第50話 反する力

 睡蓮の耳元に木霊が舞い降りて、耳打ちする。


「何だよ! 教えろよ!」


 炎花が木霊を突っつけば、ベッ! と舌を出して木霊は消えてしまう。


「んだよ! いっぺん燃やすぞ!」

「その態度が木霊に嫌われる元だぞ」


 炎花の悪態を睡蓮が制する。

 それを稲妻と柘榴が冷笑しながらみている。


 ……しかし、まずい。


 先程の木霊は、蓮華が崑崙山へ向かったと教えてくれた。

 つまり、この早春の門は、炎花と睡蓮で守らなけばならなくなったということだ。


 仙女の力には相性というものがある。

 相性により互いの力を強め合うことも、相殺することにもなる。

 蓮華の水の力では、炎花の火の力は弱めてしまう。


 なのに、向こうの稲妻の雷撃は、石の力と共闘しやすい。

 現に今も、雷撃と物理的な岩の力で、蓮華も炎花も翻弄されている。

 

 炎花の炎も、睡蓮の水も、いとも容易く、柘榴の岩に阻まれて、稲妻の雷撃が襲ってくる。


 雷撃を睡蓮の水の壁で防いだ隙に、柘榴の岩が物理的な攻撃を仕掛けてくる。


 正直、炎花と睡蓮は、押される一方だった。


 蓮華の木の力を借りれないとなると、ここをどうやって守り切れば良いのか。


「桃華様に教えていただいた方法を試してみるか……」


 実のところ半信半疑。

 相反する力が、そんな使い方が出来るなんて思ってもみなかった。

 桃華様が、仙人の国に発つ前に教えてくれた策。

 これが使えなかったら、後はどうすれば良いのかわからない。


「気をつけてね。思っている以上の威力が出るから」


 桃華は、そう言っていた。

 本当に? 相反する力なのに??

 相殺して不発に終わるのではないか?


「うだうだ考えても仕方ないだろうが!! いくぜ!!」


 炎花の放った火は、当然のように柘榴の岩に阻まれる。


「そのまま! そのまま燃やし続けなさい!」

「分かっている!」


 早春の門から流れ出る気を受けて、炎花の火は勢いを増す。

 

「そんな炎を私の岩が防げない訳がないじゃない!」


 地獄の業火もかくやと思うほどの炎に、さすがに柘榴も稲妻も攻撃に転じることはできないようだが、炎は完全に岩に阻まれて二人に届かない。


 岩が熱されて赤く輝いてはいるが、とても燃やすことは出来なさそうだ。


 だが、それが桃華からの指示。


「炎花! 気をつけて!」


 睡蓮の言葉を合図に、炎花は身構える。

 炎花の渾身の炎の熱をいっぱいに溜め込んだ岩に、睡蓮が水撃を一気にぶつける。


 極限まで熱された岩にぶつかった水は、一瞬で水蒸気へと変化して膨張する。


 まるで、信じられない光景だった。

 桃華に注意されていなかったら、睡蓮も炎花も巻き込まれていただろう。


 轟音をあげて岩は粉微塵となり、水は大爆破を引き起こした。


「これが水蒸気爆発……」


 相反する炎と水の力は、大きな爆発を起こして稲妻と柘榴を岩ごと吹き飛ばしてしまった。


「すっげぇ……」


 炎花の口から自然と驚きが漏れる。


「ボゥっとしている場合か! 急いで柘榴と稲妻を探して、見つかったら捕獲! 救助! 桃華様は、誰も犠牲になることを好まない!」

「お、おう!」


 二人は、戦闘不能になっているであろう稲妻と柘榴を探しはじめた。






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