鼓動継承
20_鼓動継承_ナガト
「これでお別れね」
迎えのヘリにセレネは飛び乗る。
「うん、まぁあっちでも上手くやれるさ」
「もちろんよ。カナメもしばらくは護衛を派遣させるって言ってたしね」
「みんな凄いね」
「それに私には夢があるのよ」
「夢?」
「両親の会社を今まで以上に大きくして、良い旦那見つけて、大勢の子供達と幸せに暮らすの」
「叶うと良いね」
「ええ、旦那候補も見つかった事だし」
「あー、カナメはやめたほうがいいよ。ああ見えて天帝陛下なわけだし」
「……あなた鈍いのね」
「え?」
「1年、1年後にまたこの地に私は帰ってくるわ」
「ウイルス抑制剤1年分しか持ってないもんね」
「ほんと、おバカさんね」
「え?」
「まぁいいわ。じゃあね。未来の旦那様」
セレネはナガトの額をピンと指で弾く。合図を送ってヘリを上昇させた。
「……あっ、俺のことか? それともドイツ式の社交辞令かな?」
ナガトは少し考える。
「答えは一年後か」
ポケットに手を突っ込む。
「もうそんなに寒くないな」
ポケットから手を出して椿宮師団、天帝邸に戻る。
カナメの部屋に行くと早速カナメはナガトに依頼を出す。
「さてナガト、薬代は払ってもらうからな」
「何をすれば良い?」
「ここから北、福島の会津地方に君影研究所という場所がある。そこに行ってアンナという女性からウイルス抑制剤をもらってきて欲しい」
「あ、地元じゃん」
「そうか、じゃあ簡単だな。これを持っていけ」
カナメはナガトに椿の花の意匠が施されたコインを渡す。
「これは?」
「友好の印と思ってくれればいい、これを見せれば協定によりシルバーベルは手を出さないことになっている。もしもトラブったら言ってくれ」
「これで大手を振って歩けるわけか」
「シルバーベルは感染者に容赦ないからな、協定を結ぶだけでも苦労した。それでもあいつらの腹は読めたもんじゃねえ。気をつけろよ」
「うん、わかった」
ナガトは仕事の依頼を引き受ける。
話の矢先、部屋のドアから足音が漏れる。
カナメの部屋の前で足音が止ると勢いよくドアが開け放たれる。
「おい壊れるだろ、誰だよ!」
「おう! アタシだ」
タンクトップに、引き締まった体、黒にうっすらと緑を染めた髪の女が現われる。
「って、
「いやぁ、獣桜組みに向う途中だったんけどアンナからウイルス抑制剤の追加をおつかいされてな!」
「あ、姉ちゃん」
「ん? んんんん?? おい!? ナガトじゃねえか!」
「え? おま、ナガト……なんでフソウのこと言わないんだよ」
「え?」
「いやいやいやいや、コイツは確かにナガトで私の弟だけど精神を病んでおかしくなってたはずなんだよ」
「姉ちゃん。もう大丈夫だ」
フソウは目をうるうるさせて嬉しそうにした。
「そっか……それはよかった……お前の精神のためにこの数年面会謝絶を言い渡されて様子すら見れてなかった……息災ならいい!」
「うん、心配かけたな」
「ああ、全くだ。お帰り、ナガト」
「いや良い感じになるのは良いんだけど。ナガト、お前の頼み事どうするんだよ」
「あ、ウイルス抑制剤!」
「ナガトとカナメはなんの話してんだ?」
「えっと姉ちゃん、カナメに世話になったからそのお礼にお使いでウイルス抑制剤をもらいに行く予定だったんけど」
「あっ、私が持って来ちまったな! ラッキーだな!」
「うーん、じゃあ代わりの仕事を頼むか」
「おいおいカナメ、ナガトが復活したからとりあえずアンナのところに顔を出させろ。依頼はアタシが代わりにやったんだから文句ねえだろ? ねえって言え、さもねえとはっ倒すぞ」
「おめえに叩かれたら骨が何本あっても持たねえよ。わかった。わーったから」
「よしそれでいい」
「まったく人使い荒いぜ」
「んじゃあ、ナガト、とっと君影研究所に行け。アタシはこれから獣桜組のところ、えっと京都の辺りまで行ってくら。三日くらいで戻る」
「うんわかった。三日!?」
「おうよ! 安心しろって姉ちゃんこう見えて超強いから」
「そ、そうなんだ」
「おう! 何せ私のベースは――」
「おい、フソウ、それは秘匿事項だ。弟でも口外は禁止だ」
「んだよケチくせえな! わーったわーった」
「ナガト、色々あったがこれからも椿宮師団共々よろしくな」
「うん」
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