第31話 31

31


俺達は大阪から帰って来て通常営業に戻った。

そんな時に俺達にとって招かざる客…いや、うっとうしい人間が現れた。

その男は客に紛れて普通に俺達の前に立った。

見た目は30歳くらいで口髭を生やしたお世辞にも普通に生きてはいないような男に見えた。


「こんにちは、俺はジャーナリストをやっている榊原さかきばらって者だけど、シグナルスキャンさんの占いについて話をしたいんだけど時間もらえないかな?」


俺は男の話を聞いた瞬間に『あっこいつは関わってはいけない奴だ』と直感が働いた。

そして俺はチラリと安藤さんを見ると安藤さんは少し不安そうな顔をしていた。

本来は安藤さんが対応するのだが、ここは俺が対応しようと思い声を上げた。


「申し訳ありません。只今、営業中なので営業後もしくは日を改めてもらえませんか?」


「おっいい返事だね。それじゃあ待たせてもらうよ」


俺はもしかして返答を間違えたのかもしれないと思ったが、口に出してしまった以上引きがれないので心の中で安藤さんに謝るのだった。


営業終了後すぐに榊原さかきばらは話しかけて来た。

それと同時に安藤さんも隣に寄り添ってくれて、一応の名刺交換から始まった。


『シグナルスキャンの病気占い

 あなたの体に隠れている病気を占いで発見します

 サポート役

 安藤 ゆうこ

 仕事依頼 yuuko_andou@mail.kawaiiyo.com

 電話番号 000-2525-04510-194 』


現在の安藤さんの名刺には電話番号が入っているのであまり交換はしてほしくはなかったが、もし何度も電話があるなら拒否すればいいと思い見守った。


『Worhtless door(価値のないドア)運営

ジャーナリスト

榊原さかきばら

電話番号 000-187-04510-194

mail   sakaibara@kachino_nai_hito_dayo 』


「それでシグナルスキャンになんの御用ですか?」


安藤さんのそんな質問から始まった。


「率直に言いますとシグナルスキャンさんの占いのカラクリを知りたいと思いましてねこうして訪ねて来たと言う訳ですよ」


俺は榊原さかきばらの話を聞いた瞬間に、こいつバカじゃないの?と思ったが安藤さんは大人の受け答えをした。


「そうですか、お話が以上ならお帰り下さい。あなたに話す義務はありませんので」


「そう冷たくしないで下さいよ。俺が面白いように記事を書けばシグナルスキャンさんの知名度はグンっと上がるんですから」


榊原さかきばらはニヤニヤと俺達をバカにしたような感じで語って来るが安藤さんは冷静だ。


「もう一度言います。お話が以上ならお帰り下さい。そして二度と私達の前に現れないで下さい」


そして安藤さんは榊原さかきばらに背を向けると俺の腕を引っ張り歩き出した。

俺はチラリと榊原さかきばらを向いたがそれ以上は追いかけて来る事はなかった。

そう、これが悪夢の始まりだ。

奴は俺達が営業している時に鬱陶しく付きまとって話しかけて来るのだ。

俺達は警察に相談しようかと話合ったが、実質的な被害がなく少し途方に暮れていた。

だが、安藤さんはいつか役に立つかもしれないと密かに榊原さかきばらの顔や全体の写真を収めて、さらにいつ俺達の前に来たかも記録して行ったのだ。

そんなわずらわしい中で一通の仕事依頼メールが届いた。


『差出人 厚生労働省 城島じょうじま真司しんじ


内容は占って貰いたい方がいるので一度話をしたいとの事だ。

安藤さんがメールでやり取りをして俺達は城島じょうじまさんに指定された喫茶店へと向かった。

向かう途中に電車の中で安藤さんから話しかけられた。


「今回会う人の事どう思う?」


「厚生労働省の事?」


「うん、国の機関のような所から本当に私達に依頼が来るのかなって思って」


安藤さんは少し不安そうな顔をしながら聞いてきた。


