そんな出会い
心配で調べ物をしていたら、夜ふかしをしてしまったが、今日は学校だ。起きて居間に行くと、スーツケースを持った母さんと出くわした。多分、親父が入院することになるのだろう。
「父さん大丈夫だった?」
「可愛くなったけど、大丈夫!じゃ、行くから。」
そう言葉を残し、母さんは颯爽と家を出ていった。・・・、意味が分からない。親父と可愛いは何処も符号する所が無い。よしんば可愛いとするならば、それはぬいぐるみが可愛いというソレであろう。
「まぁ、あの様子なら無事・・・、なのか?」
親父がヤバい状態なら、母さんは冷静では居られない。毎朝キスして、今でも一緒に風呂に入るほど仲のいい両親だ。死んだりしたら、多分二度と立ち直れない。そんな母さんが意気揚々と家を出ていったのだ。多分、大丈夫なのだろう。
「さて、オレも行くか。」
トーストにバターを塗り、簡単に朝食を済ませて自転車に乗り学校へ行く。初夏を迎え学校に着くまでに若干汗ばむが、授業前に部室で着替えるか。昨日早退してバタバタ帰った為に、道着もロッカーに投げ込んだままだし、回収しないと死ねる程臭くなる。
下着を着替え道着を回収した後、教室に行くと幼馴染の工藤 結城と佐伯 千尋が声をかけてきた。結城は斜向いの家に住み、同い年と言う事もあり、家族ぐるみの付き合いでよく一緒に走り回っていた。千尋は空手の道場繋がりで、小学校は別だったが中学から一緒になり、高校も一緒になった。コイツのセーラー服姿は中々凛々しい。
「昨日の部活を早退したが、何があった?ニュースで言ってたリング絡みか?おじさんの勤め先に出現したようだが。」
「僕も母さんから、莉菜さんが知らない人と出ていったって聞いたから気になってた。」
カバンを下ろし、座るオレの机を囲むように居る2人が親父の安否を心配しているが、オレにも分からない。世間では、リングの話題で持ちきりだが、不思議と親父の名前は出てこず、偶に見つかる情報でも、行方不明者発見程度しか載っていない。
「正直分からない。父さんが巻き込まれたのは、間違いないんだけど、まだ病院から帰ってないし。朝母さんに会って話しても、わけ分からないこと言うし。まぁ、母さんが落ち込んでないから、元気だとは思うけど。」
「あー、莉菜さん司さんにゾッコンだから、それなら大丈夫なんじゃない?」
そう、工藤が日頃の姿を思い出して苦笑している。あの二人は所構わずイチャ付く。問題なのは、母さんはイチャ付く気でイチャ付いているが、親父に関しては無自覚で受け入れてイチャ付いてるので質が悪い。それは母さんが唇を突き出せば、それが当然と言うと様にキスを返すと言う程に。
「しかし病院と言う事は、何かしらの怪我を負ったんじゃないか?もしくは、検査入院かな?あのリングは話題にこそ上がるが、詳細は何一つ出ていない。」
佐伯が口に手を当てて考え込んでいる。オレも一晩調べたか、その意見には同意だ。まことしやかにネットで囁かれているのは、超古代文明の遺産論、どこかの国の兵器論、最後に宇宙人の侵略論の概ね3つだ。少数意見を探せば、まだ出るかもしれないが、どれも現実味は無い。
「2人とも父さんを、心配してくれてありがとう。まぁ、父さんの事だ、何事もなくひょっこり帰ってくるよ。」
そう言って話を切ると同時に、担任が教室に入ってきてホームルームが始まる。その中で大きな話題といえば、件のリング出現により当分の間、部活を中止すると言うものだった。まぁ、普通に考えれば、何が起こるか分からない物が有るのだ。安全を考えると、そうするのが妥当だろう。
授業は普段通り終わったが、あまり集中出来なかった。まぁ、昨日の今日だ仕方ない。カバンに教科書を入れ、帰りの準備をする。工藤はこれから他の友達と遊ぶと言い、さっさと出て行ってしまった。オレは早く帰るか、いつ母さんや姉ちゃんが、帰ってかるか分からない。
「那由多、途中まで一緒に帰ろう。」
