異世界でスキルを覚えたのですが、乗り物召喚ってなに? ~ラッキースケベの珍道中~

和蔵(わくら)

第1話

 もう此処に来てから、どのくらい経ったのかが分からない。


 俺の今現在居る場所は、異世界と思われる場所を旅して回っている。


 思われるではなく、間違いなく異世界なんだけどな……だって……


 キッチンカーの助手席には、獣耳が生えている女性が乗っているのだから、

ここは間違いなく異世界だ。獣尻尾も生えているから間違いないよな。


 まずは俺の事を語って聞かせる事にする。


「キミ、俺の名前は和久藍丸わくらんまるだ。

意味は通じるか?」


「わぁ……わく……」


 彼女の表情を見ながら話をしたが、どうも言葉は通じている様だが、まだ怯えているせいか震えが止まらないみたいだ。それもそうだろう、あの様な怖い化け物に襲われてしまったのだから。





*

 話は彼女との出会いまで遡る。


 この日も俺は町を探しながら車を走らせていたが、見晴らしの良い草原を快調に爆走と言う名の安全運転をしていると、草原の脇にある雑木林から人影が飛び出してきた時は焦ったね。でも、俺は地方の田舎育ちだ。野生動物が飛び出した位ではブレーキなど踏まないんだよ。どうせ鹿か狸でも飛び出してきただけだと思い、アクセルに力を込めて轢き殺す積りでいたが、よく見ると人間だと気が付いたので、急いで急ハンドルを切り衝突を回避して大事故には至らなかった。


 俺は窓を開けて人影を探してみると、そこに倒れていたのは女性だと気が付いた。

急いで車から飛び降りる勢いで、彼女の傍まで近づいた時に彼女を追ってきた者と鉢合わせしてしまったのだ。ゲームやファンタジー小説で定番の緑のおっさんが三体も姿を現して俺を威嚇し始めていた。


「ぐぎぃーぐぎょー」


 奴らは何を言っているのか理解は出来なかったが、手にはボロボロの剣や斧を持っおり、彼女を犯そうと腰蓑からは汚いイボイボが付いた男性器が見えていた。緑のおっさん達は小学生低学年の身長だが、武器を持っており素手で戦うのは危険だと判断した俺は、彼女を小脇に抱えると急いで車の荷台に乗り込み、彼女を乱暴に床に置いてから武器を取り出して荷台から飛び降りていた。


 この武器は、キッチンカーに積んでいた包丁で作った即席の槍だ。


 耐久度はそこまで無いが、中々に使い勝手が良い武器に仕上がっている。この世界に飛ばされた日に作った武器だが、そろそろ壊れそうな予感はしている。もしかすると今回の戦闘中に壊れてしまう可能性もあるが、そんな事を考えるより今は盛りのついた緑のおっさん達を撃退する事の方が先決である。


 車の荷台から飛び出した俺は、車に一番近い緑のおっさんを狙って鋭い突きを連続で繰り出したが、ハッタリで連続突きをしただけと分かったのか、緑のおっさんは下卑た笑いを漏らしながら何か言っているが、俺の生きてきた人生で二足歩行の動物は殺したことがなかった。四つ足の動物ならあるのだが……それも今回の感じの様に車で轢いてしまっただけなんだよな……自分の手を汚した事はない。


 緑のおっさんAは、他のおっさんに指示を出して俺を取り囲むとジワジワと俺に近づいて来ている。焦った俺は斧を持っていたおっさんBをけん制しつつ、ただの木の棒しか装備していないおっさんCに向かって槍を振り回しながら近づき、どうにか虚勢で追い払えないかと試すが虚勢だと見破られている様で、緑のおっさん達はゲラゲラと笑いながら俺目掛けて走って近づいて来ていた。


 俺はパニックになり、正規の槍で言う所の石突を持つと大旋回をして槍を大降りに振り回していたが、緑のおっさんBの首に槍の穂先が食い込み、緑のおっさんBは苦しそうな声を上げながら地面に倒れ伏してしまう。その光景を目のあたりにした仲間達は激高して俺に飛び掛かろうとしていたが、俺は槍を正面に構えると緑のおっさん達は立ち止まり、緑のおっさんCが俺の背後に回り込もうとして動き出したが、俺は車の傍まで走り車を背に戦いを続行する。


 車を背にして戦っていたが、俺の足はガクガクして今にも崩れ落ちそうになっており、何とか踏ん張って耐えた。


 数分の睨み合いが数時間に及ぶ睨み合いと思う程に、俺は目の前の二匹の敵に集中しており、左右から挟み込もうとジリジリと詰め寄ってきている二匹をどうするか必死に考えていたが、俺の思考がショート寸前だったのか意識が追い付いて行っておらず、一瞬の出来事があっと言う間に過ぎ去っていく。


