第8話 事件解決……!
馬路は一呼吸後、後ろの車椅子に飛んだ。
その直前に、レンは手に持っていた銃を瞬間移動で遠くに飛ばされていた。隙を与えないように右足の投げナイフを素早く抜き去り、馬路の方角に投げた。
馬路は、体を車椅子から瞬間移動させたが、その移動はナイフを避けるための移動であり、レンの死角に飛ぶ攻めの移動ではなかった。それは横に僅か1mの移動だった。
この時点で馬路は2回連続して瞬間移動の力を使わされたことになる。
「そのナイフ、まだ避けれてないよ?」
レンは瞬間移動させられた投げナイフに予め付けておいた糸を思いっきり引き寄せ、馬路にもう一度当てようと直線上に入った。
そのナイフは持ち手側にも刃が付いているレンが特注したナイフだった。
「無駄だ!」
「……斜め後ろ」
まるでそこに移動してくると分かっていたかのようだった。
レンは今度こそ拳を馬路の腹部中央にドンピシャで入れることに成功した。
「……なん、で」
馬路は気を失い、前のめりに倒れこんだ。
「君、自分自身を飛ばせる限界って3回までなんでしょ? ま、ボクの眼の前では関係ないんだけどね。あっ、もう聞こえてないか」
レンはぺたんと膝をつけ座り込んだ。
「あ~疲れた」
そのままの気持ちが声に出た。
誰も知らない戦いが静かに終わった。
◇◇◇
その後の展開は早かった。
レンによって、目隠しと手錠をされた馬路の身柄は後に駆け付けたDI7に運ばれた。
紫水は、昨夜の計画通りにミユを救出することができ、閉鎖空間だった部室をしばらく監視していたところ、中に不自然に置かれていたガスタンクが消えることを確認していた。
DI7の調査員の調べでは、消えたガスタンクのタンク自体はレンが馬路との戦闘で使われたタンクと同一のものだと判明した。さらに、中に入っていたプロパンガスは部室の中央から下に充満し、かなり酸素濃度が基準値を下回っていたというていたという。
ほぼ全部彼女の推理通りだったということだ。
「妹ちゃんは?」
「念のため病院に連れてったよ。俺は探偵の所に行ってってミユに言われて」
「負けると思ったの?」
「礼を言うためだよ。ありがとう」
「ボクは名探偵だ。報酬も貰ったしね、ほらっこれ」
レンは右目にさっそく紫水に作ってもらっていた片目アイマスクを着けていた。
「その
「ご名答~」
「じゃ、帰るぞ」
「え、ちょっ!」
紫水は憐の背中と足を両手で抱きかかえ、工場の外に出た。
「恥ずかしいから……おんぶが、いいな」
「お姫様だっこ。これは仕返しだ名探偵」
「……ゆっくり歩いてよ。揺れると傷が広がっちゃうから……」
しばらくして、ボロボロの探偵は腕の中で眠ってしまった。
◇◇◇
事件から一週間後――
ミユはあの後特に体調に異常はないということで病院から家に戻った。少し瘦せた顔も元に戻り、紫水はほっとした。
「お兄ちゃん……これ……誰の……? 私のよりサイズ小さい……」
「あの探偵のだよ……! 散らかしたまま出てきやがってアイツ……」
「その探偵って女の子だったの?!!?」
「あぁそうだよ! でもDI7のトップ7で冗談ばかりの変人だったけど5割くらいは正真正銘の名探偵だったよ」
「そんなことはどうでもいいの……お兄ちゃん! その女の子を家に連れ込んで……?!?!」
「何もないから!!」
両親がいなくなった後、兄妹でいる時間が増えた。それが原因かは分からないが、ミユは紫水に対して過度な心配性になっていた。一種のブラコンのようなものだった。ミユはそのことを家の外では隠しているらしいが、その真相は紫水は知る由もない。
「……今日はコーンスープか。悪くない。作ったのは妹ちゃん? それとも助手くん?」
偉そうであり、上品さがある声。聞きなれた冗談めかしい声。
「まじか……」玄関に顔を出した紫水は思わずそう声が出た。相変わらず右目を覆う包帯が雑に巻かれている。トレードマークのようだ。
「来ちゃった」
「『来ちゃった』じゃない!! 何だそのデカいスーツケースは! その女の子っぽい服も……!」
「女の子だも~ん」
紫水は全てを悟った。
そういえば、DI7はあの事件で辞めるとか言っていたようなと思い出した。だからといって、平野家に住もうとするなんて考えもしない。必死に紫水は中に上がろうとしてきたレンを両手で止めようとしたが、すり抜けるように避けられ、ミユのいるリビングに向かわれた。
「……誰?」
「やあ妹ちゃん~! 私が紫水くんが聞いたであろう名探偵なのだ~。今日からこの家にお邪魔するね。それと、君のお兄ちゃんとはそういう仲……なの。よろしくね?」
「……泥棒」
「え?」
「お兄ちゃん最低……!」
「……? 君の妹ちゃんもイジりがいがあって可愛いじゃないか」
ミユは怒って2階に行ってしまった。
「お前……ホントにここに住むのか?」
「さあね~」
「妹にまで冗談を言うなよ……」
レンは腕を組んで、過去一番のニヤつき顔をしている。
「もう少しこの町でやらなくちゃいけないことがあってね。その間だけ、また協力してもらうかもね~今度は相棒として」
「へ?」
「これは冗談じゃないよ?」
予測できないこれからが今まさに始まろうとしていた。
いや――
あの日の拉致された瞬間から、既に始まっていたのかもしれない。
(1章終わり)
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