車内

車を呼んだら後部座席に昔の友人が乗っていて意外だった。

社内は車特有の匂いもなくシートの感触もない。

友人は笑っていて私も笑っていたのだけれど次第に自分の顔から笑みが剥がれていくのに気がつく。

その人とは一昨年喧嘩別れしたはずなのになんで私達は笑い合っているんだろう。

私はこれは夢なのだと気づく。

早く終わらせたかったが私の口は無難な言葉ばかりを返す。

友人は笑っている。

早く終わって欲しいのに脳はこの場面での会話をすでに決めてしまっているようで私は命令された通りの言葉を返す。

友人は楽しそうにそれに返事をする。

私の表情も完璧に笑っていることになっている。

すべてが決められた中で反論する私が私なのかわからなくなってくる。

私はそんな私自身を後部座席をさらに俯瞰した位置から見ている。

見続けている。

早く終われ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢の散文 @murasaki_umagoyashi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