鬼とかすみ~薬師の私は禁じられた山で優しい鬼に出会いました~
天城らん
鬼とかすみ
序 章
――― 今年も桜は咲いている。
娘は美しい黒髪を春風に
白にも近い淡い桜色をまとったその桜は、山の中腹にあり村の者には
娘は幼き日、母のぬくもりに抱かれながら聞いた桜の精の話を思い出していた。
『かすみ、
そう語った母は、娘が生まれる前に別れたという夫のことを思い出したのだろうか、少し寂しそうに微笑んだ。
娘にとって、寝る前に聞くおとぎ話はかけがえのない幸せな記憶であった。
『おかあさん。わたし、
でも、山には鬼がいるから行ってはいけないんでしょ?』
『そうね。村の
『うん。でも、そんなに鬼はこわいの? 人をたべちゃうってほんとう?』
震える幼い子を母は『母さんも、おじいさまもいるから大丈夫よ』とふふっと笑いながらやさしく抱きしめた。
その匂いを吸い込むと、娘は安心してすうと眠くなった。
今年も見事に咲いた桜を見つめ、娘は鬼のいる山へ入る決意をした。
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