6話
今回の事件にデジャヴを感じるのは、里佳子と紗里を重ねているだけではなく、俺自身の境遇と似通っているからかもしれない。
両親の死、ストーカー男、誘拐事件。
俺の周りで起こった事件と符合するところがある。まるで出会うべくして出会った事件ではないだろうか。
俺も数年前から謎の男につき纏われており、鬱陶しいことこの上ないのだ。
わざと見えるような位置に立ってこちらを見ていることがあるのだから、隠れる気もないのだろう。
もしかしてあいつは俺にしか見えていない幽霊ではないだろうか、そう思うこともあったが、何度か通行人が男を不審気に見ながら通り過ぎるのを確認している。
不審者は俺以外にも見えている。喜んでいいやら震えていいやら訳が分からない。
そういえば最近紗里が姿を見せないのに合わせて、男の気配も感じなくなった。
これも里佳子のパターンと被る。
一志に言わせれば里佳子がいなくなってから、都筑も姿を現さなくなったということだ。
普通に考えれば手に入れたかった里佳子を捕らえたため、ストーキングする理由がなくなったということだろうが……。
何事も先入観を持たないようにしなければならない。俺は里佳子が家出をしているに70パーセント、都筑の家にいるに30パーセントと賭けた。
☆ ☆ ☆
俺が車を運転し、都筑達也の家に到着したのは夕刻前、だんだん雪が本降りに近づいてくる時刻だった。
天堂家から車で1時間ほどの道のりだったが、途中で高速を利用したので実際はかなりの距離があるようだ。
急いで話をつけてここを出ないと、雪のせいで帰りは渋滞に巻き込まれるかもしれない。
俺と一志は車から降りて都筑家を見た。
住宅地とは聞いていたが、隣接する家との距離は1メートルもないだろう。かなりせせこましい立地にある小さな2階建ての住宅、そこが都筑家だった。
俺は外から庭の様子を覗き込む。
小さいなりに整えられた庭があり、寒椿だろうか、植え込みにピンクの花が咲いていた。
一人暮らしというのだから、庭の手入れは都筑がやっているのだろう。
あれだけ広いにも関わらず手入れの行き届いていない天堂家と、小さいが温かみのある都筑家。どちらで生活したいかといえば答えは明白だろう。
俺は都筑家を見た瞬間、ここに里佳子がいる確率は低いと見積もった。
これだけ隣家との距離が近いのであれば、少女を監禁していて気付かれないはずがない。
一志に聞いた話だと、現在都筑は大手の広告企業に勤めているそうだ。となれば、朝起きて出勤しているはずだ。
中学2年生の少女を監禁した状態で、夕方、または夜まで家を開けるというのは心理的に不安なはずだ。
ましてこれだけ隣家との距離が近いのだから、里佳子が何らかの方法で外へ連絡をとろうとする可能性もあるだろう。
そういった危ない橋を渡ってまでこの家に里佳子を置いておくはずがない。
ただ、昔こういう住宅地で実際に少女が何年も監禁されていたという事件があった。あるはずがない、という先入観は持たないようにしなければならない。
俺は期待外れという表情を極力表に出さないように、一志に声をかけた。
「車の中で言ったことを覚えていますね?」
「ええ、相手の目の動きなんかを見るんですね」
「そうです。テレビのドキュメンタリー番組なんかでマルサが税金滞納者の家を訪問し、現金の隠し場所を当てたりするでしょう。やましいことがあると、人は自然と隠し場所に目を向けてしまうんです」
「分かりました。奴が里佳子のいる場所に自然と目をやるかもしれないので注意をしておきます」
「お願いします。ただ、あくまでこれは一つの手法です。私も意識を集中して里佳子さんの霊とコンタクトをとるようにしてみます」
「よろしくお願いします」
最後は自分がお祓い屋として雇われたことを忘れないよう、尤もらしい文言を付け加えておいた。
俺と一志は一旦目を見かわし合ってから、都筑家のインターホンを鳴らした。
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