第6話 夢

 館に戻れば、青鳥が駆け寄ってくる。


「桃華様~!! お怪我はございませんでしたか? 痛い所はありませんか? ほら、お腹はお空きではございませんか?」


 とても心配してくれていたらしい。

 長牙から降りた途端に、青鳥に抱き上げられてスリスリと頬ずりされる。


「この頼りない長牙が、桃華様にご無理をさせていないかと、本当に心配で!」

「鳥というものは、本当にうざい……」

長牙が呟けば、


「あなたが、頼りないからでしょう??」

と、青鳥がキッと長牙を睨む。


「そうだ! オヤツ! オヤツを……て、あれ?」


 二人のやり取りを見ている間に眠くなってしまった私は、うつらうつらとしていた。

 どうやら、体が幼いから、体力もそうないらしい。あれほど派手に仙術を使ったのも影響しているのかもしれない。

 眠くて仕方ない。


 そっと青鳥が長牙の背に私を乗せてくれる。

 長牙のモフモフの毛皮は、眠い私に心地良い。


 そのまま静かに青鳥と長牙で運んでくれて、寝所の布団に入ったころには、私は夢の世界に居た。


 夢の中は、淡いピンク色の温かい靄に包まれていた。


 女の人が一人、こちらを見ている。

 淡いピンクの髪の若い女性。とても綺麗な人だ。

 ピンクの髪? では、あれは以前この国に居た時の私? 西王母・桃華ということか? とても悲しそうな表情の彼女は、何か言いたそうだけれども、声は聞こえてこない。音は聞こえずパクパクしている唇を読んでみる。


 ご・め・ん・な・さ・い


 少し涙で潤んだ瞳。

 一体誰にどうして謝っているのか。


 何も分からないままに私は目が覚めてしまった。


「お目覚めですか? よほどお疲れのご様子で、ぐっすり眠っておられました」

青鳥がそう言って手渡してくれたのは、温かい甘茶。


 寝覚めに丁度よい甘いお茶は、ほのかにジャスミンが香る。


「美味しいわ」

「そうでしょう? 青鳥特製のブレンドです。崩御される前の桃華様もこのお茶をとても気に入って下さっていたのですよ。さあ、お粥をお召し上がりください」


 盥で顔を洗って青鳥に促されて寝所から出れば、テーブルの上に粥が用意してある。粥の上に載っているのは、赤いクコの実。

 お粥には……たぶんホタテ? 旨味がしっかりと沁み込んでいる。よく見れば、白い粥の間に丁寧にほぐしたホタテの身がみえる。

 トロリと柔らかい粥は、食べやすい温度に程よく冷ましているから、寝起きでもとても食べやすい。


「仙女って霞を食べて生きているんじゃなかった?」


 確か、どこかの本でそんな記載があったような気がする。

 あれ? でも食事係がいるのに、それも変か?


「なんですか? それ。人間界の伝承ですか?」


 青鳥が笑う。


「桃を植えて育てているのに、そんな訳ないでしょう? 私、青鳥の存在意義も無くなってしまいます! ……まあ、無益な殺生は致しませんし、それほど食べ過ぎる人もいませんから……そう見えるんでしょうかね? ですが、仙人も仙女も元は人間です。外界の者よりかは食べないかもしれませんが、本質は変わりませんよ。恋もすれば、食事もします。昨日のがとうしょこらも、楽しかったですが、他にもお好みの物があれば、ぜひ教えて下さい! この青鳥が、再現してあげましょう」


 おしゃべり好きの青鳥。聞いているだけでも楽しい。

 見知らぬ異世界で責任重大な役を私は追っているのだと思えば、ちょっと憂鬱にもなるのだけれども、青鳥の明るい声にはとても癒される。


「桃華様はお目覚めですか?」


 そう言って部屋に入ってきたのは長牙。

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