Your name?
葵染 理恵
第1話
「三村さん、なんでまた飲む場所を変えるんですか?俺は、さっきの所で良かったのに」
「若者よ!梯子酒の楽しみ方を教えてやろう」
「いや、いいですよ。もうお腹もいっぱいだし、23時になりますから、帰りましょうよ」
「23時で帰る?何を言ってるんだ?明日は休みだろう。朝まで飲まなくて、いつ飲むんだよ?」
横田は冷たい顔で、三村を凝視した。
「…………言いませんよ」
「なんだよー、今でしょ!って、言えよー」
「それもう古いですから……なんか酔いも冷めてきたから帰りましょうよ」
「やだね。冷めたらまた飲めばいいさ。1件目は腹を満たして酒を楽しむ。2件目は新しい酒を楽しむ。そして3件目は雰囲気と酒を楽しむんだよ」
「男二人で雰囲気を楽しむと言われても…」
と、言いながら何気なく駅の方を振り向いた。すると、後ろから猛スピードで三村に向かって車が突進してきた。
「危ない!」
咄嗟に三村を自分の方に引き寄せた。
「おおビックリした!なんだよ、あの車は!」
「大丈夫ですか?」
「あぁ、サンキューな…」
二人は、細い路地を減速して曲がって行く車を呆然と見送る。
「ん?あれは…」
三村は目を凝らした。ヘッドライトに照らされた異様な建物には【ハシノキ】と書かれていた。
ハシノキは、大きな葉っぱのツタが巻き付いていて、廃墟にも見える居酒屋だった。
「凄い店だなー、3件目はここにしよう!」
「えっ…流石にやってないですよ」
「やってるぞ。ほら見てみろ!ぼんやり赤提灯が灯ってる!」
と、言うと、横田の肩に腕を回して、強引に押して店に連れ込んだ。
「いらっしゃい」
優しい笑顔で白髪頭のお爺さんが二人を出迎えた。
店内は、昭和にタイムスリップしたかのような造りで、木の温もりが感じられる。
「こちらへどうぞ」
二人は店内を見回しながらカウンター席に座った。
「新規さんだね。ここの注文の仕方が特殊でね、メニューがないんだよ。だから好きな物を頼んでよ」
「好きなものって…」
と、三村が困惑した。
「大丈夫、大丈夫。無理なのもは今日は出来ないと言うし、値段も先に伝えるから安心して注文してくれていいよ」
「じゃ俺は…」と、横田が大皿に盛られた筑前煮を指した。
「この筑前煮とレモンサワーをください」
「筑前煮とレモンサワーだね。合わせて500円だよ」
「安っ!三村さんも何か頼みましょう」
「あぁ…じゃ俺もレモンサワーで」
「レモンサワーだね。一杯150円ね」
と、伝えると、暖簾をくぐって調理場に向かった。
「お前、チャレンジャーだな」
「何がです?」
「メニューのない居酒屋なんって訊いたことないぞ。なんか怪しくないか?」
「そうですか?ちゃんと値段も言ってくれたし、他にお客さんも居るから大丈夫ですよ」
と、言って、周りを見渡した。
テーブル席には、袈裟を羽織った坊さんが酒を嗜み、奥の席で老夫婦が食事をしていた。
調理場からレモンサワーを持った店主が戻ってきた。
「はい、レモンサワー」と、言って、二人の前に置く。
すると左手だけ白い綿の手袋をはめている事が気になった三村は理由を尋ねる。
「御主人、なぜ片方だけ手袋を?」
「昔、大怪我をしてねー、お客さんが怖がるといけないから手袋で隠しているんだよ。手は不自由だけど、料理は美味しから食べていってよ」
と、言いながら、小鉢に筑前煮を盛り付けた。片手で器用に盛り付ける姿を見ながら、今度は横田が尋ねる。
「全部、御主人が作ってるんですか?」
