イニシャル
「あと数時間後に起きるテロを防ぎたいんだ」
ほうほう。
「冗談に付き合ってる暇がないのは分かるだろ。今、私はタイピング練習をしているんだ。一週間後に大会だって控えている。つまらない冗談で人の興味を引き付けられると思うな。だいたいな、『防ぎたいんだ』って言われても私にどうしろというのだね君は。もう少し頼み方を工夫したらどうだい」
そう言ってまたタイピング練習に励む。
一秒に4キー打てるようになったがまだ足りない。世の中にはこの三倍の速度で打つ超人がいるのだ。こんなところで満足してはいられない。
「テロが起きるのは本当なんだって。ほら、今、未来人との邂逅とか流行ってるだろ。俺、実は未来人なんだ。数時間後のね。だからさ、テロを止めるの、協力してくれない?」
「未来人のブームなんて来てないだろ。あとお前とはよく会ってるから邂逅とは言えないだろ。それにそもそもそんなことを言うんだったら警察に駆け込んだ方が早いだろ。無理やり一人二人引っ張って、証拠を見せればはい完結」
だんだん口調が適当になっているのは許してほしい。
「いや、警察に捕まえられたらとっても厄介な問題に発展するんだよ」
「なるほど分かった。どこぞのお金持ちか政治家だろ。オッケーオッケー、そうしたら捕まえて顔を隠せばいいんだ」
「いやこれ起こしたの総理大臣だから」
「なおさら警察官も臨機応変に対応してくれるだろう」
今の総理大臣は一言で言って希望。人類と、
「なあ頼むよ
「だからなんで私に頼むんだよ」
一度タイピングを止めて顔を上げる。友人の
と、まあ目の前の親友はそんな平々凡々な一般人だ。大事なことだから二回書いておく。
そんな平凡が口を開く。
「テロを止めてとお願いしたんだけど鳥人以外とは話さないってメモで渡されてさ。だから
最後だけ丁寧語なのが謎すぎる。
「言っておくが、君も知っての通り、読書量と同世代と比べるとほんの少しだけタイピング速度が速いことだけが取り柄の普通の中学二年生なんだよ」
自分で言うのもどうかと思うが普通過ぎる。頭が学校の中では少し良い、練習していたからタイピング速度が学校では少し速い。ただ運動部に入らず、体育のウォーミングアップ軽く呼吸を整えなければならないぐらいに体力がない。その代わり読書量は多い。一年で150冊は読む。これを多いと思うかは人それぞれだが。でもまあ、何ら特別でもない凡庸な人間ということは覆せない。特徴を上げるとしたらそれこそ鳥人ということだけだろう。
「鳥人がだいたい平和主義だから、馬崎じゃないといけないんだよ。鳥人って警察官にならないし、テロがあったら相手が誰であろうと理由も聞かずに逃げるし。こうやって真面目に話を聞いてくれる鳥人は馬崎だけなんだよ」
「私は君の思うように動かないかもしれない。君が思っている結果が出せないかもしれない。それでも君は私を誘うかい? どこかの小物の様だが、私は責任という言葉が大嫌いでね、無責任に生きていたいんだ」
「大丈夫だ。これに失敗しても、誰も馬崎のせいになんてしない。誰も馬崎が失敗したなんて知らないからな」
そう、健は不敵に笑った。
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