第2話私と維人

「維人、見て!」


「あ、また何か描いたの、見せて!」


 維人は私から紙を受け取ると、私の描いた絵を嬉しそうに眺めた。


「これ、もしかして僕?」


「そう、かっこよく描けてるでしょ」


「やっぱり! うん、ありがとう!」


 三年前は、私は絵が完成すると真っ先に維人に見せていた。維人が喜んでくれるのが、とても嬉しかった。


「あ、カズのところに行く時間だ」


「あ、待って僕も行く!」


「早く支度しなさい」


「うん」


 カズは私の幼馴染で、家が近いこともあり、維人と三人で遊ぶことが多かった。


「今日もあのカッコいいの見せてくれるかな」


「そうね」


 維人と話しながら、カズの家へと向かう。カズは昔からダンスが好きで、毎日練習していた。そして、その練習の成果を私たちに見せてくれる。


 正直カッコいい。


 ピンポーン


 ガチャッ


「来たな」


「こんにちはカズ君!」


 維人の挨拶を横目に、私は軽く手を振った。


「よっ、維人、麻衣もあがって」


 維人がチャイムを鳴らすと、すぐにカズが扉をあけ出迎えてくれた。


「カズ君、今日もやるの?」


「いいぜ、このお菓子食ってからな!」


「うん!」


 維人は出されたお菓子を頬張り、私の絵を見るときのように目を輝かせていた。私たちはお菓子を食べ終えると、庭に移動した。そして、いつものようにカズの披露するダンスを眺める。


「相変わらず凄いわね」


 私はボソッと呟いた。維人も両手を握りしめ、前のめりになって見ていた。


 それからみんなで絵を描いたりして楽しく遊んだ。いつも三人で遊ぶのが当たり前だった。


 しかし、私が中学一年生になった時、維人と、弟と遊ぶことが少し恥ずかしくなっていた。


「おねえちゃん、どこ行くの?」


「んー、ちょっとね」


「あ、カズ君のところ? 僕も行く!」


「着いてこないで」


「あ、ちょっと待って」


 私は、弟が支度をしている間に家をでる。


「待って!」


 急いで支度を済ました維人も、慌てて家をでる。


「もう」


 私は煩わしくなり、維人を振り切るために走った。


「おねえちゃん、待って」


 維人が一生懸命追いかけてくる。男女の差があるとはいえ、私は中学一年生で、維人はまだ小学四年生。振り切るのは容易だった。後ろを向くと維人の姿はなかった。


「はぁ」


 カズの家への道は少し複雑で、維人一人では行けない。遠くで泣いている声が聞こえた気がしたが、私は構わずカズの家に向かった。


「あれ、今日は一人?」


「うん、まぁね」


 私はカズの家にあがると、いつものように絵を描いたりして楽しんだ。


「ただいま」


 私は家に着くと冷蔵庫の麦茶を飲もうとコップに注ぐ。


「おかえり、あれ維人は?」


「え、先に帰っていないの?」


「おかしいわね、麻衣と一緒に出掛けたものだと」


 私は注いでいた麦茶を置き、慌てて外に飛び出した。


「維人!」


 私は維人の名前を叫びながら走り回った。長いこと探したが、外はだいぶ暗く視界が悪いこともあり、維人を見つけることはできなかった。


 私はひとまず家に帰ることにした。私が慌てて飛び出したあと、お母さんも警察に電話をしてくれていた。少ししてから警察から、迷子になった維人が保護されたと連絡がきた。親切な人が迷子になった維人を、警察につれていってくれたそうだ。


 警察署まで迎えに行くと、維人が泣いていた。


 私はその姿を見て、自分がカズの家で楽しんでいる中、維人は一人寂しい思いをしていたことを認識し、心臓が握りつぶされそうな感覚になった。


 維人に特に怪我はなかった。しかし、この日を境に私と維人の関係は歪なものへと変化した。

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