イワン雷帝に、直訴の巻(十七話)
毛沢東は、下界の戦乱の渦に巻き込まれるのか。
天界に来てからというもの、周恩来を皮切りに、田中角栄、老子様との会見をこなした。
そして西洋の同時代指導者廻りへと、ゆるゆると輪を広げて行ったのである。
チャ―チル、スターリン、フルシチョフ、ムッソリーニ、でもってムッソリーニの愛人とな。
さて今度は、ルーズベルト、トルーマンと会見する予定だったのだが。
が、それがである。あの暴れ者の露助野郎のせいで、急に忙しくなって来たのである。
天界にて、安寧に過ごし、ゆくゆくは「素女経」の奥義を知るを楽しみにしていたのにである。
奴はプが付く、熊のプーさんなら可愛いが、今や悪名高きプーチンのせいで。
毛沢東はかく思う……
ここは、やはり中国の出番かな、でも下界の指導部では宛てにならんわい。
わしが天界から、昔のロシアの超大物達に嘆願しまくるしかあるまい。
この前は、プーチンの母君には哀願、父君には懇願したものだが、だめなり。
あのドラ息子は、手強過ぎる。よし、泣く子も黙るイワン雷帝に直訴しよう、と。
毛沢東 「おお、これはこれはイワン雷帝様、御高名は天界にも轟いておりまする」
「私は、お隣で新中国を作った毛沢東でありまする」
「下界では、ロシアがウクライナを侵攻と称して、実は侵食しとります」
「これは一重に、プーチンなんぞの野望が元で大惨事となったのです」
「もはや下界では打つ手なしの有様でありまする、天界から介入するしかないと」
「私はプーチンの父母に働きかけましたが、埒あかずでありました」
「こうなったら、故国ロシアの皇帝に直訴致すしかあるまいと、その次第で」
「どうか皇帝の威厳で、あの男を何とかして平和をもたらしてくだされませ」
「平にお願い申し上げまする、雷帝様……」
イワン雷帝「お前は中国人か、モンゴルの仲間だな、嘗ての敵ではないか」
毛沢東 「いや、こちらもチンギス・ハーンには国土を蹂躙され、孫に乗っ取られたのです」
イワン雷帝「我がロシアはキエフを落され、その後、タタールのくびきを250年くらった」
「肌の黄色い奴らに国を滅ぼされ、貢物を差し出すはめにな」
「キリスト教国が野蛮人に支配されたのだ、この屈辱わかるまい」
毛沢東 「同じでありまする。われら漢民族も支配されたのです、草原の狼に」
「あの時代は野蛮ゆえに強かったのです、なまじ文化が重石となったのでは」
イワン雷帝「中国人よ、わしの祖父がモンゴルを追い払い国を作った」
「モスクワを中心にロシアをまとめ、ヨーロッパの列強の一つにな」
「わしは初代皇帝として、アジアの垢落としから始め出したのだ」
「モンゴルなき後は、広大な土地が恵みの大地に見えた」
「わしはコサックに、シベリアを領土に組み込めと命じた」
「ヴォルガ川から東は、どこまでも取り放題に思えた。仕返しだ」
毛沢東 「あの、その取り放題が、今のロシアで起きているのです」
「スラブの母体であるウクライナを、壊しまくっております」
「国を牛耳ってるプーチンは皇帝気取りです。あの男の戦争です」
「この兄弟の争い、何とかなりませぬか、雷帝様」
イワン雷帝「キエフ・ルーシーを、モスクワ・ルーシーが攻め、ベラ・ルーシーは子飼いか」
「わしの時代には考えられん事じゃな、愚か者が。スラブの裏切り者めが」
「あの男を成敗してくれる、わしの怖さを思い知らせてくれるわ」
毛沢東 「雷帝様、いかなる、やり方であるまするか?」
イワン雷帝「わしが息子にした様にな、血を……」
毛沢東 「……」
毛沢東は言葉を失った。何をやったかは知っている。
イワン雷帝ともなれば、夢どころか、下界に現れる力があるのだろう。
人としてか、幻としてか、はては矢としてなのか……
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