07_忌憚再演_ナガト

 ナガトは椿宮師団に向う途中でトモエという少女と出会い、彼女を椿宮師団に送り届ける約束した。

 まず一晩、トモエと過ごし明朝にナガトはバックパックを前に抱えてトモエを背負う状態で足を進めた。

 

「トモエさん、ずっと気になってたんだけど」

「何ですか?」

「その角は一体?」

「あ、これは感染者になったときに生えました」

「感染者……? あれってバケモノになって人を襲うんじゃないのですか?」

「感染者の中には特殊感染者と言って私のように理性を失わずにいられる人もいます」

「へえー、特殊感染者、ですか」

 

 

(よくよく考えたらヤマトさんも自分のこと感染者って言ってたな……あれは特殊感染者って意味だったのか)

 

「まぁ、ナガトさんも特殊感染者なので」

「いや、僕は感染者じゃないよ」

「え? そんなはずはないと思いますが」

「みんな間違えるのですよね」

「……そうなんですね」

「今の間はなんですか」

「いや、現実を受け止められない人なのかと思いまして」

「違いますよ」

「そ、そうですか」

 

(前にも同じやり取りをやったな)

 

「とりあえず、私は感染者で角とこの足はそれが原因なんです」

「そうだったのですね。これじゃあ不便だ」

「ええ、全く以てその通りです」

 

 その後もトモエと会話を続けながら足を進めた。

 

 夕方まで歩き通し、何とか椿宮師団のお膝元まで進む。

 

「ナガト、もうすぐ椿宮師団です。頑張って下さい」

「オッケー!」

 

 ラストスパートをかけてナガトは歩き続ける。

 ようやく人気のありそうな場所にたどり着く。ここも金属製の門と金属製の柵に囲われた場所に農地があり、一列に並んだ野菜に牛や豚の声が聞こえる。

 

「やっと帰ることができました……ナガト、ありがとうございます」

「家はどこ?」

「この先をちょっと行ったところです。ここまでくれば他に人がいるので背負わず肩を貸していただければ十分です」

「わかった」

 

 トモエを降ろし彼女の手を掴んで支える。覚束ない足取りでゆっくりと前に進む。

 

 チカチカと光がナガト視界に入る。

 目を細めると明かりを持った人がこちらに向ってくる。

 

「兄様です。迎えに来てくれたようです」

 

 

 少し待つと、トモエに顔立ちが少し似ている男が鋭い剣幕でこちらに歩み寄る。

 

「お前かトモエを攫ったのは!」

 

「え、いや、僕は――」

「うるせえ、ぶっ殺して――」

「兄様やめ――」

 

 ナガトは咄嗟にトモエの手を放して後ろに飛び跳ねるように下がる。

 

「騙したんだね……トモエさん」

「ちがっ! 違います」

「またかよ、僕が何をしたって言うんだ! どいつもこいつも!」

 

 ナガトは踵を返し、闇夜に駆け消えた。

 

「ナガト! 何かあったらもう一度、もう一度ここへ! 絶対に力になります!」

 

(嘘つき達め、もう二度とこんなところに来るかよ!)

 

 

 ナガトは夜の東京を闇雲に走り、逃げる。

 

 

「トッケイ! おい! 今すぐ戻った方が良い!」

「うるさいうるさいうるさいうるさい!」

「ナガト、俺は――」

「どいつもこいつも! 僕はただ親切でやっているだけなのに! クソ! クソが!」

「おい、ヤケになるな!」

「トッケイ、君も僕を陥れようとしているんだ! そうに決まっている!」

「そんなわけねえだろ! だって俺は――」

「うるさい! 聞きたくない! 話しかけてくるな!」

 

 ナガトは怒りと悲しみ、色々な感情がグチャグチャ混ざった中で叫び声を上げる。

 

 ゴッ――

 

 足に何かが引っかかり頭から地面に転がる。

 

「ああ……あああああああ! 何でだよ!!」

 

 蹲って、土を握り、何度も地面を叩く。

 

「クソ! クソ! クソ!」

 

 

 

 

 忌憚再演 完

 

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