「いいぞ、寄り道はしないがいいか?」
「おじさんの事もある、リングは見てみたいが、寄り道なら1人でするさ。」
千尋と駐輪場へ行き、自転車を出して押して並んで帰る。うちの学校からリングまでは、それなりの距離が有るので行きも帰りも見る事は出来ない。ニュースで見た限りではかなり大きそう何だけどな。
「そう言えば、あのリングってどれくらいあるんだ?」
「私が知ってる限りだと・・・、各県に2〜3個、世界レベルならそれこそ膨大なんじゃないか?ほぼ同時に現れて、光ってそれっきり。SNS何かでは記念、スポット扱いで写真とか上がってる。」
「なんの記念だよ、それ?しかし、かなり有るんだな。」
「さぁ?未知との遭遇じゃないか?取り敢えず、人の多い所にリングが有るみたいだ。」
横を歩いていた千尋がスマホを操作して、とあるサイトを開いて見せてくる。手にとってスクロールすると、内容は有志による日本地図にピンが打たれた、リング分布図だった。これを見るだけでも、結構な数のピンがある。
「台東に世田谷に足立、東京だけで3つか。人が多いだけはあるなぁ。そう言えば、秋葉原ってどこ?あれは23区じゃないのか?」
そう千尋にスマホを返しながら聞くと、残念なモノを見るように首を振りながら口を開く。
「秋葉原は区ではない。台東区、千代田区に広がる町だ。秋葉原駅や電気街は千代田区にある。ここからだと大体1,156 km位だな。」
「さよか、一度は行ってみたいな。」
そんな話を千尋としながら歩き、途中で別れて自転車を漕ぎ家路を急ぐ。千尋と帰りに話したおかげで、気が楽になった。母さんも今夜は帰るだろうし、今何処かは分からないが姉ちゃんも帰って来る予定だ。きっといつも通りに戻るだろう。
家に帰り着いたが、駐輪場に車はない。多分、母さんはまだ、親父のところに居るのだろう。そんな事を思いながら、玄関にカギを刺すが。
(カギが開いてる?)
家のカギはすでに開いて、中に入るとにゃん太がお出迎えしてくれた。母さんの締め忘れだろうか?靴を脱いで家に上がると、風呂場からシャワーの音がする。泥棒がシャワー?ないない。多分、親父が退院して風呂に入ってるのだろう。昨日の道着もあるし、さっさと脱衣所にある洗濯機に入れてしまおう。
「父さんおかえり、具合はどう?」
扉を開けて、中に入り道着を洗濯機に投げ込んだとき、風呂のシャワー音が止み、扉を開く音がした。まぁ、男同士で温泉にもよく連れて行ってもらってる、今更裸を見た所で見た何でもない。家族だし。
「さっきも聞いたけど、具合どう?大丈夫だあぁぁぁぁあ!」
振り返ると驚くほど白く、上から下までシミ一つムダ毛1本も無い綺麗な少女が、紅い瞳でオレを見上げながら立っていた。シャワーを使っていたのはこの子だろう、長い髪から雫がしたたり、身体を流れていく。少女は顎に手を当てて全裸のまま叫びもせず、考え込んだあと口を開いた。
「お帰り那由多、取り敢えず拭くものをくれ。見たいなら見てもいいが、後から絶望が追いついてくるぞ?」
男らしく話す少女はしかし、安らぎを覚える声で話す為、迫力というものはない。寧ろ、背伸びした様な微笑ましさがあるが、問題はそれじゃない!
「だ、誰だお前!泥棒か!」
「違う。今するべき事を考えろ。」
嫌に板についたその言い回しは、俺に有無を言わさず身体を動かす。・・・、うん、少女を全裸のままにしておくのも悪いよな?ここは俺の家だが、叫ばれればオレが捕まる予感がする。全裸の少女とオレ。勝敗は決している。
バスタオルを取り出して渡と、少女は素直に受け取り身体を拭きだした。ガシガシと。オレの声を聞いて様子を見に来ていた、にゃん太は警戒することもなく、少女の足に擦り寄っている。
「説明は莉菜が、帰ってからした方がいい。」
そう言って少女は、親父のトランクスを安全ピンで止めて履き、ブラは付けずにダボダボの親父のTシャツを着た。何故親父の服を?
