第157話 はいざいはいはい


 きょうは、はいざいあそびのひ。

 

 きょうまで、みんながたくさん、はいざいをもってきた。

 あたしもたくさん、はいざいをもってきた。

 はいざいは、おへやのすみっこの、あいているロッカーにつめてある。

 あたしは、しってる。

 あそこに、おたからみたいな はいざいがあるって、しってる。

 あたしは、それをねらってる。


「それでは、すきなざいりょうをえらびましょう」


 せんせいがいうと、みんなのめが、キランってなった。

 みんなにも、なにかねらってるはいざいが、あるみたい。


 とっとっとっと、って、みんなが、はいざいにちかづく。

 はいざいのやまを、みんなでやまみたいになって、かこむ。


「これにしよー」

「わたしは、これ!」


 めあてのものが ちかくにあったひとは、それをとってにっこりした。


「ああ、それ、つかいたい!」

「おれは、それ!」


 ほしいものがとおくにあったひとは、ゆびをさしたり、かいてあるもじをよんだりして、とってもらおうとする。


 なんでかわからないけど、そういう〝だれかがほしいもの〟が、あたしのちかくにたくさんあった。

 だからあたしは、だれかのこえをきくと、それをとって、


「はい」って、わたした。


 はい、はい、はい。


 そうしてくりかえしているうちに、あたしがねらっていたはいざいが、


「な、ない!」


 ぷう!

 こんなことなら、だれかのほしいものをとるんじゃなくて、まっさきに、じぶんがほしいものをとればよかった!

 うう、ううう。


「リンさん、どうかした?」


 せんせいに、こえをかけられて、


「あかいつつ、つかいたかった」


 そうしたら、とっとっとって、ショウくんがやってきて、


「ぼく、これじゃなくてもへーきだから。よかったら、つかって」


 あたしにむかって、あたしがねらっていたおたからを、ぐいってさしだした。


「いいの?」

「うん」

「ありがとう」


 あたしは、おたからをつかって、あそんだ。

 はいはいって、はいざいをくばらなければよかったって、ちょっとおもった。

 でも、くばっていたから、ごほうびみたいに、おたからがやってきてくれたのかもしれない、ともおもった。


 あたしも、ショウくんみたいになりたいな。

 だれかのことをみて、きづいて、やさしくできるひとに、なれたらいいな。




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