お泊まり会〜縦笛を咥えた悪魔達〜

アヌビス兄さん

序章 卒業式

第1話 楽園

「小鳥、お願い。最期に強く抱きしめて……お願い」


 血だらけの少女は、そう私に懇願する。私は彼女の願いに応え抱きしめる。彼女の血で汚れる事も気にせずに、すると彼女は私に求めてきた。少女特有の甘ったるい香り、これに血の匂い混じると、もうそういう獣と触れ合っているような気分になる。


「かりん、舌。べーって出してごらん」

「ふぇ? ……こぉ?」


 私は恐らく、もう一回しか味わう事のできないであろう彼女に粘膜での快楽を与えた。身体同様に動かないかりんの舌を私の舌が好き放題に、それでいて優しく愛撫する。時折かりんの舌から離れ、小動物のようなかりんの歯を撫で、お互いの唾液を絡ませる。


「あぅ…やん…っ!ぁん、いやっ……あ、ふ…ふにゃ」


 幼い感じ方だ。ぴちゃぴちゃと音を立て、私がリードしてに求め方を教える。本来であれば体温が上がるであろう行為中に、かりんは段々と体温が下がっていく。


「ちょっと、小鳥。疲れちゃった。眠たくなってきた……」

「かりん。貴女に会えてよかったわ。ゆっくりお休みなさい。あとは私に任せて」

「うん……ん……っ」


 私はかりんの亡骸を教室の隅に運ぶと、もう一度彼女にキスをした。感傷に浸っている暇はない。夜はまだ始まったばかりだ。私はかりんが手に握っていたオートマチック自動拳銃ファイブセブンを手に取ると、かりんに別れを告げ教室を後にした。


「近い……」


 食堂の上、体育館に警戒しながら侵入するとそこには無残に弄ばれ、惨殺された亡骸。これは誰だったか? 私に面識があった少女だったのかは分からないけど、かりんと同じ嬲られ方だ。そして殺気。


「とぉ~りゃんせぇ~とぉらんせ。ここは何処の細道じゃ~」


 歌いながら、フラフラと歩み寄ってくる少女の手には扱いやすそうな鉈。そしてこの少女の名前は……


「奈々。だったっけ?」


 少女は顔を上げる。私を見ると、それはそれは恋する乙女の表情で彼女は笑った。


「小鳥ちゃん! 小鳥ちゃん! 小鳥ちゃんだぁ!」

「うん」

「小鳥ちゃん、私ね! 小鳥ちゃんに酷い事をした人をこれでみーんなやっつけたんだよ!」

「そう」


 私は手の中にある銃を握ると彼女にそれを向けた。どうしてこんな事になった。いや、私がろくでなしだからか? まぁどうでもいいのだけれど、とりあえずこの奈々を私は殺さなければならない。


「小鳥ちゃんの事。大好きだから! ここで……好き。しよ?」

「うん。とりあえず。死んで」


 私の引き金は軽い。


―――――――――――――


 それなりの良家に生まれ、それなりの教育を受けてきたハズだった。いつだったか? そうだ。家族と何処かの国に旅行に行った時だった。信仰する神だか何かに陶酔したテロリストによって虐殺、蹂躙される人々。


 嗚呼、生き残った。


 私はロトくじの一等にでも当選する確率で生をもぎ取った。喜びの束の間、次に行われた事はなんだと思う?

