老子と謁見の巻(五話)
中華思想の源流を辿ると、孔子、老子、孟子、荘子などに行き着く。
当時はもっといた、諸氏百家が乱立していたのである。
それも紀元前のことである。日本は縄文の長いまどろみの中だった。
実は、それらの思想家の遥か前から、伝説の中で脈々とした流れがある。
この大河の最初の滴は何なのか、その一滴を知りたいものである。
老子も、学んだ。有象無象の流れを体系としてまとめようとした。
中華思想とは、人間の原始に迫る底なしの光と影ではないのか。
この物語りの主人公、天国の毛沢東は、どう老子と謁見するのやら。
老子の前では、まだまだ書生である。さあ、喝を喰らってんか。
雲か煙か定かにはわからず、五里霧中に包まれてきた。
……もこもこ、むくむく、わやわや、むくむく……
老子 「道、道がある。毛よ、お前の道は何じゃ?」
毛沢東「おっ、これは、これは老子様でございますか、毛沢東であります」
老子 「わかっておる。お前の事は生まれる前から、よう知っておる」
「お前が半分だった頃からな、人は半分と半分とで、なっておる」
「つまり、父様の半分、母様の半分が結合し、生まれて来る」
「わかるな。お前は母様似の面しとる、女の面相がある」
毛沢東「あの、その女の面相とは、どう言う……」
老子 「男は火性、女は水性である。母様の水性が勝るにあり」
「火と水、どちらが強いと思うや、これ明白なり」
「お前は水の気持ちがわかる。女の心がわかる、だから国をまとめられた」
「だがな、毛よ、お前は女を泣かせ過ぎたではないか、涙は雨水の如く」
毛沢東「私は、私は国の動乱期には、やもう得ない事もあるかと……」
老子 「ここで、お前に問う。正直に答えよ、お前は下界で蟻を踏みつぶして来
た?」
毛沢東「はっ、そ、それは農家ゆえ、一日に五匹として年に二千、一生では十五万位
かと」
老子 「重ねて聞く、豚を何頭たいらげて来た?」
毛沢東「えっと、そうですな、脂身たっぷりの紅焼肉に目がありませんでして」
「食べ過ぎたせいか、晩年には似て来た様な気が、いやいや、んー」
「一生でまるまる肥えたのが一頭くらいかと、大好物でして」
老子 「毛よ、して人を何人殺めた。お前の命令一下でな、如何に答える?」
毛沢東「それは、その、私の半生は戦いの嵐の渦中でありましたので」
「辛亥革命、抗日十五年戦争、国共内戦、めくるめく数多くかと」
老子 「その後の方が、もっと多かろう、自分の過ちが元での事は、どうじゃ?」
毛沢東「しかるに、新国家建設の後には、大躍進運動、文化大革命で……」
老子 「数千万ではきかんだろう。もっともっと多くの血潮が流れた」
「お前のして来た事には、歴代皇帝も驚くぞよ、良くも悪くもな」
「いいか、本心から答えよ。偽りを言えば、そこまでじゃ、心せよ」
「お前は新しい国を動かすには、人が少ない方がいいと思ったのではない
か?」
毛沢東「……ん、その事は、御勘弁くだされ。そうとしか……」
老子 「肯定も否定もなし、それが答えじゃな。自身のみわかるか」
「毛よ、蟻の数、豚の数、人の数を、もう一度数え直せ、何かが見えてくるぞ
い」
「また、会おうぞ。今度は陰陽について教えてやる、では、な」
毛沢東「はっ……」
……もこもこ、むくむく、わやわや、むくむく……
老子様は、毛沢東が返答に窮すると、思いやって消えて行った。
どうやら見込まれたようである、次は陰陽二元論を教わるらしい。
知りたくてうずうずしている、あの「素女経」は、まだまだお預けである。
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