「あはは、まさか、僕は何も作れないよ。全部、カスミちゃんが作ってくれてるんだよ。今、カスミちゃんを呼んであげるよ」と、言うと、横田に筑前煮を渡して、暖簾越しに声をかけた。
すると、暖簾の奥から黄色と黒の斑模様の着物を着た年配女性が顔を出した。
「如何なさいました?」
と、甘い声で、店主に尋ねた。
すると店主は二人に向かって「こちらがカスミちゃんだよ。なんでも作ってくれるから好きなものを頼むといいよ」と、言った。
カスミは二人に会釈をすると、横田の顔を見て驚いた。
「光彦さん!?」
「んっ、俺?」
と、横田は困惑した表情で訊き返した。
「あの…光彦さんでは?」
「いや、違いますけど」
「あぁ…ごめんなさい。あまりにも似ていたもので…」
と、言うと、着物の前身頃から一枚の写真を出して、横田に渡した。
「この方が光彦さんで、娘の婚約者です」
写真には、ほっそりとした綺麗な女性と横田にそっくりな男性が桜の木の下で腕を組んで微笑んでいた。
「おい、これお前じゃないか!」
と、三村は、横田の腕を押す。
「いや、ちょっと待ってくださいよ。恐ろしいほど似てるけど、これ俺じゃないですよ」
三村は、ニヤニヤしながら面白そうに言う。
「なら、生き別れになった双子か?」
「はぁ?そんな訳ないでしょ。これは、どういうことですか?」
と、訊きながら、カスミに写真を返した。
「私にも……ただ、光彦さんは結婚式の間近になって、行方不明になってしまったので…」
「行方不明?」
驚きで、横田と三村の声が被った。
その光景を静かに見ていたハシノキの主人は、恵比寿様のような朗なかな笑顔で「そうだ!お兄さん、良かったら楓花ちゃんに会ってあげてくれよ。きっと喜ぶよ。どうかな?」と、無茶な事を言い出した。
「ええっ!いや、無理です無理です」
「駄目かい?もしお兄さんが会ってくれたら、今日の飲み代を全て無料にするよ」
「いや…そう言われても…」
と、渋っていると、三村が口を挟んだ。
「横田!お前、男だろう。楓花ちゃんに会ってやれよ。可哀想だろう」
「はあ?何言ってんすか。三村さんは無料で飲みたいだけでしょ。俺と光彦さんは似てますけど、俺は光彦さんじゃないし、会って変に喜ばせる方が可哀想ですよ」
「お兄さんは優しいんだね。実は楓花ちゃんは…」と、言うと、カスミが話を遮った。
「ハシノキさん、それは私から話します。娘の楓花は今、この二階にいます」
「…この上に?」
カスミは静かに頷く。
「光彦さんの事で、悲しみに打ちひしがれた娘は、歩く事も喋る事も出来ずに、今は寝たりになっています。もしかしら貴方を見て何か変化が起きるかも……よろしかったら一目、娘に会ってもらえませんでしょうか?」
衝撃的な現状を知った二人は、すーっと酔いが覚めて顔を見合わせた。そして三村が口を開く。
「真面目な話、楓花ちゃんに会ってこいよ。俺はここで待ってるから」
「えっ……」
横田は少し嫌そうな顔をしながら、三村に耳打ちをした。
「なんか、ちょっと怖いから、三村さんも一緒に来てください」
「はあ?何が怖いんだよ。御見舞いに行くだけだろう!」
と、わざと皆に聞こえるように言った。
「そうなんですけど…」と、渋っていると、店の扉が勢いよく開いた。
「ただいまー!おじちゃん、お腹空いたー」
と、十代の女の子が入ってきた。
そして、短い丈のワンピースを三村の隣にストンと座ると、カスミに向かって「ママ、ただいまー」と、言った。
三村は、まじまじと女の子の顔を覗き込んだ。
「娘さん…ですか?」
「ん?そうだよ。あれ、見ない顔だね。新規さん?」と、屈託のない笑みで尋ねた。
「あ…はい、そうです」