 それは虐待と凌辱の日々。反応しなければ殴られ、反応しても殴られる。それでもテロリスト達の気分の酔い日は質の悪いブランデーや硬いパンを与えられる事もあった。

 そんな自分の快楽はドラッグとセックスしかなかった。生きるも地獄。いつ終わるのか、そんな風に思っていた時、テロリストのアジトに突入してきた天使たち。


 天使たちはM4という神から与えられた炎の剣を振るい、テロリストたちを根こそぎ地獄に送った。自分は保護され、色々と教育を受ける事になる。自分の家の財産は全て親戚連中に奪われていたらしいが、子供だった頃の自分にとってはあまり興味のない話でもあった……そんな自分、我が国の手厚いクソったれな教育の元、CIA幹部の懐刀として戦場を闊歩するようになる。

 自分は、他者を殺し生き延びる才能があったらしい。両親に教わった事、誰かの為に何かを出来る人でありなさい。テロリストに教わった事、相手の光を、希望を根こそぎ奪う事。そして我が国に教わった事、力を持つ者は好き放題できるという事。

 自分は戦場をテーマーパークのように駆け巡った。立ち塞がる標的を殺し、住処を燃やし、食べ物、金品を奪う。

 そして……そこにいる女の子を、食べる。


 とまぁ、ここまでがジュリアと呼ばれた私の人生になるんだけど、ヴァルキュリア・ジュリアとまで言われた私は調子にのりすぎて地雷を踏んで搬送される。流石に死んだ? まぁ、クソったれな人生を歩んできた私の最期にはお誂え向きだった。死ぬ瞬間に見た月は、私の故郷のお気楽な国では十三夜だとか言うらしい。十五夜である満月と違って不安定な月。


 嗚呼、実に死ぬにはいい夜ね。


 死ぬには……変な脱力感とグワングワンと言う音を聞いた後、視界が明るくなる。

 私はどうやら裁判所のような所で被疑者として判決を待っている。そんな死に際の夢?


「おいおい! 流石は裁判の国だ! 死んだ後に罪を裁くつもりか? 殺し? 略奪か? それとも強姦……いや、私の手にかかったポニータちゃん達はみんな悦んでたし、そこはノーカンか」


 カンカンと裁判官らしい何者かは私を黙らせる。喋ったらどうだ? そんな事を私が思った時、それは話した。


「噂に違わぬクソったれだな。ジュリア」

「お褒めに預かり光栄で、無い足が疼くくであります。裁判官」

「裁判官ではない。運命の神とでも言えばお前のようなクズにも分かりやすいか?」


 裁判官は身を乗り出す。裁判官の格好、ブレザーを着たどこぞのお嬢様学生? 可愛い。どんな声で鳴くのか触れてみたい。


「私と一発ヤる為の運命の神様とか?」

「黙れ、穢れが感染る。お前は今すぐにでもその存在を消滅させてやりたい。が……運命というものは悪戯好きで、気まぐれだ。お前にもう一度人生をくれてやると言ったらどんな人生を送る?」


 何それ、面白い。そうさな……生前にできなかった事。色々ある。学友達との青春の日々、両親や兄弟たちとのなんでもない日常……そして


「女の子を一人でも多く抱きたい」

「クソったれ、だからお前みたいな奴を選ぶなんて賛成したくなかったんだ。お前はか弱い子供だ。そこで今までの罪、悔い改めよ」


 美少女運命の神とやらはヒステリックに叫ぶ。私に罪を悔い改めろと? これは実に面白い。


「おいおい、レイプとアビュースの日々、罪は先払いしてんだよ。十分すぎる程にな」

「……それは」

「それが運命だと言うなら、私の悪行の数々も運命だ。アンタにとやかく言われる筋合いはない」

「なら、教えてくれ、お前は真っ白な人生で真っ当に生きていけるのか?」

「さぁ、普通の生き方も普通じゃない生き方も知っているつもりだ。多分、生き方は変えられないさ」


 一際大きな槌の音が響き渡った。


「消えていなくなれクソったれビッチ!」


 酷い言いようだ。勝手に呼びだしておいて、まぁでも最期に可愛い女の子に罵声を浴びせられて眠るのも悪かないか。


「小鳥、小鳥・チェリッシュ・イレブン」


 そう名前を呼ばれたらしい。再び突然視界が明るくなった。なんのアメリカンジョークなのかと身体を起こす。


「ここは何処だ? 私の足は美味いフライドチキンに変わったかどうかくらいは知りたいんだが?」


 あれ? 私の声ってこんなに猫撫で声の甘い声だったっけ? さっきから幻肢の類だと思っている足の感覚。私はゆっくりと足元を見る。短くて、白くて穢れ無き足。それに見惚れていると声の主は私に再び話しかけた。


