大好きな先生に殺されたと思っていたけれど実は違ったみたいなので一緒にほのぼの暮らします!

月白藤祕

第1話 さようなら先生

結婚式の当日、暴政を敷いていた国は滅びた。


                ○


アルデリア帝国の第一皇女である私は会ったことのない隣国の王子と結婚させられようとしていた。父は私の意見など一切聞かない。他国に頼っても意味がないという臣下たちの意見も無視され、目先の利益だけを見て、隣国の王子を婿に迎えようとしたのだ。しかし、王子を迎えた日に王は殺された。この婚姻は無意味なものになった。そして私も、愚かな王の娘として殺される運命だった。


この国の民は重い税金に苦しんでいる。それは、私の父が王位についた時からだった。権力争いから縁遠かった父だが、玉座の熾烈な争奪戦のせいで兄たちが死に、勝手に父まで回ってきたのだ。父は政治を行うには知性が足りず、性格も最悪。そのため、お金を湯水のように使い、国庫を空にすることはザラでした。娘の私から見ても父は本当に愚かだと思います。


そんな王が民に殺されることに疑問を抱くことはありませんでした。多くの民を殺したも同然なのですから。私もいつかは反乱が起きるだろうと予想していました。しかし、まさか自分の結婚式に起こるとは思いもせず、驚いてしまいました。


そして驚いたのはこれだけではありません。私には長年想いを寄せていた方がいたので、結婚式がなくなるのは嬉しかったのですが、その想い人から剣を向けられるとは夢にも思っておりませんでした。


                 ○


反乱が起こった時、私は自室で純白のドレスに着替えておりました。結婚に対する否定的な感情と戦っている時に、下女が反乱軍から逃げるように言ったのです。私は逃げたところで無惨に殺されるのだろうと思い、部屋で大人しく待っていました。下女たちを逃して後に、いつもの窓辺から外を眺めて…。


その後すぐに大柄の男たちが私の宮に入ってくるのが見えました。そして、バンっと扉を開けて部屋に入ってくるのは10人くらいの男たち。その先頭に立つのは私が慕っている先生だった。


「愚かな王の娘である第一皇女、君も殺す」


聞いたことのない冷たい声で殺すと言われ、大好きな先生に私は殺されるのだと、驚きよりも悲しくなりました。だから私は潔く、先生の前まで静かに歩いていき、両膝をついて何も言わずに俯きました。どうか痛みを感じることなく、逝けますようにと。


「そんな簡単に死ねると思うなよ」

「俺たちを侮辱しているのか!」


私の行動に腹を立てた反乱軍の一人が、乱暴に私の髪を掴んで言います。ですがすぐに先生がそれを制して、私を地面に降ろしてくれました。それはいつもの優しい先生と同じで。


「彼女も愚かな父を持った被害者です。せめて安らかに眠らせてあげましょう」


先生はどこまでいっても優しい方だと思いました。民は王族に慈悲などいらないと思っている方も多いだろうに。そういうところが本当に大好きでした。先生は私の首に剣を当てて言います。


「何か言い残したことはありますか?」

「…はい。先生に言いたいことがあります。先生は多くを学んだ方がいいと言いましたが、知りたくありませんでした。私が先生に殺される理由が分かってしまったからです。貴方を憎んで死にたかった。でも、大好きな先生を恨まずに逝けるのですから、貴方から教わったことは無駄ではありませんでした。…今までありがとうございました。さようなら」


私は最後に笑った。笑って逝きたかったから。先生の記憶に私が美しく残るように。だけど、涙が止まらないのです。先生の顔が見えない。最後に先生の顔が見たかったのに大好きな先生が滲んでしまう。ああ、それだけが唯一の心残りだ。私の言葉を聞いた先生がどんな顔をしていたのだろう。先生の顔が見たかった…。


「ああ、さようなら先生…」


そうして、振り上げられた刀が地面についた時、私の意識は消えました。

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