10話
俺は京香と会ってから一旦寺を離れ、お昼ごろにもう一度戻って来た。早朝だと満緒が起きていないだろうと考え、この時間を選んだ。
今度は本堂に立ち寄らずそのまま寺の裏を通り、母屋の方へ足を運んだ。
廊下から名前を呼ぶと、包丁片手に疲れたような表情をした満緒が現れた。
「おいおい、俺をどうする気だ」
「ああ、椿さん。すいません、親父の弁当作ってる最中だったんで、ちょっと待ってください」
そう言って一旦奥へ引っ込んで、お盆にお茶を乗せて改めて戻って来た。脇に何か紙を挟んでいるようだ。
「昨日住職さんに会いに行って話を聞いてきたよ」
「ああ、親父から聞きました。どう思いました?」
「どうって……?」
「親父、本当にストレス性の潰瘍だと思いますか?」
率直すぎる質問に何と答えればいいのか分からないが、なるべく表情を変化させずにやんわりと答える。
「顔色はあまり良くないようだったけど、元気そうに喋っていたよ。君がお弁当を作ってくれることを喜んでたよ」
「そうですか。あの女の作ったもんを口に入れさせたくないだけです」
「食べ物に毒を盛っていると思うんだね?」
「絶対それしか考えられないです。少し前まで元気だったのに、あんないっぺんに体調が悪くなるなんて絶対におかしい」
満緒があまりの剣幕で怒り始めたため、俺は慌ててセーブをかけた。
「おいおい、落ち着けって。かりに毒だとしても病院で検査を受けたんだ、もし何か異常があればその時に分かるはずだろ」
「でも、最近は検査に出ない毒だってあるくらいです。ドーピングなんかは、年々巧妙化していって検出するのが大変だって言うじゃないですか」
毒とドーピングは違う話だが、海外からサプリを輸入するくらいだから違法性のあるものを手に入れることも可能だろう。
満緒の言う通り、病院の検査で毒を検出するのは不可能なこともある。
当初から毒を飲んでいると分かっていればあらゆる可能性を視野に入れた検査を行うが、そうでないなら見落とされている事だって十分ありうるだろう。
だが俺はあえてその言葉は口にしなかった。
これ以上満緒を疑心暗鬼にさせるのは得策ではないという判断だ。それでなくても、父親のことでずいぶん取り乱しているのだから。
「ところで住職と京香さんはどこで出会ったんだい?」
俺が尋ねると、途端に満緒の口が重くなった。
またか。
住職といい満緒といい、一体何だっていうんだ。
「話したくないなら構わない。無理に聞く必要はないからね。ただ、もしかしてそこに何かあるんじゃないかと住職の話を聞いて思ったもんだから」
「―――。」
満緒は何か考え込むように目を瞑っていたが、意を決したように口を開く。
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