第27話 あなた初心者じゃないですよね?

 俺は小林からもらったゲームを持ち帰り、部屋に戻った。普段あまり片付けをしない性格なので、部屋はちょっと散らかっていた。小林が来る前に、せめて床を掃除しようと思って掃除機をかけたり、本を整理したりした。少し疲れたけれど、小林が来るのが楽しみだったので、気合いを入れて部屋を整えた。俺の部屋は、出入りする人が決まっているから部屋が散らかっているだろうが別に気にしたことはない。それでも小林相手にいつもの俺の部屋をお見せするのは、心苦しかった。


 俺は小林の予定を聞いて、空いている日に俺の家に招くことにした。土曜午後二時。その時間に来てもらうことにした。俺の家はあらかじめ教えておいたので、迷ったりしなければもうすぐ着くころだろう。小林が迷うところは想像つかない。大丈夫だろう。


 やがて、小林が訪ねてくる時間がやってきた。玄関のチャイムの音がして、俺は少しドキドキとドアを開けると、そこには小林が笑顔で立っていた。


「おっ、綺麗にしてくれてるのね。さすが、橋本くんだ」


「まぁ、ちょっとは片付けてみた。じゃあさっそく、ゲームするか」


 小林は嬉しそうにゲームのカセットを手に取り、テレビの前に座った。俺もそれに続いて座り、ゲームを始めた。なんか俺の部屋で二人っきりって考えると余計ドキドキしてきた。これはよくない。心を落ち着かせなきゃいけない。


 最初は緊張していたけれど、ゲームが進むにつれて、俺たちはリラックスして笑い合いながらプレイした。小林は初めてのゲームだったけれど、意外にもうまくて、俺よりも上手にプレイしていた。最初は操作方法を覚えるのに必死だったようだが、覚えてしまえば俺よりもうまく立ち回った。それでも、俺は負けずに必死に追いついたり、小技を駆使して逆転を狙ったりした。


「おい、ちょっと待って、小林、めちゃくちゃうまいじゃないか! そこそこやっている俺に勝ってるぞ」


「ふふ、初めてだけど、意外と楽しいのね」


 時間が経つのを忘れて、ゲームに熱中していたが、とうとう最終レースに辿り着いた。俺たちは真剣勝負で、手に汗を握りながらレースを繰り広げた。俺はそこそこゲームをしているが、うまいわけではない。かといって下手なわけではないのだが、小林の飲み込みの速さが段違いなのだ。まさに一を聞いて十を知るというやつだ。やはりすごいな小林は。


 結果は、俺が小林を一歩抑えて優勝! 小林は思わず声を上げていた。しかし、それは悔しさからくるものではなく称賛の声だった。


「おめでとう! 橋本くん、すごい!」


 小林は笑顔で拍手を送ってくれた。


「やっぱり、橋本くんはゲーム上手ね」


 と褒めてくれる。運で勝った俺はそこまで嬉しいわけじゃなかった。俺は開始数時間の相手に運でしか勝てなかった。実力は最初は開きがあった。それがコースを周回するごとにコツをつかんでいって、最終的には俺よりもうまくなってしまった。俺が要領の悪いやり方をしているのかもしれない。ただ、小手先のテクニックで勝てるとかではなかった。俺がアイテムを使うタイミングや場所、ショートカットの位置をさりげなく見ていたりしていた。それをしっかり3週目で使っていたりして成功させていた。


「いや、最後は運がよかったからで、実力的には小林の方がうまいと思うぞ」


 小林とのゲームの時間は、ただの娯楽以上のものに感じられた。互いに刺激し合い、笑い合い、共に過ごす時間がとても宝物のように感じられた。

 ゲームの後は、お互いに疲れたのでリラックスしてお茶を飲みながらおしゃべりをした。小林はいろいろな話題を持ち出し、興味深いエピソードを語ってくれた。俺も自分のことや趣味について話し、互いに深く理解し合うことができた。

 時間はあっという間に過ぎてしまったが、小林は満足そうな表情を浮かべて帰っていった。

 そんな風にしばらく時間を過ごし、気づけば夕方になっていた。ゲームを中断して、お茶を飲みながらくつろいでいると、小林がにっこり笑って言った。


「橋本くん、ありがとう。久しぶりにゲームをして、とても楽しかったわ」


「いやいや、こちらこそ楽しかった。また機会があったら、遊びに来てくれると嬉しい」


「えぇ、また遊びに行くわ」


 小林の笑顔を見て、俺はとても満足した。思わず笑顔がこぼれてしまった。


 これをきっかけに俺は、小林とは定期的にゲームをするようになった。また、俺の家に来る人が増えてしまった。まぁ、小林は俺と趣味が合う先生だから別に問題はないか。正直、ゲームしていて楽しかったしこれはこれで良かったと思っている。ただ、そのせいで知佳や佐藤まで来てゲーム大会が開催されるようになってしまったりしていたりするところは面倒くさいところだ。

 結果はだいたい小林がかっさらってしまうのだから本当に恐ろしい。小林って何でもできるな。何ができないのか気になるばかりだ。

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