第64話 64

64


場所は名古屋の一生笑顔スマイリー教の教団内部。

一人の男が居た。

頭を坊主にし服は白い薄い服を着て、頭にはアンテナが付いた帽子を被り笑顔えがお万歳まんさいの説法を真剣に聞いている。

説法が終わると笑顔えがお万歳まんさいが「スマイリー」と叫ぶと同時に男もスマイリーと叫ぶ。

心の底から「スマイリー!」と叫ぶ。

男は思う『最高』だと。


男の名前はジャーナリスト榊原さかきばら。Worhtless door』(価値のないドア)のサイトを運営している男だ。

東京にいた時に突然一生笑顔スマイリー教の者が現れ、半分脅しと思える方法で名古屋までやって来た。

しかし、笑顔えがお万歳まんさいの教えを聞き心を打たれ今現在に至るのだ。

そう、彼は知らない内に命拾いをしこれからの人生をここで約束されたのだった。


*


時は過ぎさらに一週間後、闇探偵シンより仕事を依頼した組へと連絡が入り、その事が黒服より浅原あさはらに伝えられる。


「ジャーナリスト榊原さかきばらですが現在名古屋にて消息が掴めず、名古屋には国際空港がある事から飛んだ可能性あり。さらなる追求には費用が掛かるとの事です」


浅原あさはらはその報告を聞き苦々しく思うが、分からない者を追いかけてもしょうがないので決断をする。


「ジャーナリスト榊原さかきばらの捜索は中止だ」


「かしこまりました」


黒服が浅原あさはらに頭を下げて部屋を退室する。


-


上手く行かない、何故今回は上手く行かないんだ!

いつもはなんの障害もなくやれていたのにどうしてだ!


浅原あさはらは髪の毛をきむしり、『はっ!?』と思った所で手を止める。


「落ち着け、落ち着いて初心に返り現状を把握するんだ」


浅原あさはらはまるで自己暗示を掛けるように、声に出し落ち着かせる。


まず第一に何故突然にこの私のリークが出たところからだ。

この世界にはことわざがある『毒は毒を持って制す』だ。


私のリークが出る一週間前までに何があったのか今一度整理する。

災害なし、政治問題なし、世界情勢問題なし、芸能…1件、如月きさらぎれいが名古屋で男と密会。

芸能人が男と密会程度では弱すぎる。これではないのか?しかし他が見当たらない。さらに掘り下げる。

男は学生…占い師…病気を占う?

病気?

占いで病気が分かる?

そんな訳…駄目だ、固定観念に掛かれば大事な事を見落とす。

ネットを検索する。

出た『シグナルスキャンの病気占い・あなたの体に隠れている病気を占いで発見します』


「フハハハハハ!」


ホームページを見ていた浅原あさはらは突然笑いだす。


「そうかこれを隠したかったのか!」


浅原あさはらは一人部屋で叫ぶ。

そうとなれば人をやって・・駄目だ、人は信用出来ない私自ら出向く必要があるな。


「誰かいるか」


浅原あさはらが声を上げると一人の黒服が部屋に入出する。


「御用ですか?」


「名古屋のシグナルスキャンの病気占いに行きたい。準備をしてくれ」


「かしこまりました」


黒服は一礼して部屋を退出したのだった。


しかし浅原あさはらの思惑通りに行かず、シグナルスキャンの個別詳細占いは予約が殺到しており予約が取れなかったのだった。それを知った浅原あさはらは又もや激怒するのであった。


*


時は過ぎ如月きさらぎれい週刊誌報道より1か月後には事態は収拾に向かった。


当然だがその間にいろんな事があった。

まず、メールフォームから芸能新聞記者からの取材が申し込まれたが、安藤さんはスルーして通り過ぎた。

流石に個別の5万円の所に申し込んで来る記者はいなかった。

と言うか、常に予約は満杯で入れなかったと推測する。

そして、店の外だが最初一週間はそれらしい?人が居たのだが、気づくと知らない間に消えていたのだ。

不思議な事もある物だと思った。

俺はそろそろと思い安藤さんに声を掛けた。


「安藤さん落ち着いてきたんじゃない?ネットニュースでも芸能欄から消えたし」


「確かにそうね。試しにショッピングモールの営業一件だけ入れてみる?様子見で」


「そうして見ようか。営業時間は午前中からの3時間程度でお願いしてもいい?」


「了解。近場で取って見るね」


そして俺達は1か月ぶりにショッピングモールの営業再開を果たした。

周りを警戒したが記者の姿もなく安心したのだった。

ちなみに店は大盛況だった。


そんな時に安藤さんの携帯に電話が掛かって来た。電話の相手は如月きさらぎれいのマネージャーからだった。

事務所として俺達に謝罪したいとの申し出があったが、安藤さんはそれならと言う事で事務所の健康診断の営業をさせて欲しいと申し出たのだ。

実は俺達はたぶんだが謝罪があるのではないかと予想をしていたのだ。その時に安藤さんから営業を申し入れて良いかと言われたので俺は問題ないと了承した。可愛い女優とかに会えるチャンスだしね。

