第39話 39

39


東京リリエ事件があってから1週間後の営業終了時に城島じょうじまさんが尋ねて来た。

恐らく例の事件の事だと思い俺達は城島じょうじまさんを裏のバックヤードに案内した。


「こんにちは」


「こんにちは、東京での不祥事私共の不手際があり本当に申し訳ございません」


城島じょうじまさんはそう言うと頭を下げた。


「頭を上げてください。事件は起こりましたが俺達の被害はゼロですよ」


「そう言って頂けると助かります」


城島じょうじまさんは鞄から少し厚めの茶封筒を机の上に置いた。


「これはなんですか?」


「迷惑料とでも思って下さい」


俺は茶封筒を手に取り中身を確認する。恐らくだが100万くらいは入っていると推測した。

そしてこうも思った。

なかった事にしろと言う意味だろうか…俺は確認する事にした。


「あの事件はなかったとの事ですか?」


「それはシグナルスキャンさんが思う事で、私共からは特に言う事はありません」


なるほど。言葉はいいようだな…ならば…。

俺も茶封筒を一枚机の上に置く。


「これは何ですか?」


「これは事件を起こしたリリエの簡易占い結果なのですが、私には不要・・な物となりましたので、城島じょうじまさんに処分・・してもらおうと思いまして」


城島じょうじまさんは茶封筒を手に取り中身を確認する。


「本当に私に処分を依頼するのですか?」


「ええ、俺には不要・・な物なので、城島じょうじまさんがどのように・・・・・扱ってもらってもかまいません」


「分かりました。責任を持って処分させて頂きます」


城島じょうじまさんが口元を少し緩めたような気がした。


「それから、東京の次は東北を予定していたのですが、例の事件があった後ですからこれ以上シグナルスキャンさん達に迷惑が掛かってはいけないとの事で、一旦停止させて頂きます」


「そうですか、それは残念ですね」


「又、時期を見て再開しますのでお待ちください」


「わかりました。後一つだけあの後の芸能事務所の大口おおぐちねねはどうなりましたか?」


俺はリリエが言っていた大口おおぐちねねの動向が気がかりで聞いて見た。


「存じておりません。今日はこの辺で失礼します」


それだけ言うと城島じょうじまさんは席を立ち、バックヤードを後にしたのだった。

いつも通りに多くを語らない城島じょうじまさんだが、逆に俺はそれ・・を知る必要がない事を幸福と思うべきなのか…あるいは…俺はいつも通り思考を放棄し現実へと帰る。

そして隣に居る安藤さんだが同様に事件について口を開く事はなく、淡々といつも通りの業務をこなしている。

俺と同様に思考を放棄?ではないだろうが、関わるといい事がない事を理解した上での行動だと思うのであった。


-


それから半年ほど経った頃、テレビではショートドラマのセカンドシーズンが放送されたが、そこに大口おおぐちねねの姿はなく、メインヒロインにはリリエが映っていたのだった。


そのテレビを見た安藤さんの感想は『うわっ!やっぱり・・・・芸能界、闇、ふか!』だった。


*


ある日の営業帰りの喫茶店で安藤さんがパソコンとにらめっこをしながらため息をついていた。

俺はそんな様子が気になり声を掛けた。


「安藤さんどうかしたの?」


「えっあっそうね、やっぱり報告した方がいいよね」


そう言うと安藤さんはパソコンの画面を俺に向けてくれた。

それはメールの受信ホームで一日置きに特定の人物からメールが送られてきていた。

発信元『宗教法人 一生笑顔スマイリー


俺は宛先を見た瞬間に嫌な所から目を付けられたなと思い安藤さんに確認した。


「これ毎日来ているけど内容は同じなの?」


「ええ、ほとんど同じよ」


俺は怖い物見たさで最新のメールを開いて見た。


『シグナルスキャン様 教祖様自らあなた様への面会を希望なされています。ご都合のよろしい日にお電話下さい。

000-8814-8814-04510-864 宗教法人 一生笑顔スマイリー


俺は見てはいけない物を見てしまったと、直ぐに安藤さんの顔を見た。


「鈴木君も見た通り、ヤバイでしょ」


俺は言葉を発さずに頭を上下に振る。


「私もたまに来るなら無視でいいかなと思ったんだけど、毎日このメールが届く物だから気になっちゃってね。それでどうしようか悩んでいたんだ」


「それよりこのメール、お仕事依頼じゃなくて俺に会いたいメールだよね。その裏を返せば能力のある俺を取り込みたいと言っているように見えるんですけど」


「そうよ。私もそう思うからこそ悩んでいるんじゃない。かと言って無視してもずっと付きまとわれる様な気もするのよね」


俺は思考する。

このまま無視すれば安藤さんの心身に影響が出る可能性がある。それじゃあ電話して簡単解決なんて絶対にならないと思う。ここは一度会ってきっぱりと断るのが筋だと決心する。


「安藤さん俺会うよ。非通知で電話して予約入れてよ」


「えっ!?本当にいいの?めんどくさい事になるかもしれないよ?」


「このまま放置しておく方が面倒な気がするしね。まあ、別に殺される訳じゃないし話をするだけだよ」


安藤さんは俺の言葉に納得が言ってない様だったが、連絡を取り教祖様に会いに行く事になった。


-


俺達は指定された住所へとやって来た。

そこは一面ぐるりと塀で囲まれた場所になっており、俺達の正面には壁に描かれた・・・・・・立派な赤い門があり、その横に一般家庭用で使われる引き戸があった。

一面の塀はスマホの地図アプリで確認済みだ。

俺達は扉の呼び鈴を鳴らす。


『ぴんぽぉーん』


ショボッ!

俺は心の中で叫んでしまった。

壁に描いてある門と言い、チャイムと言い金を掛けていないのがバレバレだった。


しばらくすると引き戸が開き女性が出て来た。

年齢は20代和服の着物姿なのだが、なんとなく生地が薄い気がする。

それよりは顔だ。

美人とか可愛いとかではなく満面の笑顔なのだ、気色悪いほどに…。

女性に安藤さんが声を掛けた。


「先日お電話させて貰ったシグナルスキャンと連れの者です」


「聞いております。どうぞ中へお入り下さい」


俺達は教祖様のすみかへ足を踏み入れるのだった。

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