第23話 夏と言ったら花火

 私、佐藤由美は、夏の夕暮れが校庭を包む中、私は生徒たちと一緒に手持ち花火をする準備をしていた。この日のために厳選した浴衣を着て校庭に立つと、思わず胸が高鳴る。自分で選んだ花柄の浴衣を身にまとい、涼しげな風に舞う髪を揺らしながら、期待に胸を膨らませていた。太陽が沈み始め、暖かい金色の光を空に放ち、だんだんと暗くなりつつあった。これから行われる花火大会への期待感が漂っていた。


 周りを見渡すと、浴衣を着た生徒もいて、お祭りのような雰囲気が漂っている。花火を待ちわびながら、談笑する彼らの笑顔は、とてもほほえましいものに見えた。私は、彼らの人生に良い影響を与えることができると思うと、教師としての誇りを感じずにはいられなかった。


「由美先生、浴衣似合ってますね!」


 生徒たちからの声かけに笑顔で返すと、彼女らもにっこりと笑顔を返してくれる。生徒たちと一緒に思い出を作ることが私の楽しみであり、この夜の花火も、きっと素敵な思い出になるに違いなかった。


 19時を回ると、最初の花火が空高く上がり、色とりどりの花火が咲き乱れた。生徒たちは「おー」と声を上げ、顔を輝かせて驚いている。私も一緒になって、夜空を彩る花火に喜びと懐かしさを覚えた。

 ちなみにこの花火は先輩と幅広い商品ラインナップを取り揃えている、大型ディスカウントストアに行って買ったものだ。基本の手持ち花火から噴出花火、そして打ち上げ花火と様々な花火を買った。打ち上げ花火と言っても皆が想像するような見事な打ち上げ花火ではない。小さくパラパラとした花火が打ちあがるだけだ。

 打ち上げ花火は想像より盛り上がりに欠けたが、雰囲気と数でごまかした。このレベルを長引かせてはいけない。そう判断して早々に打ち上げ花火を終わらせ、手持ち花火に切り替えた。


 すると、近くに集まっていた生徒の男の子たちが、花火に目を奪われつつも、ときどき私のほうをチラチラと見ている。私は彼らに笑顔を返すと、少し赤面させてしまった。不適切な行動を助長しないよう、平静を装った。生徒からの人気が高いとはいえ、教師として職業上の境界線を維持する責任があることは承知していた。私は常にプロフェッショナルであり、生徒と接する際には礼儀をわきまえた態度でいた。


 今の佐藤由美は、きれいな浴衣を身にまとい、長い髪をゆるくウェーブさせ、顔を縁取るようにして、女性的な魅力を演出していたのだった。それは普段の佐藤先生の魅力を数倍にしているかのようで、男子生徒たちにとっては目が離せない案件だった。


 花火が夜に鮮やかな色と模様で彩り続ける中、私はその瞬間に没頭していた。その美しさに魅了されていた。教師としての責任の中で、一瞬の喜びを味わえたことは、この先もずっと大切にしていきたい思い出だ。

 花火が始まると、私は生徒たちと一緒に歓声を上げながら、夜に咲く花火を眺めていた。色とりどりの花火が夜を照らし、私の心も華やかな気持ちで満たされていた。


「何とかなったみたいだな」


「やっほ、由美ちゃん」


 そこで私に声をかけてきたのは先輩だった。隣には浴衣を着た知佳さんもいた。浴衣姿の知佳さんはとても綺麗だった。知佳さんの登場で周りの生徒はさらに盛り上がった。呼んだのは先輩だけのはずだったが、まあいい。こういうのはいつもの流れだ。


「先輩のおかげです。私だけではこんなに花火を用意することはできませんでした。それよりもまずいうことがあるんじゃないですか?」


 そうしてソワソワとした表情で先輩の顔を見る。


「あぁ、浴衣な。似合ってるよ」


 なんか先輩が普通に私のことを誉めてきた。嬉しいことには変わりないが、あまりにもサラッとしすぎているような。


「なんか先輩、今日は素直ですね」


「あぁ、このくだりはさっき知佳としたばっかだからな」


 知佳さんの顔を睨みつけるように見ると申し訳ないような顔をして謝るポーズをしていた。でも顔がニッコニコですよ知佳さん。抑えられてませんて。


「それにしても花火とは考えたな。最初はお菓子パーティーだけだったんだろ」


 話を変えるように先輩がそんなことを言ってきた。


「えぇ、そうですよ。でも誰かさんがプールとかいって夏らしいことをするから、うちのクラスも触発されてこうなったんですけどね」


 そういうと先輩は、困った顔をしていた。


「いや、でもお前はお前のクラスなんだから、うちのクラスと比べる必要はないんだぞ」


「そうだよ由美ちゃん」


「そうはいってもですね、こういうのは生徒の記憶になるんですよ。”あの時は他のクラスがよかったな"とか。”うちのクラスはつまんなかったな"、じゃあまりに可哀想じゃないですか?」