安藤さんは会社の資金集めの為とか言っていたが、俺は安藤さんの携帯に大量にイケメン男性俳優の写真が保存してあるのを知っていて、目的は大好きな男性俳優に会うための口実と薄々気づいていたのだ。

そんな見え見えの営業だったがマネージャーが社長に聞いた所なんとOKが出て、俺達は日取りを調整して東京へと行く事にした。


-


東京出発当時、俺は安藤さんと名古屋駅で待ち合わせをした。

いつもは近くの駅から行くのだが何故か今日は新幹線の駅だったのだ。俺は不思議だなと思い待っていると安藤さんが現れた。俺はほんの一瞬だが安藤さんなの?と思った。理由は、顔とか髪がピカピカと言う表現が正しいのか分からないが輝いているのだ。

俺は直ぐに声を掛けた。


「安藤さん、なんか輝いているね」


「そっそう?いつもと一緒よ」


何故か安藤さんは俺から目を反らしてそんな言葉を発する。俺は少し面白く悪戯言葉を掛ける。


「安藤さん頬にゴミが付いているよ」


「嘘!昨日からエステに美容院と泊りがけで磨いたのに」


安藤さんはそんな事を言いながら鞄から手鏡を出してチェックしだした。

俺は女と言うのは凄いなと思いながら口を開いた。


「ごめん、見間違いだった。新幹線乗り場先行くね」


俺が歩き出すと安藤さんが文句を言いながらついて来た。


「ちょっと!なんで先行くのよ!待ちなさいよ!」


いつものプンプン安藤さんに戻ったので俺は合流し東京へと向かった。

これで少しは浮かれ気分が収まると良いなと思いつつ。


-


東京に着き俺達は如月きさらぎれいが所属する矢里手ヤリテ芸能プロダクションへとやってきた。

オフィスはビルの中にあり、二重に警備員が配備されている場所だ。

俺達が受付に行くとしっかり話が通ってたみたいで、スムーズに通行証を発行してもらい中へ入った。

中は芸能人がウロウロしているのではとも思ったが、残念ながら誰も歩いてはいなく俺達は奥の応接室へと案内された。そこには少し髭を生やしスーツを着た40代の男性が立っていて挨拶して来た。


「私、矢里手ヤリテ芸能プロダクション 代表取締役社長 市川いちかわと言いますよろしく」


市川いちかわさんは名刺を出し挨拶して来たので、俺は口頭で挨拶し安藤さんは名刺にて挨拶した。


矢里手ヤリテ芸能プロダクション 代表取締役社長 市川いちかわ

電話番号 000-86861616-04510-194

mail   yarite_geinou@ichikawa_pro_urikomuyo 』


そして俺達はソファーに座り話を始めた。


「今回の如月きさらぎれいの取材対応について、ご迷惑を掛けた事をお詫びします」


市川いちかわさんは初めに声を上げ頭を下げた。


「頭を上げてください。そもそも転んだれいさんをあたかも抱き着いているように報道したのが原因なので、市川いちかわさんが謝る必要はありませんよ」


安藤さんの返答だ。安藤さんは謝罪に対して波風を立たないようにいつもしている。理由は波風を立てても誰も喜ばないし、ビジネスとして利が無いと言っていた。


「そう言って貰えると幸いです。今日は提案のあった健康診断占いをして頂きますのでよろしくお願いいたします」


「はい、精一杯頑張ってやらせて頂きます。お願いします」


俺も安藤さんと同時に頭を下げた。

そして俺達は案内人により大きな会議室へと連れてこられた。

ドアを開けて中に入ると席にはズラリと芸能人だろうと思われる男女が座っていたのだ。

総勢で30人程度いるように思えた。

俺はチラリと安藤さんを見ると、安藤さんの目が輝いているように見えた。

あっこれ、安藤さんが使い物にならないやつだと俺は心に思った。

そして案内人の説明に寄り一人一人前へ出て来てもらい、占いをして説明を受け部屋を退出する流れとなった。


俺は占いをしながら芸能人を見ていたが、正直にテレビで見た事のある人はいなかった。俺が知らなすぎるのが原因だが。

そして占いの結果だが、全般的に肝臓にダメージがある人が多かった。

もしかして酒の飲みすぎ?と思ったが俺は原因を調べるのではなく、病気を調べるのが仕事なので敢えて詮索しないようにした。

そしてチョットしたトラブルが発生した。


占いを受けたのは顔は少し丸い程度だが体がかなりふくよかな若い女性だ。

俺が病気占いをしたのだが腹の辺りなのに、そこにはあり得ない病気が出て来たのだ。

俺は気になり女性になるべく小さな声で質問をして見たた。


「すみません。もしかして妊娠されていますか?」と。


すると直ぐに女性の顔色が変わり両手で口元を抑えた。

異変に気づいたのかサポーターの女性がやってきて俺に質問をして来たので、俺が経緯を答えると占いを中断して別室へと連れて行ってしまった。

俺はビックリと同時にこれは新発見だと思った。体内に居る幼児の病気まで見えてしまうからだ。

安藤さんはそんな俺に気づかずに、満面の笑顔で占い結果を説明していたのだった。

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