ショート劇場【ファンの在り方】

タヌキング

ファンのオプチャ

清純派アイドルの南川 アイナちゃんに不倫報道が舞い込み、私の所属する【南川 アイナちゃんを支える会】のオープンチャットは荒れるに荒れていた。


「マジ最悪」


「相手はマネージャーなんだろ?萎えるわ。」


「信じてたのに・・・もう誰も信じられない。」


「アイナを殺して、俺も死ぬ」


そんな書き込みが滝のように流れてきて、一時は目で追うのもやっとだった。

私もアイナちゃんのファンで、CDも買ったし、ライブにも2回行った。ライトなファンといった感じだが、そんな私ですら少なからずショックを受けている。

ここは一つ私も文句を書き込んでやろうか?

そんなこと考えていたら、チャット内に一つの書き込みが現れた。


「お前らバカか?ファンのくせに批判なんてしてんじゃねぇよ。」


私のスマホを操作しようとした手が止まった。

誰だろう?知らない名前だ。

オープンチャット内にアイナちゃんを批判していた人は少なくなっていたのか、まばらに「はっ!?誰だよ!?」「良い子ちゃんぶるな!!」とか書き込まれる。

その後で、またあの人が書き込みをする。


「月並みなこと言うけどよ、アイドルだって人間なんだよ、間違えもする。そりゃ俺だって不倫はショックだったけどよ。俺らの前じゃ汚いとこなんて一つも見せずに、綺麗なところばっか見せてくれてたじゃねぇか。そこに俺達は感動させてもらってたのは間違えねぇんだよ。だからそこに嘘はねぇ。この件でアイナちゃんはアイドルとしてダメになるかもしれねぇけどよ。最後まで支えるのがファンってもんじゃねぇのか?一回ぐらい裏切られたからってギャーギャー言ってないで、一人ぐらい温かい言葉かけてやれよ・・・ムカつくから、このチャットは抜けるけど、俺は俺で最後までアイナちゃんを応援する。アイナちゃんのことが大好きだからな。アバヨ。」


〇〇は退出しました。


短時間でここまでの長文を書き込んで退出するなんて、余程のコンピューターに精通した人なのだろうか?

それにしても・・・なんだか自分が恥ずかしくなった。ライトなファンといえどファンはファン。アイナちゃんの歌と踊りに元気と勇気を貰っていたのは確かなのだ。そのくせにノリでアイナちゃんに対しての批判を書き込もうなんて、自分の器の小ささが浮き彫りにされた感じだ。

チャット内は退出した人の批判ばかりが、ポツポツと増えていくが私はチャットを閉じ、前に買ったアイナちゃんのライブDVDを見ることにした。もう一度、彼女がくれた感動を思い出したくなったのだ。

私もファンの一人として、アイナちゃんを最後まで支えてみようと小さく決意した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ショート劇場【ファンの在り方】 タヌキング @kibamusi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