「小鳥、具合はどうだ?」

「具合? アンタ誰さ?」

「君はお泊まり会で大怪我を負ったんだ」


 どうやらここは病院でこいつは医者らしき男。そして鏡で見た自分の姿。黒い髪にオーシャンズアイ。健康的なやや黄がかった白い肌。大きな瞳にまだ発育途中の身体。

 私に幼児性癖があったのならば、しゃぶりつきたいと思う程度の美少女だったのかもしれない。

 あの裁判官くらいの年齢じゃないからさすがにアウトオブ眼中だったわけで、私は自分に起きた事を整理する。私は中東のある戦場で死んだ。そして裁判所みたいな所で運命の神(仮)によって第二の人生を貰った事になる。それが本当かどうか、私が米国の新しい実験に使われたという可能性の方が高いだろう。


 まずここが何処の国なのか……


 病室から見える外の世界は、米国に見えなくもないけど、車が左に走ってるし、道が狭い。それなりに安全な国模様。警備が異様なくらい少ない。


「すなわち、ここは米国ではないと……しかし子供の胸は案外硬くて揉みごこちは悪いな」 


 自らの胸をまさぐるのにも飽きたところで、私は外に出た。


「自販機はクソったれなステイツより一回り小さめ、通貨の単位もドルじゃない」


 私の持ち物はスマートフォン、そしてどうやら児童文庫本。中身の文字は、読める。私はCIAの犬をやってたからいくつかの言語は扱えるけど、この本に書かれている文字は学んだ覚えがない。


「なのに読める。子供が祖母の家に向かう最中に不思議な猫の獣人と出会う冒険譚。くだらねぇ」


 この世界はどうもお気楽な世界なんだろう。続いてこのスマートフォンの情報。パスワードは……生体認証で助かった。


「おふぅ!」


 そこに映るのは、推定私であるこの身体の持ち主と、同じようなロリと、そして……幼い顔ながらその身体は食べごろのポニータちゃん。こんな子供の身体になったとしても過去に私が経験した快楽の記憶は消えていない。


「ここが別の国なのか、別の世界なんて関係ないや。とりあえずやる事ができたわ」


 まずは、このポニータちゃんと一発ヤル事を目標にしよう。私は彼女の名前が分からない事にスマートフォンからの連絡は一旦辞め。この病院から退院する事に決めた

 医者が私に記憶障害が起きているとそう語っている。私のこの身体の持ち主はどうやら高圧電線か何かに触れて今に至る。多分、本来この私の身体の持ち主である小鳥という少女は死んでいたのだろう。代わりに私が交代したって……どこのB級映画の設定なんだ?


 笑えない......が、ありがたい。


 何も考えなくていい子供時代は馬鹿共の愛玩道具として過ごしてきた、こんなイージーモードな子供時代をやりなせるのも悪くはない。


 ぴー、ぴーひゃらー。


 しかしだ。しかし、この少女はリコーダー奏者なのか? 赤い特殊な形をした鞄に勉学用のテキストを入れる。

 病院での数日療養の後、私は小学校とやらに登校。学校といえば、女教師がいるんじゃないか? しかし、学校に行くのにランチボックスはないのか? それとも食堂でもあるのか? まぁそれも行ってみれば分かるだろう。

 私は他の女子生徒達の真似をして、リコーダーを吹きながら学校へと登校するのだ。狙いはあのポニーターちゃんが何処にいるのか? まぁ行ってみれば分かるか……


 そこは、お泊まり会という名のクソッタレな狂気の園が待っている事を知らずに……

 

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