「いや、結局誰だよ!?」
少女は服の中に入った髪を、掻き上げるようにしながら外に出し、ニヤリと笑うとオレを見上げながら。
「黒江 司・・・、お前の父親だ。」
そんな事、何処をどう取っても、信じることのできない事を言い出した。
「だだいま〜、司〜、お風呂上がってる〜?服買ってきたよ。」
ーside 司ー
服を買いに行った莉菜が帰ってきた。丁度いい、那由多が信じるか信じないかは正直分からない。多感な時期だ、物事ひとつ納得するのにも時間を要す。息子の身体の一部が反応していたのは、武士の情けとして、見なかった事にしておこう。
何せ風呂に入って見た自分の姿は、何処を取っても女性だった。健全な高校生男子が見れば嫌でも反応する。また、一応こう言う姿になると分かっていたが、見るのといざ自分が成ってみるのは大違い。繁殖は出来ないが、行為は出来るように要望したので、そこかしこ触ってみたが、胸と股間は男の時よりも敏感になったように思う。
「さっき上がって、まだ風呂場に那由多といる。服を持ってきてくれないか。」
そう声を上げると、玄関からドタドタと莉菜がやってきて、買い物袋を俺に渡し、那由多を引っ張って出ていった。家族だからいくら見られても別に構わないが、他のヤツには気を付けよう。
渡された袋を開くと中には、黒い上下おそろいの下着に、同じく黒いノンスリーブのシャツ、白いハーフパンツが入っていた。スカートを選ばない辺り、気を使ってくれたのだろう。ブラを付けるのに若干手間取ったが、なんとか着る事ができ居間に行く。
「那由多、司が、お父さんが分からないの!」
「いや、無理だろ!そりゃ動画も見たよ、あの娘に変わったあの動画も!でも、すぐにハイそうですかって言えないよ!」
中ではお互いに言い合っているようだ。まぁ、父親が美少女になったとか誰得なんだろうか?節操無いヤツなら或いは・・・、無いな。
「取り敢えず那由多、納得出来ない所はどこだ?言ってみろ。」
居間の引き戸を開けならがそう言うと、こちらを見た息子は間髪いれずに。
「いや、全部だよ!昔見た母さん以外の女の人の身体が、父さんの身体とかどんな罰ゲームだよ!」
「良かったな、今絶望が追いついだぞ。」
息子の前にあぐらをかいて座る。父親としては幼馴染の千尋ちゃんとくっついて欲しいが、童貞発言を聞く限りだと進展は無さそうだ。俺が父親だと納得しないし息子にどうしたものかと考えるが、要は感情論なのだ。
映像を見た、映像の本人が目の前に居る、母親の莉菜も俺を父親だと認めている。そこまで来れば、後は息子本人が納得出来る質問でもして、本人確認すればいいのだが、見た目が違いすぎる為、納得出来ないのだろう。
「慣れるには時間がいるだろう。俺はお前の父親だが、今の姿の俺に父さんとは呼び辛い。先ずは形から入るとして、当分の間、俺の事を下の名前で呼ぶといい。」
そう言うと、息子は額に手を当てながら俯向き、幾ばくかした後顔を上げて口を開いた。本人の中では色々と葛藤が有ったのだろう、釈然としない顔だが俺と莉菜を交互に見ている。
「分かった、母さんがこの娘・・・、司を父さんだと言うなら信じるよ。少なくとも、母さんが嘘をつく理由はないし。・・・、お帰り父さん。無事と言えるか分からないけど、良かったよ。」
そう言って照臭いのか、息子はそっぽを向いた。俺と莉菜はお互いにクスリと笑い合う。良かった、これでまた悩み事が減った。そう思っていると、家の外からバイクの音がする。このエンジン音は。
「遥が帰ってきた?」
バイク好きな娘の遥は大学進学と共に、免許を取り今では各都道府県をツーリングしているので、盆暮れ正月は帰るとして、それ以外では中々帰ってこない。
「母さんから姉ちゃんにも連絡するように言われて、電話したら珍しくすぐ捕まったんだよ。」
そう言って、那由多が立ち上がり玄関の鍵を開けに行く。そして、少ししてから2人で居間に来るが、遥を先頭にして、那由多は後ろで笑っている。
「ただいまー、お父さん大丈夫・・・、誰?」
「新しい父親の司です。」
遥は入ってきて声を上げたあと、指でフレームを作ってしげしげと俺を見ている。遥の髪型はひし形ショートボブだが、涼しそうで羨ましい。バイクに乗ってきたので、革ジャンにジーパン姿なので髪型も相まってカッコいい。
「顔付きは、日本人っぽくないけど、誰が見ても美少女って言うだろうし。体付きは細身だけどバランスいい。おまけに声を聴けば癒やされる。お父さん今度モデルやって。」
全ての説明をすっ飛ばして遥は、俺を父親だと認めた。昔から、思い切りのいい子だったが、ここ迄とは流石だ。
