オカルト事件簿(タイトルの変更あるかも)

カモミール

001

 一条和正いちじょうかずまさは、大学の第二研究室に近い来客用の応接室のソファに座りコーヒーを啜った。客に動揺を見透かされまいと一挙一動を意識し振る舞うが、カップを持つ手が震えるのはどうしようもなかった。

 前任者からの引き継ぎである程度は理解したつもりだが、内閣情報調査室、所謂内調だとかCIROと呼ばれる内閣官房の情報機関ともなると、今日で五度目の密会になるが慣れるどころか緊張が強いられた。


「ーー分かりました。調査しご報告致します」


「ではメールか電話を下さい。報告書は私が直に受け取りに伺いますので、よろしくお願いします。ーーああ、くれぐれも外部へ漏れないように内密に願いますよ」

 

 蒲原優かもはらすぐるは応接室を出てまもなく、席を立とうとする一条に送らなくても結構だというように手を振って、独り大学の裏口から静かに出て行った。


 CIROの蒲原は主任の重責からなのか、いつ会っても眉間に皺を寄せて仏頂面顔を崩さずにいた。ただでさえも、内調など面倒くさい組織が相手で胃に負担をかけているというのに、胡散臭くも髭を生やし、アフロヘアの頭はまるで雀の巣とでもいうおうか小汚い格好に不満が募る。おそらく素顔を隠しているのだろう。全く人を馬鹿にしたものだと内心怒りを覚えるが、こんな怪しい連中を、まともに相手にしたところどうしようもないと一条は己に言い聞かせた。だが、こうも辛気くさい男を相手にしなくてはならないのは、苦痛以外の何ものでもない。客室に残された一条は、先刻の依頼内容を思い出すと胃の痛みを覚えずにはいられなかった。


                




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オカルト事件簿(タイトルの変更あるかも) カモミール @Fascinate

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