第67話 67

67


俺達は芸能人の如月きさらぎれいの週刊誌報道が本格的に落ち着いた事から一階の一般向けの開業に手を入れ始めた。

まず最初に依頼したのが防犯カメラだ。

東京の病院での痴漢冤罪事件があったように、何があるかわからないからだ。

一階は受付に一つと病気占いの俺の真上に一つ、そして二階の応接室に一つの合計三つとした。

本当はもっとたくさんつけたいが費用の面もあるので最低限にした。


次にレジだが本来ならレジスターを置くのだが、俺達はショッピングモールの営業の時に中を散策して新しい形を発見した。

それはタブレットをレジ代わりにしている店があったのだ。

俺達の店の値段も、3千円、1千円とお釣りが出ないタイプなので、さらに使い勝手がいいのではと考えた。

当然リンゴ社のタブレットを購入した。

10万円以内の物だ。

それ程機能は必要ないしWi-Fiワイファイさえあればネットも問題ない。

これで一通りの準備は完了した。

お客様の順番に渡す木札は20枚(番)用意した。もしそれ以上来たのなら安藤さんが用意したメモ帳に番号を書いて、猫のスタンプを押して渡す事になっている。

猫のスタンプの意味はなく、偶然所持していたのがそれだっただけだ。


そして俺達は占いのホームページを更新して開店日を知らせた。


〇月〇日(水曜日)9時開店~昼休憩30分~1時間予定~17時閉店(後ろへズレる可能性あり)


