アンチ・ニクロルク

織倉未然

第0話

 穴の空いた障子には、半紙が貼ってある。


 去年のはじめに書き初めでもしようとして、結局は何も書かず余していたものだ。筆も硯も買った。墨を買うのを忘れていた。筆ペンは乾いていたから、仕方がないと思ったのを覚えている。


 鉛筆でくすぐった文字のなり損ないが、目を凝らしてようやく見える。読めはしない。何を書こうとしたのか、肝心の内容は、いささかたりとも思い出せない。すでに日焼けてして落ちている。

 

 大体、障子のその向こうにはちゃんと二重窓がある。ではこれは誰に向けてのフタなのかといえば、半分公で半分私である。つまりそれは、言い訳のような、宛てのない栓で、公私の境界を満たす皮膜に溶けている。


 季節の巡り合わせが良く、晴れた日であれば、そのちっぽけな穴から射す光が一際眩しく映る。いつか自分が決壊するとしたら、その光線が引き金になるのだろうという予感がある。すでに砕け、散乱しているような身分だから、決壊するとしたら社会の方へではないかと思いもする。であれば、その一条の光は、少年の人差し指にも見える。


 そのようなことを書いていく。

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