 私は生徒たちのことを思って行動したと先輩たちに言った。


「やっぱお前ちゃんと良い先生してんな」


「うん、直くんの言う通り。由美ちゃんはいい子だよ」


 そう言われて、私は少し照れてしまった。この二人からそういう評価をされていると知って嬉しい気持ちになった。私は切り替えるかのように二人に線香花火をすすめた。


「お二人もせっかくですし、花火しましょう?」


「俺らは見てるだけでいいって」


「そうだよ。由美ちゃんの生徒たちの花火が無くなっちゃうよくなっちゃうよ?」


「心配しないでください。先輩と買った花火はまだまだありますから。見てるだけなんてもったいないですって」


 そう言って二人に線香花火を渡した。こうして花火をするのは久しぶりな気がする。花火を見るのは大学生の時代からこの二人とはしてきている。だが大人になると見るばかりで、こうして手に持って花火をするなんてもうしていない。最後にしたのは、お姉ちゃんとしたときかな。せっかくの機会だからしてほしい。私も線香花火を手に取り、火をつけようとすると生徒から声がかかった。


「由美先生もこっちで一緒に花火しませんか?」


 生徒の一人が恥ずかしそうに尋ねてきた。私は先輩たちの顔に向く。


「俺たちのことは気にすんな。お前はここの監督責任がある。何より、これはお前たちのクラスがメインのイベントだろ。お前がいなくてどうする?」


「そうだよ由美ちゃん。一緒にいてあげなよ」


 私はにっこり笑って、花火の準備を手伝うことにした。


「もちろん、一緒にやりましょう!」


 彼と一緒に花火をセットし、一つ一つ丁寧に噴出花火を噴出させていく。彼の嬉しそうな顔を見ながら、私も心から楽しんでいた。


「由美先生、ありがとう。一緒に花火ができてうれしいです」


 彼の言葉に、私は微笑んで頭を撫でた。彼の言葉が私の胸を温かく包み込み、私は幸福感に満たされていた。


 時間は過ぎ、花火も終わりに近づいていた。生徒たちは楽しそうに花火を楽しんでいたが、私の心には寂しさが漂っていた。


「由美先生、もう終わりなんですか?」


 生徒たちの声に、私は微笑みながら頷いた。


「そうですね、時間が経つのは早いですね」


 一つだけ忘れていた残っていた打ち上げ花火が最後の一発を打ち上げた。やはり一つだけだと盛り上がりに欠けるもので呆気なかった。校庭に静寂が戻る中、私は生徒たちに微笑みかけた。


「でも、今日の思い出は素敵なものになったと思うよ」


 生徒たちはにっこり笑って、頷いてくれた。


「由美先生、本当にありがとう。楽しかったです」


「はい、こちらこそ、みんなと一緒に花火を楽しめて嬉しかったですよ」


 私の心は温かな気持ちで満たされていた。生徒たちとの素敵な時間を過ごせたことに感謝し、幸福感が胸を満たしていた。


「由美先生、また夏休み明けにも思い出作りましょうね!」


 生徒たちの言葉に、私はにっこり笑って頷いた。


「そうですね、いっぱい作っちゃいましょう」


 生徒たちとの交流を大切にしながら、新たな思い出を作っていくことが、私の日々を彩ることになるだろう。


 最後の花火が夜空に消えていくと、生徒たちは興奮気味に話しながら散り始めていった。私は、さまざまな感情を抱きながら、出口に向かった。生徒のために特別な思い出を作ることができたことに感謝すると同時に、教師としての責任と難しさを実感した。長い髪を夜風になびかせながら、これからも生徒の人生に良い影響を与えられるよう努力し続けようと思った。夏休み前の思い出作りは成功だった。

 やはり夏と言ったら花火でしょ。


 花火の余韻が校庭に残る中、私は心踊るような気持ちで先輩たちのところへと戻っていった。

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