「行動」
「あのライトが原因か…!」
一人の男性が壁に走ると積み上げられたオブジェの上へ、自身を照らすライトの一つに向かって手を伸ばす。
「届かない。誰か手を貸し…!」
その胴体が瞬く間に上下へと分離する。
――切断したのは植物の触手。
植物は、そのままムチのようなツルを伸ばすと未だ血が通っているのか、ジタバタともがく男性の体に巻きつき、大きな口を開けて丸ごと飲み込む。
「ああ!」
途端に悲鳴ような声をあげ、部屋の真ん中でうずくまる女性。
その横には勇が立ち…今や、室内で生き残っている人間は三人だけ。
(室内を徘徊する植物たちは三体。ともかく、この状況をどうにかしないと)
勇はとっさに周囲に顔を巡らせ、ライトの位置関係を把握する。
(――室内で点灯しているライトは二種類)
一つは、天井から室内全体を照らす埋没固定型のライト。白い光を放つそれらは今や光量が絞られ、残りのライトが強調されるよう弱い光を放っていた。
対して、煌々とあかりの放つのは四隅に設けられた黄色のライト。
自立型で上下左右を照らせるようになっており、その大部分は今や男性の残った腕を貪る植物を向いているように見えた。
(…もしかして、動くものを照らすのか?)
考えてみれば。うずくまる女性も、勇も、目を覆っている少女でさえも動いていない人間に対して、ライトは反応していない。
「…これからあの子たち、どうするのかな?」
――ふと、聞こえたつぶやき。
見れば勇の手から少女が離れ、手にはスマートフォンが握られていた。
「ああ、これ?私たちの動向が動画にアップされていないか確かめていたの」
画面には、先日の勇たちの様子がコメント付きで映し出されており「…でも、今のところ、動画にも、掲示板にも
「それより、向こうの子たちがおかしな動きをしてる」
――見れば、三体の植物はそれぞれ部屋の隅へと移動しており、ライトが照らすブロックを
「見たとこ、ライトは一定の範囲に近づかなければ反応しないようだし。あの子たちもあくまで食欲を満たすためだけみたい…話に聞いた通りだわ」
「…そんな話、いつ聞いた?」
思わず声をあげる勇に「ダメじゃ無い。人の話は、ちゃんと聞かないと」と、上目遣いでたしなめる少女。
「お茶を飲んでいたときに、いくらご飯を食べても満たされないと言ってたわ。つい最近まで小さな洞窟の中に身を寄せ合って暮らしていたそうだし、今日まで満足に食べられていなかったのよ…かわいそうに」
同情するように少女は植物へと目をむける。
「仲間も少なくなって、種が途絶えそうになったところを【医療教会】に拾われたって…もちろん、嘘か本当かはわからないけど」
(フィクション、フィクション…これは、フィクションよ…!)
ふと、勇の脳裏に数日前の動画配信をしていた女の姿が浮かぶ。
「でも。作り話にしても私は信じてあげたい」
気づけば、少女は祈るように両手を組んでいた。
「私の両親が言っていたの。嘘を吐くときにも必ず根拠となる真実があるって、そこから汲み取れる物事もあるんだって…だから」
少女はゆっくりと一歩進む。
「私、さっきまで話していた子ともう一度会話をしてみたい」
「…それは!」
思わず、止めようとする勇に「でも、あのブロックももうわずかでしょう」と、少女はブロックを顎でしゃくる。
見れば、確かにブロックは半分以下の量になっており、全てがなくなったときに植物たちがどう動くのか、勇は予想がつかなかった。
「…今までのコトは指の隙間から全部見ていた。どの子が私たちと話していた子かもわかっている。うまく説得すれば、脱出のヒントがわかるかもしれない」
歩を進める少女。
彼女の動きはしごく緩慢で、ライトも彼女を追ってこない。
「俺も行く」
その言葉に勇もゆっくり後についていく。
「彼女は俺を好いているように見えた。一人より二人の方が良い」
「…好きにして」
少女と勇はゆっくりと前進していくも、その途中で「実はね、今ホッとしているんだ」と少女がつぶやいた。
「今、ここにいる人たち以外、私のことを知っている人はいないようだから」
「…?」
言葉の意味がわからず、少女の方を向く勇。
同時に届いた女性の金切り声。
鼻をかすめる甘ったるい香り。
そして、急速な空腹感が勇を襲い――
「あ?あ…ああ!」
口を押さえ、膝をつくも突如始まった飢えはおさまらない。
唾液が口内にあふれ、何かを口にせずにはいられない衝動が全身を駆け巡る。
「なんで…あの、匂いのせい?」
勇と同じく、口元を抑える少女。
視線の先には二体の植物。
片方の植物が、もう一体へとかじりついていた。
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