「珍しいねー、隣のお兄さんも…」と、言うと、女の子は横田の顔を見て、飛び上がるくらい驚いた。
「光彦さん!!嘘でしょ!今まで、何処にいたのよ!」
と、怒りながら、三村の太ももの上に乗っかって、横田の胸ぐらを掴みにいった。
「どれだけ、お姉ちゃんが心配して悲しんだと思ってるのよ!」
横田は、女の子の気迫に押されて固まった。
「帆花!手を離しない!その人は光彦さんじやないのよ」
「えっ!違う…の…」
カスミの言葉で、我に返った帆花は、ゆっくりと手を放して、小声で「すみません」と謝った。
そして、三村の太ももの上に乗っている白い足を、ゆっくりと下ろした。
「ほんと、すみません…」
「い…いや…大丈夫だよ」
帆花の行動に度肝を抜かれていたが、若い女の子に乗られて、内心ドキドキしていた。
「申し訳ありませんでした。帆花は、姉の事になると、すぐにカッとなってしまって…」
と、青ざめた顔で、何度も頭を下げた。
「そんな謝らなくても大丈夫ですよ。なっ、横田も大丈夫だろう」
「…あっはい、大丈夫です」
「ね、気にしないでください」と、伝えると、横田の肩に手を置いた。
「それじゃ楓花ちゃんの御見舞いに行ってこいよ」
横田は覚悟を決めて立ち上がる。
「分かりました」
カスミは喜び勇んでカウンターの外に出てきた。そして「ありがとうございます!どうぞ、こちらへ…」と、言って、左奥の片隅にある狭い階段に案内した。
皆でその様子を見送っていると、ハシノキもカウンターから出てきた。
「気になるから僕も見てくるよ。何か食べたい物や飲みたい物があったら、帆花ちゃんに頼んでね。カスミちゃんほどではないけど、帆花ちゃんの料理も美味しいよ」
「あぁ…はい、分かりました」
「じゃ帆花ちゃん、よろしく」
と、言うと、ゆっくりとした足取りで、階段を登っていった。
ハシノキが見えなくなると、帆花は笑顔で振り向いた。
「お兄さん、何か食べたいものある?」
「えっ、あぁ今はいいかな…」
「そう?帆花、何でも作れるのに…じゃ、お兄さんの好きな食べ物は何?」
「んー、強いて言うならカレーかな」
「帆花、カレーも得意だよ!だけど、カレーは煮込むから一晩、待ってもらわないとだけど…」
と、言いながら、両手を三村の太ももの上に、そっと置いた。
「えっ…」
三村は何が起きているのか、分からず、帆花と自分の太ももに置かれた帆花の手を何度も見返した。
「さっきは、ごめんなさい。つい興奮しちゃって、お兄さんの上に乗っちゃって…重かったでしょ。帆花ね、マッサージも上手だから、マッサージしてあげるね」
と、言って、膝から付け根に向かって優しく揉みほぐすと、滑るように陰部の付け根の周りを撫で回した。
「あっ、いや、ちょっと…」と、焦りながら、帆花の手を止めた。
「気持ちは嬉しいけど、さすがに……帆花ちゃんはまだ十代だよね…」
「うん、十九」
「ほら、若すぎるよ。俺はもう五十三だよ。年が離れすぎてるし…」
と、言っている途中で、帆花は身体を寄せてきた。そして、三村の耳元で「私じゃ…ダメ…?」と、吐息混じりに囁いた。
その瞬間、三村は魔法にでもかかったかのように、帆花の瑞々しい唇に、自分の唇を合わせた。
そして激しく絡み合う唇。
我慢が出来ずに、三村の手は、帆花の陰部の中に入っていく。
「待って…ここじゃダメ…帆花の家は隣だから、あっちに行こう」
三村は鼻息を荒くしながら、帆花を抱き寄せると、そのまま店を出ていった。
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