「俺的には肩書とか会社名とかはあまり気にしていないと言うのが本音かな。今の時代文字だけならどんな事でも書けるし、その文字情報で相手をコントロールする事が出来ると思うんだ。例えば名刺に弁護士とか書いてあったら、この人は弁護士なんだと言う固定概念に支配されると思わない?だから俺は名刺とかメールの差出人は苗字以外は信用しない事にしているんだ。例えば安藤さんが偽名を使ってそうだな岡田おかだと名乗ってたとする。でもある時突然本名の安藤と言われたら反応してしまうと思うんだ。だから苗字だけは俺は信用しているかな」


安藤さんは俺の言葉を少し考え答える。


「それじゃあ鈴木君は仕事をする時、何を基準で重要としているの?」


「俺は俺の能力に対してしっかりと報酬を払ってくれる事を一番重要としているよ。正直に相手が何処の誰であろうと、変な話悪人であろうとね。あっでも不正とかで手に入れたお金は駄目だけど。とにかく俺の中では人助けではなく金を稼ぐ事を第一目標にしているかな」


安藤さんが俺の言葉を理解したかは不明だが俺は自分なりの意見を述べた。

そして城島じょうじまさんの指定された喫茶店へと到着した。

店に入ると正面にレジカウンターがありそこに蝶ネクタイをした初老の男性が立っていた。

店の雰囲気はザ、昭和と言ったレトロな感じの雰囲気だ。

安藤さんはその男性に声を掛けた。


「11時からで5番テーブルをお願いします」


「かしこまりました。お飲み物はどうされますか?」


俺と安藤さんはコーヒーと紅茶を注文し男性に5番テーブルへと案内された。

案内された先の椅子にはメガネを掛けたスーツ姿の男性が座っていた。

歳は30代だと思うが不明だ。

俺達が椅子に座り安藤さんからの挨拶から始まった。


「はじめまして、こちらがシグナルスキャンで私はサポート役の安藤です」


城島じょうじまさんも挨拶し名刺交換が行われ、名刺にもメールと同様の事が書かれていた。


「今日はこのような場所までご足労願いましてありがとうございます。早速ですが占いについての話をさせて頂きます。私が懇意にしている先生・・を占って貰いたいのですが、その占いでどの程度まで病気がわかるのですか?」


俺は城島じょうじまさんが先生・・と言った事で一つ賭けに出る事にし安藤さんより先に口を開く。


先生・・と言うのは名のある方なのですか?」


「と、いいますと?」


城島じょうじまさんがメガネを右手でくいっと持ち上げ聞いてくる。


「いえ、実は俺達最近変なジャーナリストに追いかけられていまして、もしも先生と言う方が名のある方だと迷惑が掛かると思いまして聞いたんですよ」


「なる程、そう言う事だったんですね」


「ええ、そうです」


「もしも、仮にですが名のある方だとすれば依頼はどうされる予定ですか?」


「俺達は人に迷惑を掛けてまで金儲けをしたいとは思いませんので、その場合は依頼を辞退したいと考えています」


「そうですか、ちなみにそのジャーナリストと言うのはどのような方なのですか?」


俺は直ぐに安藤さんに目線を送ると、安藤さんはそれに気づき鞄から名刺とスマホを取り出した。


「こちらがジャーナリストの榊原さかきばらの名刺と、スマホで撮影した顔写真になります」


城島じょうじまさんは覗き込むように見てから聞いてきた。


「何故写真を撮影されたのですか?」


「実は警察に相談しようか迷っていたのですが、実質的な被害がないので証拠集めと言う意味で撮影しました」


「なるほど…」


城島じょうじまさんはしばし考えた後話し出した。


「もしよろしければ名刺と顔写真を撮影させて貰ってもよろしいですか?」


「ええ、問題ありません」


俺は賭けに勝ったような手ごたえを感じていた。

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