「いや、姉ちゃん何でそんなにすぐ信じるんだよ!?」
後ろで絶句していた那由多が、再起動して声を上げる。そんな那由多を、チラリと見た遥は肩を竦めながら。
「何か有ったという連絡を受けて帰ってきて、お母さんと那由多がくつろいでる中にその娘がいる。そしてその娘がお父さんだと言ったんだ。なら、お父さんに何か有って、その姿になったと考えるのが普通じゃん。」
「話が早くて助かる。遥、この姿ではお父さんと呼び辛いだろ。褒美に外では司と呼んでいい権利をあげよう。」
「分かった、で、何があったの司?」
そう言われて、再度全員であの夜の動画を見る。変身前から変身後、心臓マッサージまでを含めて約30分。動画終了間近の莉菜の叫び声は、何度聞いても嫌な気分になる。
「こうして、お父さんは美少女になったのよ。さて、夕食支度してくるわ。」
そう言うと、莉菜は立ち上がって台所へ。残された俺達は居間でくつろいでいるが、遥が何度か動画を見た後、俺の方を見ながら声を出す。
「お父さんが変身したのは分かった。で、何でこうなったの?」
「簡単に言えば、今話題のリング。本来はゲートなんだが、あれに入ってこうなった。」
「やっぱり父さん、あぁ、もう、違和感が凄い!司はあれに入ってたのか。ニュースの空撮映像で、父さんの勤め先が映って母さんからの連絡があったからもしかしたらとは思ってたけど・・・。」
そう横で一緒に見ていた那由多が声を上げる。敷地内に許可のない者、警察等は別として、報道は簡単には入れない。会社の私有地である以上、空撮も許可が要るはずだが、事態が事態なだけに、手が回らなかったのだろう。ヘリなら何処の報道機関か分かりづらいし。
「空撮映像はいずれ、本社から報道機関に抗議されるだろう。まぁ、出回ったならもう消しようがないし、出た時はまだ男だ。」
マスコミによる個人の特定、被害者は俺だが死亡はしていないので実名報道はないと思うが、色々と厄介だ。テレビを付けてニュースを見るが、あいにくと今はゲート関連のニュースはやっていない。
「私からも聞きたいけど、そのゲートに入ったらみんな司みたいになるの?なるなら需要は有りそうだけど・・・、そう言えば入れるのあれ?」
「入れるが、一般公開はもう少し後だな。今は俺と俺の同行者しか入れないし、多分そうそう女性にはならない。」
俺が少女になった経緯、職業習得を考えると適性と言う言葉が付いてくる。最初に入った俺は2つの職業を、一覧から選ぶ権利を貰ったが、普通は適正のある上位3つが選出され、それから選ぶことになる。人のあり方と知識を渡した事から考えると、余程のことがない限り、性別の変わる職業は選出されないだろうし、されても選ばなければいい。
俺は職業習得の為に適正が足りず、捧げモノを要求された。しかし、あの物作りにしかし興味がなく、他の物を投げ打ってる奴等の事を考えると、今回のような職業習得での交渉は発生しないのでは無いかと考えている。毎回やるのは、時間の無駄だしね。
「美少女は量産されなないのか、モデルが増えるかとも思ったけど残念。でも、中で何するの?」
そう言われて、表情を引き締める。何をするか、そんなもの命のやり取りだ。モンスターがどれほど強いか分からないし、出会ったのはあの三目だけだが、あれが、溢れる場に子供達が出くわすのは親として見逃せない。
「化け物退治。そう言えば、遥はどこから帰ってきた?」
「私は四国をツーリングしてる時に、那由多から連絡もらって帰ってきたよ。向こうにもゲートが現れて、光ってびっくりしたから覚えてる。」
「なぁ父さん、化け物ってどんなの?」
一緒に話を聞いていた、那由多が興味しんしんといった感じで聞いてくる。まぁ、歳を考えると大人と違って、冒険心が失われていないのだろう。
「写真と動画がある。危険だから見つけても近寄るなよ?中で職業習得してないと、触るだけで俺達が溶ける可能性があるらしい。」
写真と動画を2人に見せると、遥は観察するように、那由多は気持ち悪そうに三目を見ている。多分、那由多の中では可愛い系のモンスターが飛び掛かってくるような、イメージだったのだろう。
「ご飯できたわよー。」
そうこうしている間に、台所で料理していた莉菜から声がかる。久々の家族揃っての夕食は暖かく退院祝と莉菜は、腕によりをかけて俺の好物の、唐揚げやとり天なんかを用意してくれた。お酒も少し入り話も弾む。
「しかし司、今度は裸見せてよ?採寸して約束してた服を作り直したいから。」
