06_忌憚再演_ナガト
椿宮師団に向うナガトは真ん中までひび割れた国道の中央線を堂々と歩きながら東京に向う。
(椿宮師団……東京って言っても大きいし)
ナガトは地図を見て頭を捻る。
(とりあえず山手線を東京駅からグルッと一周するか)
東京駅は外観がわかりやすく、ナガトも実際に訪れた事もあったためとっつきやすかった。
3時間程歩き続けた頃、ナガトは奇妙なものを見つけた。
車椅子に黒い髪の女の子が座っていた。女の子の額には存在そのものがあり得ない白に緑色の筋が乱雑に伸びた角が一本伸びていた。
加えて、表情は誰が見てもご機嫌斜めなのは明白だ。
このシチュエーションはあまりにも不気味だった。
何もない、道路に車椅子、そして可愛らしい角の女の子だ。
何よりナガトはついこの間、この子とそう年が変わらない相手に痛い目を見させられている。
視界を地面に落として何食わぬ顔で女の子の前を横切る。
「あの、車椅子の女の子がいるのに話しかけないのですか?」
「……怪しいよ?」
「ぐっ……それは、そうかも知れませぬが」
「そういうことじゃあね」
「あっ、待っ――」
女の子は手を伸ばした同時に車椅子が浮いてそのまま地面に転ぶ。
「痛っ!」
(車椅子だし足が悪いのか?)
ナガトは振り返って車椅子を起こして女の子を支えて車椅子に戻す。
「ありがとうございます。ついでに頼みを聞いて貰えませんか?」
「頼み?」
「実は家に帰りたいのですが車椅子が壊れてしまって立ち往生していたのです」
「それで?」
「家まで送って欲しいです。お願いします。」
女の子は深々と頭を下げる。
(ここは冷静に少し吹っ掛けてみよう)
「報酬は?」
「報酬……ですか、家に着いたら温かい食事とお風呂、布団もあります。一日くらい泊まるくらいでどうでしょうか」
(飯に寝床……)
「うーん……連れて行く場所次第かな」
「場所は椿宮師団です。悪い話じゃないと思いますが」
「それならいいよ。椿宮師団に行く途中だったし」
「そうだったのですね。よろしくお願いします。えっと?」
「ナガトです」
「私は
挨拶もほどほどにナガトは車椅子の後ろにあるハンドルを握り前に押すが、車椅子はピクリとも動かない。
「うっそだろ……」
「車軸とタイヤがダメになってしまってて……」
「じゃあ、まさか」
「はい、そのまさかです」
ナガトは息が荒れていた。
トモエを背に乗せてナガトはおおよそ1キロほど歩いていた。
「はぁ……はぁ……あとどのくらいだ?」
「もっと先ですね。頑張って下さいナガトさん」
「よく車椅子でここまで来たね」
「実はあの車椅子、電動式で暴走してしまい……」
「途中で壊れたわけか」
「はい」
「とりあえず、今日はここで野宿する」
「わかりました」
ナガトはトモエを地面に降ろすと、バックパックからサバイバルの道具を取り出し、焚き火を起こし、鍋に水を入れて煮沸する。
「随分と手慣れているように見えます」
「見よう見まねだよ。ついこの間までただの中坊と変わらない年齢だったし」
「あら、その割りには年上に見えますね」
「そうか?」
「はい、二十歳くらいに見えます」
「老け顔かもしれない……」
「うーん、でもおじさんって感じでもないかと。殿方の顔はそれまでの人生の表われと聞きました。年齢以上の経験を積んでいるのかも知れませんね」
「そう……かな」
ナガトは牢屋の事を想いだしてため息をつく。
「まぁ年下に見られるのも中々ですよ。若々しいという意味ならいざ知らず、甘く見られているようなニュアンスだと腹が立ちますので」
「そうなんだ。大変だね」
「そうですとも舐められるのは屈辱ですから」
「学校だと舐められっぱなしだと面倒だもんね」
「…………」
トモエは最初に出会った時のようなふくれっ面になる。
「どうしました?」
「
「……うそ、ゴメン。中学……いや小学生くらいに見えてた」
「はぁ……これだからこの見た目は嫌なのです」
「まぁまぁ、松の葉のお茶飲む?」
「それ……美味しいのですか?」
「ドブ臭いお湯よりは」
「……水を飲まないのは危険なのでいただきます」
「お、おう」
コップに松の葉を煮出した汁を注ぎトモエに渡す。
「まっずい」
「松の葉にはビタミンが沢山含まれてて寒いこの時期は数少ない栄養なんだ」
「よくご存じで、どこでそれを?」
「えーっと……よく覚えてないや」
「でもこうして知識として得られているのなら良きことでしょう」
「そりゃ……そうだね」
「ええ、そうですとも。もしも誰かに教わったものならその人にお礼を言うべきです」
「……誰から聞いたんだっけ」
ナガトはポツリと呟く。
「ところでナガトはどちらから?」
しれっと自分の方が年上であることを知ったトモエはナガトからさんを剥奪する。
「東北の方から」
「福島? 宮城? それとももっと北ですか?」
「福島の会津です」
「随分遠いところから来たのですね」
「そうですね」
それからトモエは色々な他愛のない話をいくつかした。好きな食べ物とか日本の好きな場所の話。
トモエの話は機知に富んで、日本の隅々まで知識を網羅している。ナガトは飽きることなくトモエの話を聞き、夜を楽しく過ごした。
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