教師が忙しくて、ラブコメしている暇がない

高崎彩

第1話 橋本直希先生

 廊下に集まった女子学生たちが、橋本先生について会話していた。


「あのさ、橋本先生って実はめっちゃいい先生だって話聞いたことある?」


 と一人が言った。


「うん、私も聞いたことある。実際はそんなに怖くないって聞いたこともあるよ」


 と別の1年の女子生徒が答えた。


「そうなの?でも私はまだ彼に話しかける勇気がないなあ」


 と一人が心配そうに言った。


 すると、隣に立っていた3年の先輩の女子生徒が


「私は何回も相談したことあるよ。橋本先生って真剣に話を聞いてくれるし、アドバイスも的確だからね」


 と言った。


「そうなんですか?私は相談したいことあるけど、あの先生だとやっぱり怖くて話しかけられないです」


 と悩む女子生徒に、もう一人の先輩の女子生徒が


「私たちは3年生だから、橋本先生は結構気にかけてくれるよ。先生は全然怖くないから、話してみてよ」


 と勧めた。


 すると、一人の女子生徒が


「そうなんですね、私も勇気を出して話してみます。橋本先生は信頼できる人だって、みなさんが言ってますもんね」


 と言い、皆が頷いた。

 1年生3人と別れた3年生の2人は自分たちの学年の教室に向かうため、階段を上りながら会話を続けていた。会話の内容はやはり橋本先生に関するものであった。


「美咲はいいよね、今年もはっしーが担任のクラスでさ」


「そうだね。亜美は残念だったね。でも現代文の担当がはっしーでよかった」


「うん。3組だけ担当がはっしーじゃないからね」


 3年生の中では橋本先生のことを「はっしー」と呼んでる生徒がいる。それが広まるようになった原因は、あるカウンセラーの先生によるものなのだが。


 橋本直希は教室の窓辺に立ち、外を眺めていた。目の前には生徒たちが座り込んでいる。黒板には書かれた国語の問題があったが、彼はそのことにはあまり気を取られていなかった。代わりに、彼は遠くの空を見上げていた。


 橋本は高校3年生の担任であり、現代文の授業をしていた。彼の口調はキツく、口数も少ない。そのため生徒からは怖がられていると自分では思っている。しかし、実情は少し違う。怖がっているのは1年生だけで、実は2、3年生からはとても人気があり、特に3年生からは絶大な支持を得ている。


 その人気の理由は、橋本が何か問題があれば相談できる頼もしい存在で、裏表のない人物だからだ。生徒たちは彼が正直であることを感じており、その信頼に応えるために、彼らは自分たちの話をしてくれる。そして、橋本はそれを真剣に聞き、アドバイスを与えることで、彼らの悩みを解決しているのだ。そのことを知っている高学年は彼を信頼し、入学したばかりの1年生は怖い先生という印象を持っている。


 だが、橋本自身は孤独を感じていた。彼は口数が少なく、話すのが苦手なため、他の教師と話をすることも少なかった。また、過去の出来事から、人との接し方に苦手意識を持っていた。


 それでも、橋本はクラスを受け持ち、生徒たちに語りかけていた。そして、今日も生徒たちに何かを教えることができるように、彼は授業に集中しようとしていた。

 窓の外に目を向けた橋本は、青空に白い雲が浮かぶ景色に思いを馳せた。そんな彼の前に、いつも明るく元気いっぱいの生徒たちの視線が集まってきた。


「橋本先生、今日の授業は何ですか?」


 橋本は深呼吸をし、クラスに向き直った。


「今日は、教科書60頁の文章の読み取りと解釈について話します」


 クラスの雰囲気が一変した。橋本先生が授業の目的を明確に伝えた瞬間、生徒たちの集中力が高まった。授業が進むにつれ、橋本は生徒たちと一緒に問題を解いていく中で、彼らの疑問に対しても真剣に向き合い、親身にアドバイスをしていった。

 その姿勢が生徒たちに伝わり、橋本の人気はますます高まっていった。その後、橋本が学校の廊下を歩いていると、ある女子生徒が声をかけてきた。


「橋本先生、今日はありがとうございました。先生のおかげで、私は今日の授業で理解できたことがたくさんありました」


 生徒の言葉に、橋本は嬉しさを感じた。


「いや、おまえたちのおかげで、俺も良い授業をすることができてる」


 橋本は微笑みながら生徒に向き直った。すると俺に向かって歩く一人の生徒がいた。女子生徒はまだ言いたいことがあるような面持ちだったことに気づくが”また今度”と言ってその会話を打ち切りにした。


「どうかしたか?」


 と直希が生徒に尋ねると、小柄な女子生徒は少し迷いながら言葉を発した。


「実は先生に相談したいことがあって……」

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