさや:引退済みの弓矢の使い手。クロスヤード生に遠距離戦における訓練・指導をしていた。エフェクターでもあり、能力は『消えない燃焼エンドレス・バーニング』。右手から消えない炎を出し、無機物に伝導させ、対象の物体にぶつけるというもの。かつては、消えない炎を矢に纏わせ、数多の戦場で戦果を上げた。クロスヤードの訓練生による流れ弾が利き手に命中してしまい、引退した経緯がある。


沢村泰造さわむらたいぞう:爆破された製薬会社に勤めていた位の高い男(数年前に退職済み)。かつて過労死があったのではないかとDI7に疑い長年に渡ってかけられ、結局、過労死はなかったという出来事が過去にある。そのことの請求金で現在もDI7と揉めていたという。また、会社の爆破の件について調査依頼も用事の一つであった。エフェクターではない。


「絞るには情報が足りない……それでもやるしかない」


 残り時間はもう無いようなものだった。

 時計を確認した藤ヶ谷は一度呼吸を整えてから、レンたちの様子を知るために通信を入れた。


『そろそろ爆弾は見つかったか?』

『ごめん、見つからなかっ

『何故過去形で答える? まだ捜し中ならそう言え黒瀬』

『全部隈なく調べ終わったんだよ……!』

「――何?」

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