箸休め(その肆):土用の丑の日格付けチェック

 夏真っ盛りの七月某日。

 今年も、このシーズンがやってきた。

 土用の丑の日は、春から冬までどの季節にも設定されているらしいが、我が家は毎年七月の時期に、あのたっぷりの甘辛いとろみが広がる鰻を食している。



 年に一回の、お楽しみ。



 まずは、スーパーから買ってきた鰻をフライパンに並べ、その周りに料理酒を回しかけて火をつける。

 後は、蓋をして蒸し焼きにし、付属のタレと粉山椒をかけたら準備完了。

 蓋を開けると、ふわっふわに身が膨らんだ鰻と共に、キッチンやリビング、家中にあの照ら照らとした芳ばしい香りが広がっていく。

 すぐにでも、ほかほか炊き立ての、つやつやな白ご飯と合わせて頂きたいところだが、それはまだ我慢。



 今日の作業の本番は、ここから。



 鰻の切り方、並べ方など、昨年の反省を生かして試行錯誤。

 真っ白い楕円型のお皿に、深緑色の青紫蘇を四つの区画に分けてのせ、その上に仕上げたばかりの鰻を崩れないように慎重に並べていく。

 家族がどの位置から箸を付けるか順番を推測し、できるだけ味の違いが顕著に現れないか、少しでも惑わすことができるかを考えて。



 何のために、この作業をしているのか。



 そう。これは、毎年この時期に合わせて行われる、我が家恒例『鰻格付けチェック』の準備なのだ。


 鰻は家族全員大好きなのだが、毎年、スーパーで買うのには勇気がいる値段が付いている。

 しかも、国産蒲焼きを一人一枚、計五名分買おうものなら、ゼロが四つ付いた紙幣があっさりと手元から消えてしまう。

 外国産の物はもう少し手が届きそうな値段だが、せっかくの一年に一回のお楽しみ。やはり国産も食べたくなる気持ちは抑えられない。

 質と量、そして、価格という難題を切り抜けるため、某テレビ番組の企画を参考に苦肉の策として閃いたのが、そう、我が家恒例『鰻格付けチェック』なのだった。


 国産物と外国産物、そして、偽鰻、いわゆる練り物で作られた鰻の蒲焼き風を準備し、それをお皿に並べていく。

 そして、『お皿の上下左右、四つの区画に配置された鰻が、国産か外国産か鰻もどきか』クイズ形式に出題し、食べ終わってから答え合わせをする、というもの。

 これならば、値段を抑えながらも我慢せずに、楽しみながらいろいろな種類の味を食べ比べることができるのだ。

 ただし、出題の仕方にはひと工夫が必要。

 買ってきたものをただお皿に並べるだけでは見た目でわかってしまうし、何より味の違いがもろに出てしまう。

 そのため、必ずどの品物も料理酒で身をふっくらとさせてから同じタレを絡め、粉山椒で微妙に誤魔化しを入れる。

 練り物の味はかなりの企業努力を感じることができるが、本物の鰻と比較するとどうしても見た目で差が出てしまう。

 なので、そこは切り方や青紫蘇の力を借りて最大限の誤魔化しを入れるようにしている。

 なお、昔は外国産の物は国産物に比べると味の違いが格段に出ていたが、数年前から段違いに美味しくなり、ついに昨年は連れ合いが国産物と騙された。そのため、かなり侮れない代物となっている。



 そして、今年度のラインナップ。



 今年、近所のスーパーではいつも並べられている物に加えて、『鰻の蒲焼き真空パック』や『白焼き』、『関東風・関西風』といった昨年度よりさらに多種多様な物を揃えていた。

 外国産の物も真空パック入りとなっていたため、今回はかなり難易度のクイズを出題できると予想された。

 なお、クイズ出題に選んだ品物は、『外国産物(真空パック入り)、国産物(関東風、関西風)、練り物鰻もどき』の四種類だ。

 さて、クイズの結果は――――――――








 練り物の蒲焼きは全員正解。

 しかし、出題者の自分以外の全員が、『国産物の鰻(関西風)を外国産物の鰻と誤認』する事態となった。

 食後に正解を聞き、唖然とする連れ合いと我が家の寝ぼすけ坊主。今年は、かなりの自信があったらしい。

 してやったりの、にんまり出題者(自分)。

 これはおそらく、自分以外の全員がこれまで『関東風』の蒲焼きしか食べたことがなかったからだと思われる。

 ちなみに、自分は元は関西出身。今年食べた鰻で一番しっくり来たのは、やはり『関西風の鰻の蒲焼き』だった。

 逆に、他の家族は食べ慣れない味付けだったようで、違和感を感じたとのこと。おそらく、外国産物は関東風で味付けされていたのだろう。

 食文化の違いが、こんなところにまで出てくるとは。わからないものだ。



 そんなこんなで、今年も大いに盛り上がった我が家恒例『鰻格付けチェック』。

 来年もまた、こんな感じて楽しみながら味わえるといいな。





『ゆっくり、じっくり。いただきます』



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