俺はホームページを見ながら安藤さんに声を掛けた。


「お客さん来てくれるかな?」


「たぶん、木札2回分の40人くらいはくるんじゃない?」


「そうだといいね。平日だしのんびりやりたいよね」


「そうね。お昼はどうする?食べに行く?」


「う~んそうだね、疲れると嫌だから朝コンビニで買ってこようかな」


「了解。じゃあ私も買ってくるね」


-


開店当日。

それはシグナルスキャンと安藤さんの奮闘の幕開けだった。


「ちょっと安藤さん!まだ8時30分なのに人多すぎない?」


俺は二階の窓から下を見ると人がとてもたくさん居て、周りの空いている道路には車がたくさん止めてあったのだ。


「こっこれは想定外ね。メモ帳の番号全部書いておくべきね」


「安藤さん俺のウエストポーチ預けておくね。お金入らなくなったらこっちに入れてね」


「わかったわ」


俺達はレジスターを持たないので、お金の入れる場所は相変わらずのウエストポーチだ。

金庫とか開けるの面倒くさいからね。


そして9時に一般の病気占い開店した。

当然、一気に人が押し寄せ半パニックになりながらも、安藤さんはお客さんに木札を渡しそしてメモ帳の番号へと切り替えて行った。


俺は少しでも客をさばくように精神を集中しなるべく短い時間で占いを行った。

そしてノンストップで12時30分を向かえようとしている時に俺は安藤さんに声を掛けた。


「安藤さんお客さんに30分だけ昼休憩で止める事を伝えて。店はそのまま開けとくからって」


「わかった」


安藤さんはなんとか対応してくれて、俺達は会計用のタブレットを持って二階へと退避した。


「やっヤバくない?トイレに行く暇もないんだけど」


俺はぐったりとソファーに座り愚痴る。


「私も同じよ。こんなはずじゃないのに」


俺達はしばしの休憩の後、コンビニで購入した弁当を食べた。

そして俺は1時が近づいて来たので窓の外を覗くと、とんでもない光景が広がっていた。


「なっなんで小さいけどマイクロバス来てるんだよ!」


「どうしたの!?」


安藤さんが声を掛けながら近寄って来て窓の外を見て絶句していた。


「むっ無理!私帰りたくなってきた」


「これ、17時いや夜まで休憩ないかも…」


俺の冗談のような悲痛な叫びは現実となった。

途中から放心状態になりそうになるが、俺は精一杯占いを行い客をさばいた。

そして安藤さんに言い16時30分で受付を止めて貰った。

受付が止まったからと言って客が減る訳ではない。

それから俺達が解放されたのは19時近かった。


「改善を求む!」


これは俺がソファーにダイブして最初に言った言葉だ。

しかし、安藤さんは答えない。

俺はチラリと安藤さんを見ると向かいのソファーで既に寝息を立てていたのだ。

俺は起こさないように今日の稼ぎを計算していた。

ほぼ全部千円札なので苦労したが、俺の頬を緩ませるには十分な金額だった。

すると安藤さんが目覚めたのか、机の上に置いてある札束を見て驚いていた。


「こっこんなに売り上げたの?」


「ああ、全部で58万2千円あったよ」


「一日の売り上げとしてはすごいけど、もうやりたくないわね」


「俺も同感だね」


その後俺達はお祝いとして、少し豪華な夕食を食べてから帰宅したのだった。


-


ある日の営業が終わって休憩していた時、安藤さんが携帯のニュースを見て俺に伝えて来た。


「鈴木君、都市伝説ハンターミヤギさんがニュースになってるよ」


「えっマジ?」


俺は自分のスマホでニュースサイトを見ると大きく出ていた。


『織田信長の埋蔵金発掘か!?発見者は都市伝説ハンターミヤギさん』


その記事は対話形式の記事になっていて俺は目を通す事にした。

安藤さんも目の前で読んでいるようだ。


記者「この度はおめでとうございます。」


「ありがとうございます」


記者「どのような経緯で埋蔵金を探そうと思ったのですか?」


「俺は都市伝説ハンターミヤギと言う動画配信を行っていて、いつか探してやろうと思いたくさんの資料を読み込んでいました」


記者「資料を読んでわかるものなのですか?」


「いえいえ、わからなかったですよ。なので年表から自分ならこうすると思い足取りをたどりました」


記者「そもそも、なぜ徳川家康とかではないのですか?」


「とても簡単な事です。徳川は最近と言っても少し昔まで続いていたのは知っていると思いますが、そんな人が埋蔵金を隠すと思いますか?俺なら貯蓄として置いときます。その前は豊臣秀吉ですが、こちらは徳川に敗れていますのでなしです。その前は明智光秀は三日天下なので外します。そして織田信長なんですが有名な本能寺の変があった時にどれだけの地域を治めていたか知っていますか?」


記者「すみません、勉強不足で知りません」


「当時、四国の一部と広島辺りから北陸を含む関東辺りまでが織田信長の支配地域だったのです。もちろんこれは資料からですので正確でないかもしれませんが、それでも日本の3割強が一人の男が持っていたのです。そして左右にはまだ強い武将が居たわけですから、戦があると予想出来ます。戦には金がひつようなのでそこに目を付けました」


記者「凄い発想ですね」


「そうですか?自分がその立場ならどうだろうと考えると結構さらっと出てきますよ」


記者「しかし発見された物は土地の所有者がいる訳でして、その…」


「言いたい事はわかりますよ。俺は金を得る事は出来ないかもしれませんが、名前が残ります。名が残るなら俺の配信している動画チャンネルも又有名になるんですよ。恐らくこれで日本一の動画配信になれると思いますよ」


記者「と言う事は、これは自分への投資と考えても?」


「そうですね。これで日本だけでなく世界の動画配信者として知名度が上がるかもしれませんね」


記者「ありがとうございました」


「ありがとうございました」


対話人 都市伝説ハンターミヤギさん

記者 ココホレ ワンワンさん


そして最後に都市伝説ハンターミヤギの登録者数と、埋蔵金を掘り当てた時の動画視聴者数が記載されていたが、どちらもランキング一位を記録していた。


-


「安藤さん、ミヤギさん凄いね」


「凄いわね。根性が凄いと言った方がいいかな」


「俺も頑張らなくっちゃいけないな」


「鈴木君は大丈夫だよ。もっと有名になれると思うよ」


「ありがとう。そう言って貰えるだけで頑張れるよ。さあ帰ろう」


俺達はミヤギさんの勇士を胸に帰宅するのであった。


※歴史に関しては空想が入っていますのでご了承下さい。

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