 左右から挟み込み、同時に俺を斬り殺そうとしていた二匹は、タイミングを合わせて動いたのだが、どうも俺は考えるより体が勝手に動いて攻撃を交わすと、同士討ちの状態になった緑のおっさんAに素早く回り込むと、緑のおっさんAを力任せに突き刺したまま緑のおっさんCに体当たりをしていた様だった。そしてそのまま緑のおっさんCも突き刺して貫くと槍からは二匹の死体の重さが槍に伝わり、戦闘が終了した事が分かったのだった。


 これが彼女との出会いで、意識が戻った彼女を助手席に座らせると、俺は運転席に座り彼女に飲み物を手渡すとペットボトルの蓋の開け方をおしえてあげている。


「あ、ありが、ありがとう」


 彼女の声は、まだ少しだけ元気が無いが、とても澄んだ声をしていて何時までも聞いていたい声だ。だが、こんな場所で彼女が何をしていたかを先に聞き出す事にした。


「私は、狐獣人族のレベッカと言います。村から逃げ出して行く当てもなく彷徨っていた所を化け物に襲われていました。あなたは私の命の恩人です。本当にありがとうございます」


 村から逃げ出すって穏やかではないな、何があったんだい?


「私……親に売られる所だったんです。もしも逃げなかったら……私は娼婦になって一生を終える所でした……」


 家が借金をしていたのか?


「私の家は、代々村で猟師をしていたのですが、父が化け物に襲われ亡くなってしまい……母は仕方なく私を売ろうとしたんですが……私は怖くて逃げてしまいました」


 そう言うと彼女は泣き崩れてしまい、俺がなにを言おうとも反応がないままだった。





*

 彼女、レベッカと出会った草原から一日の距離に町があると聞いた俺は、町に赴くと何も考えないで城壁の外でキッチンカーを開店させて商売をはじめだす。俺が何でキッチンカー何って物を持っているかって?


 それは東京に上京して20年以上も経ったある日の事だよ、会社の健康診断で不味い事になったので病院に行ったら、もう手遅れだったんだよな。末期癌で余命が半年から一年だと言われてしまい頭の中が真っ白になってしまったんだよ。


 高校を卒業してから会社に就職して、社畜として働いて、働いて、働いた挙句がこれですよ。人生ってつまんねーと思った。だから残り僅かな人生をしたいままに生きようと思って会社を辞めて、退職金で中古のキッチンカーを購入したんだよ。わるいか?


 売っていたのは。爆弾おにぎりと揚げ物だ。簡単に出来るし調理スキルなど不要の長物でもある。その売り物を今居る町の外で売り出している。


 まずは揚げ物を揚げてから、匂いで客を釣り、その次は見た目(量)で誘惑するのが俺の営業戦略である。これに敵うものなどない! 


「わくらんまるさん、これって一個の値段はいくらなんですか?」


 レベッカも売り子兼客引きとして手伝ってくれていたが、お客さんから値段を聞かれて困ったのだろう、俺に値段はいくらかと尋ねてくる。


 爆弾おにぎりは一個500円で、から揚げは5個で300円だぞ。


「500円?えんってなんですか?」


 あっ……そうだった……ここは異世界でした。


 レベッカがパンを買う時は、一個の値段はどのくらいなんだい?


「大銅貨3枚と銅貨50枚ですね」


 レベッカに、この国の単位を手早く教えて貰った結果がこれだ。


 アクメランド連合王国の単位は一アクメ


 銅貨一枚で一円 大銅貨一枚で百円


 銀貨一枚で千円 大銀貨1枚で五千円


 金貨一枚で一万円 大金貨1枚で十万円


 銅貨が百枚集まり、大銅貨一枚になり、大銅貨十枚が集まると、銀貨一枚になる、そして銀貨十枚で金貨一枚になるそうだ。


 なら、爆弾おにぎりは大銅貨5枚にする。から揚げは5個で大銅貨5枚な。それと、飲み物は一本で大銅貨3枚な。おにぎりの具は、鮭・おかか・梅・こんぶ・ツナマヨがあるから、お客さんが尋ねたら伝えてくれよ。


「はい。梅?おかか?こんぶ?つなまよ?しゃけ?何ですかそれ?」


 飲み物は、お茶・オレンジ・紅茶・コーヒー・炭酸飲料がある。


「あの……あの……私、わかんないです」


 あっ、すまんすまん。追々覚えてくれたらいいから。


「はい」


 レベッカは、見た目は15~17歳くらいの若い子だが、まだまだ幼さが残っていて初々しいなと俺は微笑ましく思いながら、お客の問いに丁寧に答えながらも、お客をどんどん捌いていった。


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