おもかげ


軽井沢の蕎麦屋で

バイトをした

期間は一ヶ月ほど

朝 送迎の車がやってきては

乗り込み バイト先まで行く


開店前に 食材の仕込みをする

エビの背腸を抜き

子芋の皮をむく

普段 なまくら包丁ばかり使っている

わたしには

その包丁はよく切れて怖かった


仕込みを終えると

みんなで朝ごはんを食べる

店内の好きなメニューをオーダーし

蕎麦やうどんを茹でてもらう

口の悪い地元の人間たちで形成された

コミュニティだった

倫理的に言っちゃいけない言葉が

沢山とびかっていて 面白かった


休日は観光をする

公園に行ったり 温泉に行ったり

夜 駅前の月が

綺麗だったことをよく覚えている


かつて訪れたことのある土地を

思い出すとき まだそこに

当時の自分がいるような気がする


今よりも 若いというか

ずっと幼い自分

だけど 今よりかは

心が澄んでいた自分


昔の面影が 風景と共によぎるとき

変わってしまった今のわたしと比べて

なんとなく 情けない気持ちになって

馬鹿みたいだなあと 思ったりして

あの頃のまま

生きていけたらよかったのになあ

なんて 思ったりして

いまの自分を 誇れる日がくるだろうか

きたらいいな なんて 願ったりして


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