第18話 作戦

 私たちは、早春の門を取り返すためのちょっと強引な作戦を始めた。


 私たちは、長牙、炎花、蓮華、私の四人。向こうは、見る限り、二百くらい? の蚩尤が、早春の門の前でひしめき合っている。

 一対一でも苦しい体格差。

 三階ほどの大きさの蚩尤に比べれば、私達は小人のようなものだ。

 その小人の私たちが、大きな蚩尤の軍勢と戦うのだ。


 無謀な戦いと言わざるを得ない。

 少しのミスが、死を招くだろう。


 もし、私達が死んだら? 

 考えたくはないが、この桃源郷には、守るものが誰もいなくなって、蚩尤の思うがまま。私を殺したはずの東王父が、時々見回ってくれているらしいが、それにも限度があるだろう。


 我々は、配置についた。


 私の考えた作戦は、こうだ。

 まず、私の仙術で植物の力を使って、この岩山の地形を有利な地形に変える。

 

 蓮華の力で蚩尤の軍勢を閉じ込める籠を作る。

 長牙がおとりになって、蚩尤をその籠の中に追い込み、蚩尤を閉じ込めた瞬間に、この間、蚩尤を倒した方法を応用して、炎花の炎と長牙の風で、蚩尤たちを一網打尽で燃やしてしまう。


 そこで、全ての蚩尤が燃えるとは思っていない。

 必要なのは、そこで蚩尤を混乱させて、統率を乱れさせること。

 その間に、隙を見て、私が早春の門を開けるのだ。


 長牙の話では、私の仙術が鍵となり、力に反応して早春の門は開くはずだと。

 

 もし、私の力が足りなければ、早春の門が開かずに、私達は、混乱させられて怒った蚩尤の大軍に殺されるだろう。


 早春の門さえ開けば、炎花も蓮華も力を取り戻す。

 そうすれば、後は、二人の力を使えば、早春の門は、守れるはず……なのだ。そのはず。まさか、早春の門が開いても負けちゃうってことは……ないよね?


 と、とりあえずやってみようか!


 私は、植物の根を使って、岩山の地形を変える。

 長く大きな谷を作って、蚩尤達を追いこむ場所を作る。


 仙術を使って、植物に生命力を与えることで岩を掘るが、なかなかこれは難しい。


「本当は、こういうことは、石榴が得意なのですけれども」

蓮華がため息をつく。


「そうなの? 土の大仙女だものね。それは惜しい人材が、崑崙山に逃げてしまったわ。でも、きっと、早春の門さえ開けば、戻ってきてくれるはずよね?」

 

 私の言葉に、たぶん……。と、蓮華は曖昧な返事をする。

 帰ってきてくれないと困る。

 

 何とか大きな石を避けて掘り進み、いびつだが、それなりに思うような形に掘れた。蓮華が、そこへ枯れ枝や枯れ草を、仙術を使って敷き詰めてくれる。


「燃えやすい松や松の実を中心に、選んでおきました」


 そうね。素材によって、同じ木材でも燃えやすさは違う。

 油分の多い木ならば、一気に燃え上がってくれるだろう。


 炎花は、火をつける予定の場所で待機している。

 

 夜遅くの暗がりでの作業。蚩尤を指示している者がどこにいるのかは分からないが、向こうはこちらの動きに気づいてはいないようだ。


 これほど大規模に活動しているのに、蚩尤は反応しない。

 早春の門の前にずっとたむろしている。

 結果として、我々は、奇襲をしかける状態。

 向こうは、私がまだ幼く、早春の門を取り戻す力はないと油断しているかもしれない。


 このチャンスを逃す手はない。

 私たちは、作戦を決行した。


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