死と海と再臨
武州人也
限界
何の気なしに車窓を眺める。外の景色は、もう見慣れないものに変わっていた。僕の乗るバスは海沿いの道を走っているようで、右手側には荒波を蹴立てる海が見える。
昔は楽しかった。あの海も、二年前に
ああ、そうだ。優希さえ生きていてくれたら、僕は今しようとしていることなんか考えもつかなかった……かもしれない。
何もかもが、限界だった。
中学校では、いじめを受けている。体育祭の大縄跳びで何度も引っかかって、「どんくさくてクラスの足を引っ張る奴」だと思われたことが原因なのかもしれない。直接殴られたり蹴られたりはしないけど、筆箱を奪われた挙げ句バスケのボールのようにパス回しをされたり、朝登校したら上履きに泥が入っていたり、それ以外にもこまごまとしたイジワルをたくさんされた。
こんなつまらなくてくだらないことでも、毎日毎日繰り返されれば心もすり減ってくる。僕を庇い立てする人がクラスに一人でもいれば違ったかもしれないけれど、あいにくそんな人はいない。周りには敵ばかりで、味方は一人もいなかった。
気心の知れた友達がいない中で、
優希は小学校の卒業式を終えたその日にこの世を去った。その後すぐに優希の両親が引っ越してしまって、僕の家の向かいにあった一軒家は取り壊された。今その跡地は駐車場になっている。
つらかった。味方のいない状況で、一方的な攻撃を受け続ける。家も決して安住の地ではなくなっていて、もう心休まる時も場所もない。先の見えない暗闇を抜けるには、もうこの方法しかなかった。
バスの終点から二十分ぐらい歩くと、海岸の岩崖にたどり着く。僕はそこに身を投げて、全てを終わらせるつもりだ。
終点はまだずっと先だ。確かもうすぐ
この鰐川神社、僕が七五三をやったところだ。祭りの日に
……ああ、それにしても眠い。ひと眠りしちゃおう。そう思った僕は、座席に深く腰かけて目をつぶった。
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