魔王城に乗り込んでみたらTRPG喫茶でした~優しい魔王軍問題~

春野 一輝

第1問 GM:優しい魔王がでてきたら君はどうする?

「ついに、魔王城までやってきたぞ」

 眼前の巨大な壁門を見上げ、勇者は生唾を飲んだ。

「ええそうね、ついにここまでの旅の決着がつくわ」

 女拳闘士が握りこぶしを作って手を力ませる。準備万端そうである。

「フ、貴様らとこんな地獄の果てまで付き合うとはな」

 片メカクレの黒いローブの魔導士が、とんがり帽子をステッキで上げてそう言った。

「私の力が、皆さんの力になることを祈っています」

 両手を胸に当て、祈りのポーズをとりながら僧侶は静かに囁く。

「ぷぴー♪」

 ぴょんぴょんと、小さな可愛い薔薇を付けたスライムが気楽な口笛を吹く。


「いくぞ!」

 勇者が刮目し、両手を門に手を当てると、門に魔法陣が現れて自動的に魔王城の城門が重く開いていく。


 そして、巨大な魔王城の門が、リンリン~♪とベルを鳴らした。


「わぁ、いらっしゃいなのら~」

 青褐色の肌、長くとんがった耳、長い腰まで伸びた白い髪。

 肩に厳つい鎧から、黒のベースに青い下地のマントをはためかせる存在。

 空中に浮遊しながら、紫色の水晶のステッキを掲げた魔王が現れた。


「「「魔王だーーッ!?」」」


 突如眼前に現れた魔王に、勇者パーティ全員が武器を抜く。

「ファイアーボール!」

「南都炸裂義勇拳!!!!」

「ホワイトヒール!」

「ライトニングスラァアアッシュ!!」

 全身全霊の必殺技を放ち、魔王にぶつける勇者パーティ。


「うななぁ~~!?」


 突然の攻撃をぶつけられて、燃え、腹に打撃を受け、最後に電撃の切れ味を身に受けた魔王。

 その場に、へたへたと力なく倒れ、ぺちゃんこになってしまった。


「やったわ??!!」

 倒れ伏した魔王を見て、女拳闘士が構えつつ後方に下がる。

「倒した!? いや、全然、強くないぞこいつ!?」

 目を見開き、自身の手ごたえに疑問を持つ勇者。


「やられたのら。強いのら~~」

 ヘロヘロとした声を出す魔王。


「勇者! 息がある、と、とどめを刺せぇ!」

 腕を斜に空を切らせて、魔導士が勇者に指示する。


「わかった! 魔王、止めだ!!!!」

「にゃぁ♪」


 しかし、止めの剣の目の前に、猫が一匹通りかかった。


「あ、危ないのら!」

 猫をかばう魔王。

 止めを刺すのを躊躇し、かばう魔王から剣先を退ける勇者。

「あ、危ない。……猫を傷つけるところだった」

 勇者は冷や汗をかきつつ、剣をしまう。

「そうなのら。あぶなかったのら~。やっぱり武器は尖っててよくないのら」

「そうだな」

 といって、仕舞った勇者の剣を見つめる勇者。


「い、いやいやいや!魔王なら戦いなさいよ!こっちがやりにくいでしょぉ!?」

 そのやり取りに、突っ込みを入れる女拳闘士。

「でも、ビュティ。この魔王、悪い感じしないよ?」

 困り気味に、女拳闘士ビュティに言う勇者。

「闘気もありませんし……」

 僧侶も困ったように、首をかしげる。


 やりにくそうな空気になった勇者パーティ。

 止まってしまった空気を見ると、魔王は立ち上がって綺麗で無邪気な笑顔を浮かべにぱっと口を開いた。

「そうなのら! いらっしゃいなのら♪ 僕……ノラの魔王城TRPG喫茶へ!」

 魔王はしゅるるると変身が解け、小さな少年の姿になると手を広げてそういった。

「「「「ノラの魔王城TRPG喫茶!?」」」

 仰天する勇者パーティを見て、少年姿の魔王は猫をなでた。

 そんな一場面を、気にせず猫がにゃぉーと鳴いたのであった。

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