第六話
目を開けるとツナではない女の子の顔が見えて、思わず驚いて目を見開き、意識がハッキリしてアメだと気がつく。
ああ、そう言えばホテルに泊まってるんだった。
ぽりぽりと頰をかきながら目を覚ましたことをツナにメッセージで送り、寝ているアメを起こさないようにベッドから立ち上がる。
寝ているうちに布団が捲れてパジャマから白い腹が見えていることに気がつき、軽く手でパジャマの裾を戻して布団をかけ直す。
…………夜中に襲われたらどうしようと思ってたけど、大丈夫だったな。
目どころか色んなものが目覚める栄養ドリンクを飲まされて、こういうタイプのホテルに連れ込まれて期待……ではなく警戒していたが心配しすぎだったか。
すやすやと眠っているアメの頰を触りながら少し考える。
……完全に俺とツナの事情に巻き込まれた形だし、責任はあるよな。
「夕長流か……」
今更だがアレはかなり異常な流派だ,
単純に強すぎるというのもあるが、それは流派以上にアメやアメの父親が強いという方が大きい。
アレの異常性はそこではなく……無駄に、威力の高すぎる技があることだ。
竹刀でも防具の上から人を殺傷出来る威力……真剣ならば鎧兜でも真っ二つだろう。
なんのための技だよ。という話だ。
道場の中で必要な技でも試合で必要な技でもない。合戦……と考えるには、普通刀剣ではなく槍を使うものだからそれもおかしい。
夕長流活人剣……それが活きるのは「ダンジョンの中」だ。
人をぶっ殺すことしか出来ないような剣技なのに活人剣を騙っているのは……人間以外に対して放つことを前提としているからとすると辻褄が合う。
「……いや、考えすぎか。ダンジョンが出来たのは数年前のことだしな」
もしも夕長流がダンジョンを前提としていたとしたら、ずっと昔にダンジョンがあったということに……。
それこそ「まさか」としか言えない与太話だ。
「……よし、行くか」
アメが起きるまでに着替えて体をほぐしておく。
さっさとツナに会いたいし、ツナがいないとアメさんと話すのも罪悪感が湧いてしまう。
ツナからかかってきた電話を取りつつストレッチをする。
軽く話をしてから電話を切ったところで机の上に謎のリモコンを見つけてなんとなく押すと、ベッドがゆっくりと回転を始める。
寝ている場所が動き始めたのにアメは目を覚ます様子はない。……すっげえ図太いな。
しばらく眺めているとアメはもぞりと顔を上げて俺を見る。
「……あれ? ヨルさんが僕の周りを回って……? おはよーごじゃ……」
「……おはよう。寝起き弱いのな」
しょうもないイタズラをやめてベッドの回転を止める。
「あれ? ……あ、そう言えばダンジョンに来たんでした」
「寒いところだから、朝飯は多めにな」
「んー、朝からヨルさんが見れて幸せです」
「はいはい。顔洗ってきて、着替えたら準備運動を手伝ってくれ」
ダンジョン攻略の準備をしてからダンジョンに向かう。
まだ寒くもない季節なのにダンジョンに近づくほど厚着の人が増えてくる。
ダンジョンの前に来ると、朝早くだというのに多くの探索者が集まっていた。
「わー、お祭りみたいですね」
「かなり大規模だな。かなり盛んに会話もしてるし……たぶん全員紅蓮の旅団の関係だろうな」
少し気になりはするが、あまり関わっても実はなさそうなのでさっさと進んでダンジョンの中に入る。
ダンジョンの扉を潜り抜けると視界が一気に薄暗くなり、肌に冷たい風が当たる。
「んっ、寒いですね」
「ちょっと待ってろ」
俺は祈祷師のスキルで火の玉を俺とアメから少し離れたところに出す。
「わ、わわ、なんですか、これ」
「祈祷師の魔法だ。攻撃に使っても大した威力じゃないけど、消費魔力は少ないから暖房と灯り代わりに使おう。まぁ、三時間ほどが限度だが」
普通なら灯りはモンスターを呼び寄せることになりかねないため推奨されないが、俺たち二人ならどうにでもなる。
ダンジョン【極夜の草原】を見回す。
非常に寒いことや暗いこと、それに似合わない草が生えていること。
聞いて覚悟はしていたが立っているだけでしんどいダンジョンだ。
「えっと、ここからどっちに向かうんですか? ……広すぎてどこに行けばいいのか分からないです」
「正確性は微妙だし、改変されている可能性は高いが地図がある。最後までは載ってないが、道中はこれを頼りにしよう」
だだっ広いだけで全然モンスターが出てこなくて暇だな……と思っていると、アメさんの足元でカチッという音が聞こえる。
「……踏んだ?」
「踏みました」
アメがそう答えた瞬間、俺とアメの足元に何かしらの紋章が発生し、視界が一瞬暗転したかと思うと唐突に大量のモンスターに囲まれる。
「……転移トラップか。一瞬で迷子になったな」
「す、すみません」
「いや……まぁ、運がわるかった。とりあえず、コイツらを片付けるか」
フッと息を吐き出し、白くなった息を置き去りにするように刀を振るう。
差し合わせた訳でもないのにアメは俺の背を守るように立ち振る舞い、俺達を囲むモンスターを危なげなく処理していく。
「迷子になったことはアレだが、動いて体があったまるのは助かるな」
「は、はい。……ここはどこなんでしょうか?」
本来なら即死トラップだったはずだが数分もしない間にモンスターは全滅し、アメと二人で周りを見回す。
薄暗い中、延々と草原が広がっているだけで目標になりそうなものは見当たらない。
マジックバッグに大量の食料があるので問題はないと思うが……入って早々に遭難したな……。
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