義娘が悪役令嬢として破滅することを知ったので、めちゃくちゃ愛します ~契約結婚で私に関心がなかったはずの公爵様に、気づいたら溺愛されてました~
shiryu
第1話 破滅の未来
これは、予知夢だ。
私、ソフィーアはすぐにそう認識できていた。
『レベッカ・ベルンハルド! 貴様は王子の婚約者という立場を利用し、多くの令嬢に目に余る嫌がらせをし、さらには逆恨みで王子を毒殺しようとした! 反逆罪で、処刑とする!』
役人にそう宣告された女性、レベッカ・ベルンハルトは手錠されて床に転がったまま、涙を流しながら懇願する。
『な、なんで私が、処刑に……! 私はただ、王子の愛が欲しかっただけで……!』
『だから令嬢を虐めたのか? それで王子の関心を引けると? 嫉妬して王子を殺そうとしたのだろう?』
『だって私が婚約者なのに、他の女が王子に話しかけて……! 王子も楽しそうに話していて、私には全く笑顔を見せないのに……!』
床に転がりながら言い訳を繰り返すレベッカに、集まった貴族の人達は冷たい視線を送っていた。
『アラン・ベルンハルド公爵、この決定に異論はあるか?』
その場にいたレベッカの義父で公爵家当主であるアラン・ベルンハルド。
レベッカは縋るような目で側に立っているアランを見るが……。
『異論は、ありません』
育て親であるアランの一言に、絶望の表情を浮かべる。
『そん、な……』
レベッカはそのまま、アランの横にいる私を見た。
その表情を見て、私は心が抉られるように痛む。
耐えられなくなって、私は思わず視線を逸らした。
そして役人が宣言する。
『ここに、レベッカ・ベルンハルドの処刑の決定を言い渡す! 処刑は後日――』
「はっ……!」
ようやく、私は最悪の予知夢から目覚めた。
「はぁ、はぁ……」
とても豪華なベッドの上で、汗だくになりながら息を整えていた。
久しぶりに予知夢を見たけど、本当に最悪だったわ。
私は『ギフテッド』という特殊能力で、予知夢を持っている。
こんな能力を持っていると言えば絶対に面倒なことになるので、誰にも言ったことはないけど。
予知夢はとても正確で、何も行動に移さなければ絶対にその未来は訪れる。
つまりさっきの予知夢、私の義娘となったレベッカが将来、王子と婚約してからいろんな令嬢に嫌がらせをし、最後には王子を毒殺しようとして処刑される。
私は一週間前、アラン・ベルンハルド公爵に嫁いだ。
イングリッド伯爵家の令嬢だった私だが、貧乏な伯爵家で有名だった。
だから公爵家からの婚約話に食いついて、私の意志を聞くこともなく政略結婚をした。
なぜ私に婚約話が来たのかは……アラン様が一年前に義娘にした、レベッカ嬢が理由だ。
レベッカ嬢はアラン様の弟夫婦の娘だったが、弟夫婦が事故で亡くなったらしい。
だからアラン様が引き取って義娘にしたのだが、アラン様は結婚していない。
娘が出来たのだから妻も、という声が多く上がって、アラン様に婚約話が多く来たらしい。
だけどアラン様は……。
『女など面倒だ、金は払うから妻役だけをやってくれる令嬢がいい』
ということで、イングリッド伯爵家の令嬢である私に声がかかったようだ。
それともう一つの理由があり、
『レベッカに少し似ているから』
ということだった……いや、前にレベッカ嬢と一回だけお会いしたけど、同じ金色の髪ってだけじゃない? 顔立ちはそこまで似てないと思う。
そして、一週間前に一回だけ会っただけ。
妻役というのはアラン様とレベッカ嬢が社交界に出る時に妻役をするだけで、ちゃんとした家族になるわけではなかった。
私はそれを理解していて、逆らわなかったけど……それが、将来はレベッカ嬢が破滅してしまう原因だ。
レベッカ嬢は、今はまだ十歳。
彼女は両親を亡くしてアラン様に引き取られてから一年間、ただ「公爵家の令嬢たれ」ということで厳しい教育を受けている。
レベッカ嬢の両親は、最悪に近い親だった。
公爵家だった父親が男爵の令嬢である母親と愛人関係を結んでおり、婚約者がいたのに愛人が子供を産んだ。その子供がレベッカ嬢だ。
その父親は公爵家を勘当され、男爵令嬢も勘当されて、手切れ金と共に平民街で暮らしていた。
二人は「子供が産まれなければ自分達は貴族でいられた」と思い、レベッカ嬢を憎んでいたらしい。完全に自分達のせいなのに。
虐待はしなかったようだが、レベッカ嬢に飯を与えるだけで無視していたようだ。
幼少の頃から無視されて、罵倒されて、愛など全く受けずに生きてきたレベッカ嬢。
その両親が亡くなってからすぐに、また誰も知らない公爵家に引き取られる。
両親のもとにいた頃よりも生活はとても良くなったと思うが、いきなり令嬢の教育を受けることになった。
アラン様はレベッカ嬢に興味がないのか、ほとんど会わず、一カ月に一度の食事会でも会話もしない。
厳しく愛を知らない環境で育っていくレベッカ嬢は、愛情に飢えていく。
そして十八歳になった頃に王子との婚約が決まって、王子に愛を強く求めるのだが……王族と貴族の婚約に愛などは必要とされていない。
実際に、私とアラン様の間にも愛などはない。
ただアラン様にとって私と結婚するのは都合がよく、私も親の取り決めで結婚しただけ。
レベッカ嬢もそれを知っているはずなのに、愛を知らずに育った彼女は王子から愛を求めてしまった。
王子と話す令嬢に嫌がらせをして遠ざけて、王子から愛を受けようとする。
しかしそんなレベッカ嬢を王子が好きになるわけがなく、むしろ心は離れていく。
最後にはレベッカ嬢が王子を毒殺しようとして……というのが、予知夢で見た未来だ。
「なんて可哀そうなの、レベッカ嬢は……!」
私は思わずそう呟いた。
九歳で両親が亡くなってからベルンバルド公爵家に、誰も知らない場所にいきなり引き取られた。
レベッカ嬢の両親も最悪で、そこから逃げられたのはよかったかもしれないけど、今でも十歳の子供が受けるには厳しい教育をされている。
これからもずっと続いていき、どんどん心が消耗して愛に飢えていく。
このままでは予知夢の通りに、処刑されるようなことになってしまう。
ただ私の予知夢の素晴らしいところは、対策が出来るところだ。
「絶対に、レベッカ嬢を助けるわ……!」
義娘のあんな未来を知って、何もしないわけにはいかない。
まだ一回しか会ってないけど、私とレベッカ嬢は家族になった。
契約結婚だとしても、そこに変わりはない。
だけど愛のある家族ではないから、そこを変えないと。
私がレベッカ嬢と愛情を伝えて、しっかりとした家族関係を築ければ、未来でレベッカ嬢が処刑されるようなことはなくなる……かもしれない。
「私だけがあの未来を知ったんだから、絶対に回避してみせるわ!」
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