7話

 俺と一志は畳敷きの居間に案内され、ちゃぶ台を挟んで都筑達也と向かい合っていた。


 当初、訪問してきた俺と一志を適当にあしらおうとした都筑だったが、一志の「これが最後だから」という言葉を聞いて仕方なしに部屋の中へと案内してくれた。


 今、都筑は俺が差し出した名刺を訝し気な表情で確認し、不思議そうな顔でこちらを見ていた。


「どういうことですか、お祓い屋? 霊媒師みたいなものですか?」

「ええ、ちょっと表現が違うのですからお祓い屋をやっております椿風雅と申します。今日は天堂一志さんの依頼を受けて同行させていただきました」

「はぁ」


 なんでお祓い屋が、という疑問が都筑の脳裏を埋め尽くしているようだ。

 誰だってそうだろう、そもそもお祓い屋が何かも良く分かっていないのだから困惑するのも当然だ。


「都筑君、明日から海外へ出張だそうだね」


 早速、一志が口火を切った。


「……ええ、どこでそれを聞いたんでしょう」


 都筑は途端に厭そうな顔をして一志を見た。

 女性のように線の細い都筑達也は、俺の想像していた人物像とだいぶ異なっていた。


 少女を追いかけまわすようなストーカー男、さぞやもてないダサイ奴だろうと鷹をくくっていたのだが、驚くほどに端正な顔立ちだったので困惑してしまう。


 長めの前髪を軽く横に長し、涼し気な目元をした都筑は、ぱっと見は若者に人気の有名俳優にそっくりだった。

 これだけの容姿ならほっておいても女が寄ってくる、わざわざ中学生に手を出さなくてもなんとかなるだろうというのが正直な感想だ。


 俺がジロジロ見すぎたのだろう、都筑は気味悪そうな視線を返してよこした。


「お2人のご用件は分かっています。里佳子ちゃんのことですね」

「ああ、里佳子を返してほしい。頼む都筑君、この通りだ」


 一志はちゃぶ台に頭がつくほど首を下げた。


「天堂さん、本当に勘弁してください。俺は里佳子ちゃんの家出とは無関係なんですって何度言ったら分かるんですか。迷惑なんです、会社にまで来られたら」


 なんと、一志は都筑の会社にまで押しかけていたのか。

 妹を思うばかりの行動ではあるが、もし本当に都筑が無関係であれば大問題である。

 一志は有名企業の社長、週刊誌なんかで面白半分に書かれたら会社の業績にも響くだろう。


「失礼ですが、都筑さんは里佳子さんが家出をしたとお考えなんですか?」


 俺の質問に都筑は頷き、言いずらそうに話し始める。


「だって、里佳子ちゃんの家出はこれが初めてじゃありませんから。前もSNSで知り合った友達のところに連泊していて、心配した向こうの親御さんが連絡を寄越したんですよ。そんなことが一度や二度じゃないですから」


 この辺りは一志に聞いていたことと合致する。

 友人関係や将来の事に悩んで家出をするのだと聞いていたが、都筑はどういう認識だったのだろうか。


「ちなみに都筑さんは里佳子さんの家出の原因をご存じですか?」

「ええ……まぁいろいろと……話は聞いてました」


 都筑はほんの少し言い淀んだが、すぐに気持ちを切り替え口を開いた。


「お兄さんの束縛が苦しいと、そんなことを言ってました」


 途端、一志が予告もなく激高する。


「嘘をつくな! お前だろ、お前が里佳子につきまとって誘拐したんだ」

「だから違いますって。確かに向こうは俺に恋心を持っていましたけど、それはあくまで憧れみたいなもんです。あれくらいの年の子って若い先生に憧れたりするもんだから」


 都筑が言うと妙に納得してしまう。


 これだけの色男、里佳子の方が熱を上げてしまってもおかしくはない。しかし、そうなってくると事態はひっくり返る。

 一志は誘拐だと言っていたが、双方合意の駆け落ちという可能性も捨てきれなくなってきた。


 里佳子が納得済みでこの家に身を隠しているのなら、隣家に気付かれずに生活することも可能だろう。


 都筑はちらりと窓の外に目を向ける。

 雪が本降りになってきており、庭の寒椿も雪化粧を始めた。

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