そう、遥が話しかけてくる。約束というのは、今の大学に入るに当たって年1つは何かしらの服か小物を作って渡すと言う、約束を入学時にしていたものだ。去年はレザーの打刻て装飾されたキーケースだったが、今年は服にしたようだ。
「那由多にも全裸は見られたし、構わないが詳細な数字は病院で測ったものを莉菜に渡してる。後でもらうといい。」
そう言うと遥は、唐揚に伸ばしていた箸を止め、獣を見るような目で那由多を見ている。
「あんた、こんなに女の子を襲おうとしたの?千尋ちゃんいるんだから、間違わないでよ?」
「誤解だ、姉ちゃんあれは事故だ!それに、千尋は関係ないだろ。」
「そうそう、司がお風呂上がった時に脱衣所で鉢合わせしたのよね。顔真っ赤だったけど。」
「見てくれは良いからな、俺の身体。」
そんな馬鹿話をしながら夕食は終了。元の職業場で仕事をするのは、正直無理だろう。女性を雇う土壌もないし、何よりゲートのゴタゴタで時間がいる。
依願退職届けを書きながらスマホを見ると、伊月からの着信が入っていたので、一服ついでに外でかけ直す。あたりは暗く、見上げれば丸い月が浮かんでいる。
「もしもし、伊月さん?黒江です。なにか進展ありました?」
「連絡がとれて良かった。明日朝イチで、署の方へ来てもらえますか?上司に話はしたんですがね、取り敢えず、貴方からも話を聞かないと、どうしょうもないと言う結論になりまして。迎えは出しますから。」
「いいですよ、朝イチですね。時間は何時頃です?」
「10時頃になりますね。お疲れだとは思いますが、よろしくお願いします。あぁそれと、免許は明日どうにかなりそうですよ。黒江さんのお名前が中性的で良かった。これがケンジやジョウジだったら家裁も絡むので更に長引く所でしよ。・・・、一応確認しますが、名前変えます?」
ふむ、名前に関しては男女どたらでも居るし、親からの最初の贈り物だ。既に43年連れ添った名前を、今更変えて別の名前で呼ばれても、正直反応できない。
『クロエ ツカサ』それが俺の名だ。娘が曰く日本人っぽくないらしいので、黒江とだけ名乗れば外人の様に思われるのだろうか?
「名前は変更しませんよ、親に感謝ですね。こんな事もあろうかと、とは想定していなかったでしょうが。」
明日、議題に上がるであろう話を伊月と詰め、もう少しタバコを吸ったら家に入ろうと想っていると、結城君が丁度前を通ったので、軽く手を上げて中に入る。
寝るには早い時刻だったので、居間で家族と話夜も更けそろそろ寝るかと言う時に、家から出てタバコを吸う。家の中でタバコは吸わない、臭いも付くし家族にも悪い。冬場はまぁ、寒さに耐えるしかないが、今は初夏なので気にならない。
「あっ、火が・・・。」
ライターのガスが切れた・・・、ジッポのフリントが無くなり、仕方無しに予備のガスライターを使っていたが、その頼みの綱も潰えた・・・。不思議なもので、普段通り吸えるなら我慢は出来る。しかし、いざ急に吸えなくなると、吸いたい欲求が勝る。
「火、火・・・、吸いたい・・・。」
そこで1つ思い出した、俺はただ少女になったのではない。魔女で賢者の職に就いたのだ、身体の検証は軽くやった。しかし、魔法の検証はしていない。なれば分かると言われたが、変化した後、特になにか知識が頭に入って来たような気はしない。ゲートに入っていないのでまだ、なにかたりないのだろうか?
「確か、空想上の産物を実現させるんだったよな?思考し、妄想し、空想し、操作し、具現化し、法を破る。だったか?」
口に出すが、さっぱりだ。あとの言葉の意味は分かるが、特に操作が分からない。ゲームなら魔力を代価に〜とでも考えればいいのだろうがはてさて。口にタバコを加え、右手の人差し指を立てる。何故指を立てるかって?形式美だ。火は小さくていい、タバコが吸えればいいのだから。
『システムへのアクセスを確認。職業習得後ゲート内に入場して居ない為、一部の能力に制限がかかっています。制限を解除する為には、速やかにゲートに入ってください。現状の要求「火」に付いては顕現しました。』
頭の中にアナウンスが流れたかと思えば、タバコに火が付いていた。残念な事に、人差し指の上に火は出なかった。使い方が分からないが、少なくとも欲求は満たせたので、タバコを吸い紫煙を吐く。
世界初の魔法でタバコに火を付けて一服。最高に贅沢だと思うが、悩みの種が増えた。取り敢えず、制限解除の為にできるだけ早くゲートに入らないと。
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