桃の花は風に舞う(最高の仙女である西王母の生まれ変わりと言われた少女は、モフモフの白虎と唯一と言われる仙術を使って桃源郷を守ります!)

ねこ沢ふたよ

第1話 転生の森

 目を覚まして周囲を見れば、そこは森の中だった。

 鬱蒼とした森の中、半径二メートルほど円形に木の生えていない草の上で眠っていたようだ。


 ……ここは?


 起き上がって周囲を見渡しても、この場所に覚えはない。


 ……私、何していたんだっけ?


 確か、仕事の途中で初めて入った田舎のコンビニで、妙に気になった桃を買って食べた。


 ? あれ? 私誰だっけ?


「わぁ、もう顕現してる!」


 誰かの声がして上空を見れば、白くてモフモフの虎がこちらに向かって飛んでくる。


 と、虎?? 待って、これ生命の危機じゃない?


 何故虎が話をしているのか、何故空を飛んでいるのか、何故こちらに向かってくるのか、そんなことは全く分からないけれども、これ、確実に『生命の危機』ってやつでしょう?



 だって虎だもの! あの爪の一撃でパックリ肉をこそげ取られるか、あの牙で喰われるか!


 やばい! 逃げなきゃ!


 オタオタと逃げようとして一つ気づく。

 私、手足縮んでない? こんな短かったっけ?? てか、この服なんなの?? 薄桃色のヒラヒラした可愛い服に、錦糸の刺繍の入った若草色の帯。


 わっ! 可愛い!

 て、そんな場合では無かった! 巨大な虎が迫っているのだ!


 私は、空飛ぶ不思議な虎を避けるべく、森へ逃げ込もうとする。


「ちょっと、桃華とうか様! どうして使い魔からあるじが逃げるんですか! そんな西王母は聞いたことがありません!」


 逃げようとする私に、白虎が慌てて声をかけてくる。


 知らん! 知らんわ!!

 とにかく、獲って喰われそうなんだ。


「猛獣の知り合いはないの! こっち来ないでよ!」


 なにこの声。まるで幼い子どもこような高い声。私の声とはとても思えない声。


「だから! 今ご説明いたしますから! ちょっとは、落ち着いてください!」

虎が苛立っている。


 苛立ちながら私の逃げようとした方向に立ちはだかる。

 

「く、喰わない?」


「喰いませんよ。失礼な!」


 じゃあ、少しくらいなら話を聞いてみても良いのか?


「お初にお目にかかります、桃華様。わたくし、白虎として桃華様の今生の使い魔を務めさせていただきます、長牙なぎと申します。……お分かりいただけましたか?」

「一ミリも分かりませんが?」

「ちょっと、もう……話が違うじゃないですか! 貴女、桃を食べたんでしょう?」

「食べたけれども、だから何よ!」

「じゃあ、やっぱり伝承の通りの桃華様の生まれ変わりじゃないですか!」


 虎は曰う。

 私は、『桃』に見出されたのだと。

 前世でこの桃源郷を、仙術を駆使して統治していた圧倒的なチート国王、西王母様。その西王母桃華様の生まれ変わりが、私なのだと。


 身に覚えは、一切ございませんが? 人違いではありませんか? 


「試しにほら、お力をお使いになってみて下さい」

「力?」

「だ〜か〜ら〜! 手のひらに念を込めて、その念をあちらの方にぶん投げて下さい!」


 長牙の言う通りに、右手の手のひらに集中してみれば、だんだんと手のひらが熱くなって青白い光を帯びてくる。


 懐かしい……。


 初めて見るはずのその光に、不思議と心が、故郷に戻ってきた時のような懐かしみを感じて満たされる。

 

「投げて!」


 長牙の合図に合わせて光を木にぶつければ、パァァァッと、木が輝きだして、木が花で溢れかえる。


 咲き誇る木蓮の花は、白い花弁を蒼天に広げて、辺りに咲いた喜びを芳香で示す。


 こ、これが私の力……。


「転生おめでとうございます」

長牙は、恭しく私に頭をたれた。


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