永劫図書館 〜人生は物語〜 交差する物語は記憶と躍る

螺旋状らーゆ症候群

兄妹の記憶編

プロローグ 

 何度目か分からないため息と涙が頬を濡らす。時計の針はとっくに一時を回っている。通行する人も最早いない。俺は思い入れのある煙草を咥えて、夜空を見上げる。


「ああ、今日は特段と不機嫌だな…」


 空に浮かぶ光を遮る漆黒の暗雲。雨粒がポツリポツリと煙草の優しさを鎮火する。降り始めた小夜時雨が既に冷え切った心身を打つ。


 公園のベンチから腰を上げ、下をむき、ゆっくりと歩みを進める。まだ乾いていない公園の砂場を濡らす凍雨がぼんやりと目に映る。子供たちが残した地面に描かれたドッヂボールのコートが、妙に目に残る。


 思い出を置き忘れたように、心を引きずりながら公園を出る。市街地の道は、電灯の下しか視認できないほど闇が深い。ちょうど、明滅していた電灯を過ぎたあたりで、明かりが消えた。そして、そして、そして、闇の中、独り残される。後悔という言葉は何度も出た。それでも、なお、足りないのだ。自嘲気味な引き攣った笑みを浮かべ、俺は祝福するのだ。


「……誕生日おめでとう」


 白い閃光に包まれ、俺は意識を失った。


 私は一冊の本を閉じ、顔をあげる。目の前には空間を埋め尽くすほどの本棚。壁や床に備え付けられているものだけではなく、所狭しと空中にも並べられている。ここは図書館。全ての創作物を保存する『永劫図書館』である。今日もまた、新たな来訪者がやってくる。

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