第18話 湧き立つ不安
今日も喫茶店の前に立つ。ふとランプに目を向けた瞬間、胸がざわついた。丸い電球をジッと見つめていると、そこに映った出来事に私は背筋を震わせた。
中に入ると、和馬と准が来ていた。
いつもの席に腰をおろし、悠斗と和馬、准の話しに耳を澄ませた。
「あさっては夜が明ける前に出発するってさ。早いよなぁ……」
「俺、起きる自信ないぜ。完全に冬子頼みだな」
「それより悠斗は本当に来ないのか?」
「うん……どうしても調べたいことがあるから……今回は残るよ」
「それならこっちでも手を回して調べてるって言ったろ。もう少しかかりそうだけど、必ずわかるってうちの奥さんは言ってたぞ」
「准、ありがとう。でも、少しでも早く知りたいんだよ」
悠斗の顔が寂しそうに笑った。なにがあったんだろう。話しを聞いていると、あさってから一泊で商店街の慰安旅行があるらしい。この商店街から人がいなくなる。それなのに、悠斗は残るというのか。
「そうなの。行かないって言うのよ。困っちゃうでしょ? どうにかならない?」
女の子が肩をすくめて私に訴えてきた。どうにか、と言われても……今の私に悠斗を動かすだけの力はあるんだろうか?
三人はしばらく話し込み、数十分がすぎたころ、和馬と准はそれぞれの家に戻って行った。
「……悠斗の気持ちが心配?」
ズキンと胸が痛む。このままこの子の言うことを聞いていたら、私は帰されてしまう。
無視をしようとしているのに、女の子はどんどん話しかけてくる。
言いたいことはわかる。理解もできる。でも、私は……どうしたらいいんだろう?
「結菜……?」
うつむいて考え込んでいる私に、悠斗が話しかけてきた。その顔は血の気を失って見える。
「結菜、早く戻るんだ。今すぐ戻って」
「なんで……」
そう言った私の目に入ったのは、自分の手だ。わずかに透けて下に置いた雑誌がうっすらと見えている。
ここで透けて消えていった人を何度か見た。どうやらその後、亡くなってしまっていると薄々わかっていた。
今、私が透けているということは、そういうことなんだろうか。
「悠斗、もう長く会いに来てくれないよね。私は会いたくてここへ来てしまっているけど、本当は会いたくなかった?」
「そんなわけないでしょ……来てくれて本当に嬉しいと思っていたよ。だからこんなに長い間、来るのを拒むことができなかったんだから」
「じゃあ、どうして会いに来てくれないの?」
悠斗はいつもの困ったような笑顔を見せた。カウンター越しに向かい合って立つと、私の手を握った。
「結菜はね、転院してしまったんだ。僕はなにも知らせてもらえなかった。結菜のご家族も引っ越してしまって、もうあの家には誰もいない。どこへ行っても、個人情報だからと転院先も引っ越し先も、教えてはもらえなかったんだ」
まさか、そんなことになっているとは思ってもみなかった。
私は今、自分がどこにいるのかさえも、わかっていない。女の子を見ると、ただ黙って小さくうなずいた。
調べなければ。自分の居場所を。そう思った瞬間、いつものように意識が途絶えた。
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