第9話
デートの翌日。
学園に降り立ったアリシアを待っていたのはゴードンとノーリッツだ。背後に槍を持った衛兵を従えた二人は物々しい雰囲気でアリシアを取り囲んだ。
「アリシア! 貴様を捕縛する!」
「……何を言い出すかと思えば。グ、ゴードン殿下は空っぽの頭にお酒でも注ぎましたの?」
「不敬罪だ! おい、捕まえろ!」
「いつ、どこで、どんな不敬を働いたのか証明してみてくださいな。……それが可能な知能があるなら」
「そういうところだッ! 何不思議そうに首を傾げてるんだッ!」
「落ち着いてください殿下。もうアリシア嬢の命運は尽きました。あとは裁判に恐ろしい拷問……最終的には縛り首が待っているのですから」
安っぽい脅し文句はどこかエリスに通じるものがあるが、可愛い妹だからアリシアも許している──かどうかは微妙だがトドメを刺さないのであって、友達のストーカー相手に手加減をする理由など無い。
アリシアの視線が冷えていくことに気付かず、ノーリッツは勝ち誇った笑みを見せた。
「もっとも、ゴードン殿下と婚約するならば温情をかけることもやぶさかではありませんが」
「ハァ……昨日は徹夜で眠たかったのです。貴賓牢に案内してくださいな」
「正気かお前!?」
「ええ。殿下の奇行に付き合わされたとなればあらゆる予定をキャンセルする良い言い訳になります」
軽く伸びをして衛兵に視線を向ければ、厳めしい顔をした兵士が顔を真っ赤にして目を逸らした。
「ぐっ……き、貴様に貴賓牢などもったいない! 死刑囚用の地下牢で十分だ!」
「うら若き乙女を鎖につなぐのはあまり健全なプレイとは言えませんよ?」
「何の話だ!?」
「何のって……殿下の性癖では?」
「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
バリバリと頭を掻き毟り始めたゴードンを見て、アリシアはさも心配してるかのように繭を寄せた。
「御乱心ですわね。私を捕まえてないで殿下を転医の元に連れて行った方が良いのではなくて?」
「ふふん、むしろ殿下が錯乱したのは僕には都合の良いことです。……殿下の権力を使ってリズ嬢の前で恥を掻かされた恨み、晴らさせてもらいますからね!」
「小物ムーブここに極まれり、ですわね……あ、言ってる傍からリズさん」
「そんな見え透いた嘘に騙されたりはしませんよ。リズ嬢の登校時間はもう少し後です」
「……衛兵さん。無罪の私を捕まえるより、そこのストーカーを捕まえるべきじゃありませんか?」
「誰がストーカーですかッ! 衛兵も悩んでるんじゃあない!」
「いやどう考えてもストーカーじゃないですか」
「同じクラスだから何時ごろに教室に来るか知ってるだけです! クラスメイトで親しくしていれば自然と分かることなんです!」
「うわ、親しいとか捏造しだしましたわね。しかも自然と生活リズムを把握するなんて、。ナチュラルボーンストーカー……?」
「ぐぐぐっ……その威勢がいつまで続くか見物です。拷問は想像を絶するものになると覚悟してくださいね。ああ、リズ嬢と僕の仲を取り持ってくれるならば手心を加えてさしあげます」
「だそうですわよ、リズさん」
「だから、リズ嬢が来るのはもう少し後……な、何でリズさんがここに!?」
驚愕するノーリッツの視線の先には、汚物を見るような表情のリズが立っていた。
あからさまにノーリッツから距離を取りながらもアリシアの元に駆け寄るリズ。
「名前を呼ばないでください気持ち悪い……アリシアさん、大丈夫ですか!? 私が待ち合わせに遅れたばっかりにごめんなさい!」
「謝らないでリズさん。まさかリズさんを手籠めにするために私を脅しにかかるなんて、誰にも予想できません。ましてや何もしていないのに不敬罪なんて」
「不敬罪!? 品行方正なアリシアさんに限って、そんなことをするはずありません!」
「で、ですがリズ嬢……アリシア嬢はこともあろうに殿下に向かって『頭がからっぽ』『中に酒を注いでいる』などと侮辱したのですよ?」
「ええ、確かに言いましたが。どこが侮辱なのです?」
「はぁ!?」
「だって私、殿下の頭の中なんて見たことありませんし。もしてかして、二人はお互いの頭の中を見せあう仲なんですか?」
「どういう仲ですかッ!?」
「リズさんごめんなさい……徹夜で書いた続編のプロットなんだけれど、新設定を加えたいから相談に乗ってもらっても良い?」
「ええ、もちろんです」
ノーリッツのメンタルが限界に近付いたところで、戦線離脱していたゴードンが復帰した。
「リズ嬢。その女を庇うと貴様も不敬罪で地下牢にぶち込むぞ。鎖に繋がれたくなければ黙っていろ」
「鎖……」
「ああそうだ! 手足には冷たく硬い鎖。身動きなど取れない上に、トイレは壺だ。どれほどの屈辱になるか想像してみるんだな」
「……殿下はずいぶんお詳しいのね。鎖に繋がれた時の感触まで」
「鎖プレイが好きとは言っていましたけど、まさか自分が縛られる方で……?」
「貴様ら、何をヒソヒソしているか!」
「「となるとお相手は」」
二人そろってノーリッツに視線を向ければ、ギリギリだったメンタルがついに限界を迎えた。
「ヒッ?! ぼ、僕は関係ありません! 本当に関係ありませんからね!」
「ノーリッツ、貴様どこへいく!」
「うわぁぁぁぁぁもう嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
走り出したノーリッツを追って殿下もいなくなる。
「……ウケが追う……?」
「もしかして、立場を利用して無理矢理セメさせているだけで実はノーリッツさんも……ということかしら」
「アリシアさん、その解釈について詳しく聞かせていただいても」
「ええ。そのためにお呼びしましたの。まずは昨夜考えたプロットについて──」
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