第3話 水路を造ってレベルアップ

 1人と3匹の短い旅はすぐに終わった。

 そこに広がるのは小さな川だった。

 俺の脳裏に浮かぶ計画。

 シミュレーションゲームでの都市開発の基本は水道施設から水道管で街に水を供給させる事だ。そうしないと街は発展しない。

 

 この川を水道施設とすると、水道管を造る事は出来ない。

 と言う事は川の枝道を造るしかないのだ。

 俺が考えたのは、村の井戸にこの水を流す方法だったが、井戸の水が溢れるので、U字型に枝道を造り、入り口と出口をこの川に繋げるというものだ。


 そうすれば村にやってくる川の通路から水をくみ出せばいい。


 少し複雑に頭を回転させながら、今の所機材はもってこれそうにない。

 と言う事は力仕事となるだろう。


 クワで掘る事が可能だし、スコップを取りに行くことは面倒臭かった。


「ジローとキャニーとオージは辺りを警戒してくれ、俺はひたすら穴を掘るから」


「「「了解」」」


 3体が同時に頷く。 

 俺は川のぎりぎりのポイントの所でクワを振り落とした。

 今回は耕すのではなく掘るだ。

 耕すレベルは適応されないのかスローだった。

 一心不乱に掘り続けて、四方に土を飛ばしていると。


【掘るレベル1→2になりました】

【掘るレベル2→3になりました】


「きたきたきたー幻聴」


 いつしか天の声を無礼にも幻聴と呼ぶようになっていた。

 幻聴はひたすらレベルが上がり続けて。


【掘るレベル3→10になりました】


 あっという間にカンストを迎えた。

 クワをスコップのように使い、辺りに土飛沫を上げながら。旨い具合に溝となり、通路が完成していく。

 いつしか村のポイントまで到着すると、そのまま迂回し、川にまた戻っていく。

 ひたすら掘り続けて掘り続けて。

 川の手前でストップした。


 そして俺はダム状になっている土を破壊した。

 川の水が勢いよく流れ、村に向かって水の道を造った。

 それが迂回され出口となるスタートポイントの土のダムを水の勢いで破壊すると。

 

 川からU字型の枝道が完成した。

 

「よっしゃあああああ」


 即座に畑まで全力疾走で戻る俺。

 そこには村の中に川の枝道が生まれていた。

 感動のあまり涙が流れそうになり。


 だがある事に気付いてしまった。

 今後畑が大きくなるにつれて、水やりをジョウロだけでやれる感じではない、スプリンクラーなども設備として必用だし。

 後この川の枝道も石とかで補強しないと溢れかえったり、崩れる恐れがある。


「やる事が一杯あるようだ」


 俺は色々と頭を悩ませていた。


 その時だ。10体程の緑色の小人のような生き物がやってきた。

 耳はとんがっており、口はギザギザになっている。

 皆棍棒を握りしめて、餓えてるのかこちらを見ている。


 頭に乗っていたオージが呟く。


「まずいですね、あれはゴブリンです。相当飢えているのでしょう」


「それなら団子を分けましょう」


「いいのですか、その団子は貴重で」


「スーパーで買ったものですから」


「スーパー?」


 オウムのオージには理解出来ない単語のようだった。


 ゴブリンはこちらを睨みつけ、今にも襲いかかってきそうだった。


 キャニーとジローが臨戦態勢になる中。

 俺は一応鎌と鍬を腰に差して。

 リュックから10個の団子を取り出した。


 これでダメなら倒すしかない。

 だが10体も倒せるだろうか?

 そこが一番の疑問だった。

 

 団子を放り投げると、10体のゴブリンは獲物を見つけたかのように躍りかかって、団子をむさぼりくった。


 次の瞬間異変が生じた。

 ゴブリンが1体また1体と幸せな表情になり、あの険しい顔ではなくなった。

 1人また1人とお辞儀をして片膝をついた。


 どうやら言葉を話せないので、敬意で示しているようだ。


「わしが話してこよう」


 どうやらオウムのオージはゴブリンの言葉を理解出来るようだ。

 俺はほっとしつつも。


「どうやらこの村を開拓させる手伝いをさせて頂きたいと申しております」


「それは凄く助かるよ、何が出来るの?」


「畑仕事、水やり、雑用ならなんでも出来るそうです」


「ぜひお願いしたい、これから種を植えるから、今後水やりを頼みたいのと、動物の種喰いを邪魔してほしいんだ」


「ぜひやらせてくださいだそうです」


「あとスプリンクラーが用意できれば、君達は種喰い防止とか雑草取りをお願いしたいんだ」


「ぜひやらせてくださいだそうです」


「雑草取りはまだないけど出てきたら頼むよ」


 ゴブリン達は敬意を示してくれた。


 かくして村人がゴブリン10人増えた。

 

「オージ、色々とありがとうね」


「お気になさらず」


 犬のジローも猫のキャニーもオウムのオージも嬉しそうにしていた。

 

 団子の検証結果だが、どうやら現実世界の団子はこの世界の生き物を従順に仲間に出来る仕組みのようだ。

 

 それが人間に効くのか、他の種族に効くのかは分からないが。


 簡単に言うと、信頼を得るという事なのかもしれない団子の力は。

 現実世界の美味しい食べ物なら同じような効果があるかもしれない。

 それでも団子のイメージのほうが面白いからこれでいいやと思う俺であった。


「俺はちょっと自分の世界に戻って来るよ」


「お気をつけて」


 ジローが見送ってくれると。


 神殿跡地の出口を辿り現実世界に戻った。

 倉庫の中でチェーンソーを取り出し、バッテリーとかも色々と準備して。木々を両断してやろうとしていた。


 その木々を使って建物を造る。つまりゴブリン達の家と今後来るであろう人々の家だった。


 ただ俺は建築家ではない。ただの建国系のシミュレーションゲームまたはストラテジーゲームばかりしていたオタクのようなものだ。


 それがどうやって作るかというと。


 きっとこれもスキルが関与してきそうで、取り合えずやればどうにかなるだろう計算。


 一応インターネットを使って、建物の建て方とかをメモに残した。

 俺がやろうと思ったのは、木材をパズルのように組み合わせてつくる家だった。


 しかし作るのは高難易度。

 それ関係のレベルを上げるしかないと決意するが。

 まぁやってみよう、やってみないとレベルも上がらないし、幻聴も聞こえないだろう。


 再び倉庫の中の倉庫のノブに触り異世界に旅立つアダンだった。

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