第73話 73
73
年が明けた。
年が明けての最初のニュースは経済大臣の辞任報道だった。
この人は俺が
俺の見立てではそれ程重い病気は無かったと思うが、病気なんて物は本人でないとわからないのでそう言う事なのだろう。俺は政治には興味ないが又大臣が変わるのかと、日本の将来をほんの少し心配するのだった。
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冬になり俺は以前から行ってみたい所があったので早速安藤さんを誘う事にした。
「実は以前から考えていたんだけど、冬の長野県に行かない?」
「どうしたの急に」
「最初はお客様掲示板にどこどこに来て欲しいなんて事がたくさん書いてあったの覚えている?」
「うん、覚えているよ」
「その中に長野県があったんだ。それで長野なら温泉、スキー、観光と考えた時に行くならやっぱり冬だなと思ったんだ」
安藤さんは察しが付いたのか、何かに気づいて答える。
「要するに営業を兼ねて遊びに行こうって
「当たり。交通費に宿代とお金掛かるからね」
安藤さんはため息をつきながら答えた。
「どうせ、もう行く気満々で私を誘ったんでしょ」
「もちろん。これが会社設立前の最後の旅行かなと思ったからね」
「良いわよ。それで私は宿を押さえればいいの?」
「あっ宿はいいんだ。俺がやるから。安藤さんは営業場所を押さえてよ。日付は○○日ね」
安藤さんは少し俺を怪しむように見たが了解してくれた。
危なかった。
もう少しで俺の企みがバレる所だった。
今回の一番の目的は温泉だ。それも混浴だ。
俺が調べた限りでは大自然が目の前に広がる中の温泉と書いてあった。要するに自然と温泉には
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長野旅行当日。
俺と安藤さんは電車に揺られていた。車内では話をしたりスマホゲームで遊んだりとして時間を潰していた。そして電車がトンネルに入り出た瞬間、一面銀世界が広がっていた。俺と安藤さんは恥ずかしながら少し感動してしまった。
名古屋にも雪は降るがこれほどまでの銀世界は、中々見れるものではないからだ。
そして電車は進み俺達の目的地へと着いたのだ。
今日一日目の目的は観光だ。
俺達は駅のコインロッカーに荷物を預けて観光へと繰り出した。
歩道にも雪があり歩きづらかったが、冬ならではの観光スポットを見て回り名物料理に舌鼓をうったのだった。
そしてこの日の宿は、街中のビジネスホテルだ。明日から営業があるのでゆっくり温泉に浸かっている暇はないのだ。
ちなみに今回の旅行予定だが、一日目観光、二日目南側営業、三日目北側営業、四日目スキー、温泉、五日目帰宅だ。
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翌日初めての内陸部での営業となる。当然ホームページでは告知済み。
場所によって病気に特徴がでるのではないかと俺は思う。ただ今の時代物流が発達しているので、昔のように物資が入らない事はないので、それ程までに差はないのかもしれないが少しは興味あるのだ。
そして店を開店させた。
お客さんの入りはボチボチと言った所だ。
そして病気の症状だが俺の予測は的中した。一部の人だが肝臓にダメージがあるようだ。本で調べたのだが塩分の取り過ぎの可能性があるとの事だ。食料を保存するには塩を使う為だ。
俺は場所により病気の傾向がやはり少しは出るのだなと関心したのだった。
二日目南側営業そして三日目北側営業も無事終わった。特にトラブルらしい事もなく終える事が出来た。
数人の客からは「次はいつ来ますか?」なんて質問されたが、俺は未定としか答えられなかった。そんなに頻繁に病気占いなんてしなくても問題ないような気もするが、健康でないと出来ない事がたくさんあるのは事実なので少し申し訳ない気持ちになった。
長野に来て四日目。
今日は念願の女子と二人でのスキーだ。
俺は大学に入って直ぐに高校の同級生達と初めてスキーをして以来二度目だ。安藤さんは初スキーとの事で、ちょっとだけ俺のカッコイイ所を見せてやろうと意気込んだ事もありました。
安藤さん運動神経良すぎませんか?一時間も経たない内にコツを覚えて俺よりうまいなんて…俺のプライドは一瞬でガラスの様に粉々に粉砕されました。
俺に残されたのは混浴温泉と言うオアシスしかないと心をときめかせて、安藤さんの滑る後ろ姿を死に物狂いで滑走するのだった。
俺達はスキーを終えて予約してある宿屋へと来た。
表玄関は平屋造りの構えとなっていて風情あるなと感じるが、奥には5階建ての客室が建っていて現代を感じてしまうのがナンセンスだが、そんな事はどうでもいいのだ。
俺達はチェックインして部屋へと案内された。
今回の部屋は引き戸で二部屋に区切れるタイプの部屋を予約した。普通に二部屋取ると予算がかなりかかるのでここは安藤さんに妥協してもらった。そしてここの温泉だが当然普通の男女別の温泉はある。俺の求めている混浴温泉は宿の裏から少し歩いた所にあるのだ。部屋には案内のパンフレットが置かれているので、俺は纏めてある資料を見るフリをして混浴温泉のパンフレットを隠す事に成功した。これで安藤さんにバレずに温泉に行ける手はずは済んだ。後は夜になるのを楽しみに待つのであった。
夜22時を回った時に俺は動き出した。
安藤さんにはもう一度温泉に入って来ると言い俺は足早に駆けだした。
宿を出て雪の中を歩く事10分混浴露天風呂に到着した。手前に男女別脱衣所があり俺は早速服を脱いで突撃した。
…50?60?代のおばさん二人しか入っていないのだけど…俺は余り見てはいけないと思い露天風呂の端の方の湯に浸かった。
二人の女性は俺が入ってから5分程で風呂を後にした。俺は二人の後ろ姿を見ながら、あれが若かったらなと無駄な想像をしたが現実は変わらないので俺は待つ事にしたが、5分程待っても誰も入って来ないのだ。
俺は後頭部を石の上に置き、湯舟に浮かぶ感じで待っていたのだが、スキーの疲れからかウトウトとしてしまった。
その時に耳元辺りに「ピチャピチャ」と水が跳ねる音が聞こえた。
俺はゆっくりと目を開けて横を見ると、鹿が温泉を飲んでいるのだ。角がないことから
こんな至近距離で鹿を見るのは初めてだが、俺は鹿って人襲うのかなと変な事を考えてしまった。そんな時に鹿が俺の方を向いてお互いに目を合わせる状態になってしまった。俺は焦る余り無意識に能力を発動させてしまった。
俺の目には鹿の薄っすらとした全体像が見え、そして胃にあたる部分が黄色赤色のグラデーションが出ていたのだ。しかし、頭の中には何も流れ込んでは来なかった。俺はこんな時まで能力の事を考えるなんて、自分でもどうかしていると思ったが、発動してしまったものはしょうがない。俺がアタフタしている内に鹿は山へと逃げて行ってくれた。
結局この後俺はしぶとく10分程待ったが誰も来る事はなく部屋へと退散したのだった。
部屋に戻ると安藤さんが椅子に座っていて、俺が帰ると言葉を掛けて来た。
「女性の裸は拝めたのかしら?」と。
俺は全てお見通しかと思い返答した。
「
チクショォー!!
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