04_聖銀福音_ナガト

 

 

 

 市街地を抜けた場所に休むのに使えそうな家を見つけたナガトとアイリは軽く食事を取り、アイリは寝室で一人眠っている。

 

 ナガトはバケモノを殺した余韻が残っているのか眠ることができなかった。

 

 家から出ると満天の星空がナガトを迎えた。

 

「トッケイ! 久々に殺した気分はどうだ?」

「トッケイか……」

 

 姿は見えない。闇に紛れてトッケイはナガトに言葉だけをぶつける。

 

「殺した気分はどうだって聞いてんだよ」

「気分……なんていうか、気持ち悪い。でもこの感覚を知っているような」

「そうかよ」

 

「トッケイお前もバケモノなんだろ?」

「もちろん」

「僕たちを食べるために追いかけているのか?」

「いいや、違うね」

「じゃあ、どうして僕たちに着いてくるんだ?」

「さぁな、意味が無いってことはわかるけどな」

「意味が無い?」

 

「その通り、まぁ、俺もお前も向う先は同じなだけさ」

 

「同じ?」

「じゃーなー、あ、それとシルバーベルの中には入るなよ?」

 

 トッケイはけだるけな声を残して気配を消した。

 

「なんだよ……」

 

 

 翌朝になると、アイリが身支度を整えて寝室から出てくる。

 

「おはよう」

「……おはようございます」

 

 他人行儀なアイリの反応をよそ目に朝食を済ませる。

 すぐに二人は家を出て、歩みを進める。

 

「今日か明日にはシルバーベルに着くのか?」

「ええ、早ければ今日の夕方か夜には着くはずです」

「そっか、楽しみだね」

「ええ、そうですね」

 

 

 それから会話は一切無かった。

 

 

 

 

 夕刻、シルバーベルの正門にナガトとアイリはたどり着いた。

 増築された鉄の壁、奥には教会によくある十字架が見えた。それ以外にもいくつかの建物があり、まるで壁の中全体が一つの町になっているような状態だった。

 

「ここがシルバーベル……」

「やっとたどり着けた……」

 

 アイリは鋼鉄の大門を叩く。

 

「あの! あの! 助けてください!」

 

『どうかしました?』

 

 壁の奥から声が聞こえる。

 

「感染者から逃げてきました!」

 

 アイリが返答する。

 

(感染者?)

 

「わかった。今扉を少し開ける、入るんだ」

 

 数分後に大門を人一人分だけ開きアイリに続いてナガトが入った。トッケイの忠告を無視して。

 

「ここがシルバーベル……」

 

 アイリは扉を開けた男と会話をしている。

 男は話を聞きながら別な人に指示を出している。

 

 

 瞬間――。

 

 ナガトの視界がチカチカと光り、遅れて頭に衝撃が走る。

 

 そこで意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと牢屋のような場所にいた。丈夫な鉄格子にコンクリートで囲われた場所。鼻を突き刺す腐臭がナガトを眠りから遠ざけた。

 

「ここは……?」

 

 何があったのか覚えていない。

 

「おーい!」

 

 返事はない。

 

「おーい!」

 

 次の日も。

 

「おーーーーーい!」

 

 次の次の日も。

 

「なぁ! だれかいないのか!」

 

 次の次の次の次の日も。

 

「なぁ……だれか……いないのか?」

 

 次の次の次の次の次の次の次の次の日も

 

「………………」

 

 一ヶ月が経った。

 

 ナガトは時々流れ込む雨水を飲み時より通る虫の類いを食べて飢えを凌ぐ。

 ネズミが出た日はご馳走と思えるほど追い込まれた。

 

 

 二ヶ月が経った。

 

 雨が降らない日が続いて、ナガトは酷い脱水で牢屋の隅で倒れていた。

 立ち上がる気力も無くなるほど衰弱していた。

 

 目を閉じたら最後と薄々感じていた。

 

「……死ぬのか」

 

 ナガトはゆっくりと目を閉じる。

 

 

 

 

 

 聖銀福音 完。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る